第10話 「可能性があるんだからね⁉︎」
翌日の昼休み、俺は校舎裏のベンチで新那を待っていた。
昨日分かったことは、やはり侑志とは絶対に仲直りができないということだ。
クズ兄貴だとは思っていたが、まさかあそこまでクズな奴だとは思っていなかったな……。
「お疲れー」
「いやーやっぱりダメだったな」
「うーん……。椎那も大概だけど、侑志君も大概クソだったね」
実は昨日侑志と話している間、俺は新那と電話を繋いだスマホをポッケに忍ばせていた。
色々話し合って、実際俺と侑志の会話を新那にも聞いてもらった方が今後の対策も考えやすいだろうという結論に至ったからだ。
しかし、それが最悪な展開を引き起こしたことは、もう理解できているのではないだろうか。
「そうだろ。仲直りしようとした俺がバカだったわ……。てかごめん。えっと……」
「やめてっ! 気まずくされると余計に傷つくから! はっきり言ってやってよもう! でもお気遣いありがとう!」
「……ごめん。侑志が新那の胸が小さいことを馬鹿にしたみたいで」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。恥ずかしいしもう死にたいくらいの気分なんですけど⁉︎ まあ事実だし否定はできないんだよね……。それにどのみち椎名が言いふらしていつかは志道の耳にも入っただろうし」
確かに姉の椎那と比較すると、新那はかなり小さいほうではあると思うが、ないわけではないからな。
そこまで悲観する必要は無いと思う、うん。
「い、一応ね? 志道には理解しておいてもらいたいんだけどね? まだ発展途上なだけだからね! 大体高校に入学したばっかであんなに大きい椎名が異常なのであって、私はまだこれから大きくなる可能性があるんだからね⁉︎」
「……ああ。わかってるよ。同じクラスの奴らだって、椎名くらいでかいやつなんて一人もいなかったしな」
「……ちゃんと確認してたんだ」
「そ、そこは別にいいだろ⁉︎ 必死にフォローしてるんだから!」
「ふふっ。まあとにかく、やっぱり私たちが無理にお兄ちゃんお姉ちゃんと仲良くする必要はなさそうだね」
「ああ。間違いないな」
今回侑志に歩み寄ろうとして失敗に終わったが、歩み寄ろうとしたことを後悔はしていない。
また侑志のクズさを理解できたのだから、それだけでも歩み寄ろうとしたことには価値があったと言える。
「てか大丈夫なの? なんか最後の方でとんでもない音が聞こえてきたんだけど」
「あー……。うん。大丈夫。ちょっと侑志に投げ飛ばされただけだから--いった⁉︎」
新那は、俺の背中を軽く叩いた。
普段ならまったく痛くないであろう力で叩かれたのに、昨日侑志に思いっきり投げ飛ばされたせいでその痛みは何倍にも増幅されている。
「嘘はよくないな〜」
「ぐぬぬ……」
「ほら、背中さすってあげるから。特に変わらないだろうけど」
「あっ……ありがとう」
新那が俺の背中に触れると、なぜだか少しだけ痛みが和らいだような気がした。
なぜあのクソである姉と、この優しくて可愛いい女の子が同じ家庭環境で生まれてくるんだろうな。
不思議すぎる。
いやまあそれは俺の家も同じだけど。
「ありがとね。私のために怒ってくれて」
「べ、別にそういうわけじゃ」
「嬉しかった」
そう微笑む新那の表情に、俺は思わず見惚れてしまった。
「な、ならよかった。とりあえずありがとな。相談乗ってくれて助かった」
「どうってことないよ」
「これからもよろしく頼む」
「こちらこそっ」
侑志と仲直りをすることはできなかったが、俺と新那の仲は少しだけ深まったような気がした。
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