【兄姉のピンチ】
第11話 「ない!」
「おはよー」
博司と会話をしている俺に登校してきた新那が挨拶をしてきて、俺も同じように挨拶を返す。
新那とは教室内で積極的に会話はしないものの、朝と帰りの『おはよう』と『また明日』だけは毎日欠かさず交わしていた。
あと学校で会話をするといえば、毎日ではないがお昼休みに行く校舎裏のベンチでの会話くらいである。
帰宅後のLIMEでのやりとりも毎日欠かさず行っている。
特に面白い話をしているわけではなく、ただ延々と世間話を繰り広げているだけなのだが、それでもつまらないと感じたことは一度も無い。
いつの間にか新那は、俺の生活の一部となっていた。
「シドと双見妹ってどんな関係なんだ?」
「どんな関係って言われても、ただのクラスメイトとしか言いようがないけど」
入学式から一ヶ月が経過し、ある程度クラスの人間関係も構築された。
人とコミュニケーションを取るのが好きでもなく嫌いでもない俺は、ある程度のクラスメイトと会話をしたくらいで、特に仲良くなった人物もおらず、結局博司と二人で毎日を過ごしている。
「でも毎日シドに挨拶してくるのって双見妹だけだろ? 何か関係があるのかと思ってさ」
「別に、普通に喋ったりするクラスメイトだよ。まあ強いて言うなら新那も双子だからな。その辺でシンパシー感じてる部分はある。向こうもそうなのかもな」
「まあ確かにそれはあり得るか」
博司が俺と新那の関係性を気にするのも無理はない。
女子と関わりを持つことなんてほとんどなかった俺が、急に新那という美少女とたまに会話するくらいの仲になっていたのだから。
新那との関係を隠そうとしているつもりはないが、自ら誰かに話すつもりはない。
侑志と椎名の弟と妹ということもあり、俺たちの仲がいいとなれば多少は話題になるだろう。
その話が侑志と椎名の耳に入ると厄介なので、新那とは教室内ではあまり会話をしないでおこうという話になった。
もし俺たちの仲がいいことを気付かれてしまうと、椎名と侑志から嫌がらせを受ける可能性があるからな。
「僕はお前が心配だよ……。僕以外まともに友達も作らないし、結局侑志とは仲直りできずだし」
「それは何回も言ってるだろ。関係を修復しようとしたけど無理だったって」
「まあそうなんだけどさ。それだけじゃあ心配はなくならねぇよ」
「大丈夫だって。別に仲悪くたって死ぬわけじゃないんだから」
大丈夫だとは言いながらも、大丈夫ではない部分もある。
入学してから一ヶ月、侑志は相変わらず自分の評判を上げるために、俺の悪口を広めたり、俺が日直の時に先生に持ってくるように言われたクラス全員分のノートを数冊隠したりと、その嫌がらせの回数はもう両手で数えられない程には増加している。
それだけ嫌がらせが増加していけば、大丈夫だと強く言い切ることはできない。
それでも、侑志からの嫌がらせに耐えられているのは新名の存在があるからかもしれない。
新那がいなかったらどうなってただろうな……。
「まあそれならいいけどさ。シドと違って侑志は相変わらず驚くくらいみんなから人気だし」
「まあそれはもう当たり前のことだからな」
こうして博司と会話をしている間も、侑志の周りには輪ができている。
その中心にいるのは侑志と椎名だ。
他人を蹴落として自分があの立ち位置に行くことがそんなに嬉しいかね……。
「ない!」
クラス中に突然響き渡ったクラスメイトの女の子の声。
その声に真っ先に返答したのは侑志だ。
「どうした?」
「ウチのスマホがない!」
おっと、これは入学して一ヶ月にして大問題発生か?
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