第14話 「志道君は隠してないよ」

 一瞬でも侑志がクラスメイトから糾弾されている姿は見たくないと、侑志のカバンの上にスマホがあったことを包み隠そうと思った俺がバカだった。


 本当に侑志が橘のスマホを隠したかどうかは定かではないが、侑志のカバンの上に橘のスマホがあったのは紛うことなき事実なのだから、まず最初に疑われるべきは侑志のはず。


 それなのに、侑志は俺に罪をなすりつけることで、クラスメイトの疑惑の目を俺へと移行させた。


 侑志が俺のような友達の少ない人間で、クラスメイトからの信頼が薄い生徒であれば、俺に罪をなすりつけるのは簡単な話ではない。


 しかし、侑志はクラスメイトからの厚い信頼を得ており、そのことを侑志自身も理解している。


 そんな自分の立場を上手く利用し、俺への罪のなすりつけをいとも簡単にやってのけた。


 そして罪をなすりつけられた俺は、クラスメイトからの疑惑の目に晒されており、なんとかして疑いを晴らさなければならなくなった。


「俺のカバンの上に橘のスマホを置いて、俺に罪をなすりつけようとでもしたんだろ」


 いやなすりつけてるのはどっちだよ。


 侑志が橘のスマホを奪っていたのが事実だったとしたら、侑志の人間性を疑いたくなる。


 というかもう随分と前から疑ってるんだけど。


「なっ、そんなことするわけないだろ。そんなことする理由が無いし」


「……俺たち昔から仲悪くて喧嘩ばっかしてたよな。喧嘩をするたび家にあったスリッパを投げ合ったり、取っ組み合いの喧嘩をしたこともあったっけか。そんな俺が、死んだ魚のような目をして毎日をつまらなさそうに生きている志道と違って、学校で大勢の友達を作って楽しそうにやってるのが腹立たしかったんじゃないか?」


「別に腹立たしくなんてねぇよ」


「そんなはずはない。そうじゃなかったら橘のスマホを隠すはずがないじゃないか」


「いやだから隠してないって」


「そもそも普段教室の隅で静かにしてるような人間が、こんな時だけ積極的にスマホを探すってのも変だろ」


「なっ、それくらい俺だって--」


 反論しようとして、俺は気付いた。


 クラスメイトが完全に俺のことを犯人だと思い込んでいることに。

 どれだけ反論をしたところで、クラスメイトからの疑いが晴れることは無いことに。 


 最初はただ疑いの目を向けられているだけだったはずなのに、俺と侑志の会話を聞いて、クラスメイトの考えは俺が犯人であるという方向に完全に傾いてしまったようだ。


「っ……」


「ほら、黙り込むってことはそういうことだろ」


 違う。俺はただ、この状況を覆せないということを悟ってしまっただけで、決して自分の罪を認めたわけではない。


 それでも、もうこの状況を覆せるような作戦はもう思い浮かばないし、打つ手は無い。


 あぁ……、短かったなぁ、俺の高校生活。


 俺が橘のスマホを盗ったという誤情報が教師に伝われば、謹慎は免れないだろうし、最悪大学の可能性まである。


 仮に謹慎で済んだからと言って、クラスメイトのスマホを盗んだ奴という烙印を押されてしまい、平穏な生活を送ることは難しいだろう。


 そうなったら、自分で学校を去る、不登校になるしか無い。


 やっぱり侑志と同じ学校にはこなければよかった。


 侑志と同じ学校に来るからこんなことに--。


「志道君は隠してないよ。明里ちゃんのスマホ」


 もうこの状況は言い逃れできないと、不登校を覚悟した時、声を発してくれたのは俺と一緒にスマホを見つけた新那だった。

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