第13話 「隠したんじゃないのか?」

 橘のスマホが侑志のカバンの上に置かれていたのを発見した俺は、この状況を報告するべきかどうか悩んだ。


 侑志のカバンの上に橘のスマホがあったことを報告すれば、間違いなく侑志が犯人扱いされるからだ。


 どれだけ仲が悪いとはいえ、腐っても侑志は俺の兄だ。


 兄がクラスメイト全員から疑われ、糾弾されるシーンを見たいと思う弟なんていない。


「どうするの? 別にこのまま言わずにどこかその辺に落としておくこともできるだろうけど」


 新那の言葉に俺の心は一瞬揺らいでしまう。


 しかし、この事実は包み隠していいものではない。


「そうだな……。でもこれはちゃんと報告するべきな気がする」


「そうだね。私も椎名のカバンの上にスマホがあったとしたらそうするかな」


 新那から背中を押してもらった俺は、兄を売ることを心苦しく思いながら手を挙げて発言した。


「みんな、見てくれ」


 普段目立たないように生きている俺がクラス中の視線を浴びるような行動をとったので、クラスメイトの視線は一瞬にして俺へと集められる。  


 これ程注目されるのは久しぶりなので、一瞬その雰囲気に気圧されながらも、俺は見つけてしまった事実を伝えた。


「どうした志道」


 侑志 目を細めて俺を睨む。


 俺に『無駄なことを言うなよ』とでも言ってきているようだったが、俺は喋るのをやめない。


「……侑志のカバンの上に橘スマホがあった」


 俺の言葉に教室中が一気にざわつき出す。


 そしてあちこちから聞こえてくるのは侑志に対する疑念の声だ。


『えっ、侑志のカバンの上に?』


『橘のスマホ盗ったのは侑志なのか?』


『自分で盗っておいて橘に声かけてたのか?』


 一気に疑惑の目に晒された侑志は、気のせいかもしれないが狼狽えているように見える。


 まさか本当に盗ったなんて言わないよな?


「……みんな、聞いてくれ」


 普段より少し低い威圧感のある声で侑志は教室内のざわつきを一瞬で静まり返らせた。


 一瞬狼狽えているように見えた侑志だが、すぐにそんな雰囲気は消え去り、堂々とした雰囲気を醸し出している。


 普通の人間なら自分が橘スマホを盗っていなかったとしても、疑惑の目を向けられれば狼狽え声さえ出なくなるかもしれない。


 それなのに、侑志はどれだけ疑惑の目を向けられてもドンッと構えて焦る様子を見せはしない。


「まず最初に言わせてもらうが、俺は橘スマホを盗っていない。俺は椎名たちとこの休み時間中ずっと喋っていたし、橘がトイレに行く前はスマホが机の中にあったことを考えると、椎名たちと一緒にいた俺が怪しいってことは絶対にない」


 侑志の話を聞いたクラスメイトたちはその内容に納得し、一瞬で侑志に対する疑惑の目はなくなった。  


 確かに侑志の言う通り、侑志はずっと椎名たちと一緒にいたので怪しくはない。


「じゃあ誰がなんの目的で隠したっていうの?」


「誰が隠したかなんてわからないし目的だって見当もつかないさ。でもわざわざ俺のカバンの上に橘のスマホを置くってことは、俺に恨みがある人間だろうな」


 侑志の話には、侑志のことが嫌いな俺でさえ納得させられる。


 それにしても、侑志程クラスメイトから人気がある人間を恨んでいる奴なんてこのクラスには--。


「志道、お前が橘のスマホを隠したんじゃないのか?」


「……は?」


 侑志からの大カウンターに、俺は空いた口が塞がらなかった。

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