第6話 「『ちょっとだけ楽しみになった』」

 入学式を終えて帰宅した俺は、寝る準備を終えてベッドに入っていた。


 俺が住んでいるのは3LDKのマンション。


 そこまで広いというわけではないが、侑志と部屋が別々なのだけは助かっている。


 中学時代の同級生に兄貴と自分で一つの部屋を一緒に使っていると言っていたやつがいたが、そんなの絶対に耐えきれないだろう。


 ベッドに入った俺が眺めているのはスマホの画面。


 スマホでトークアプリのLIMEを開き、新那のホーム画面を開いていた。


 連絡先を交換したはいいものの、今後本当に新那と連絡を取り合うことなんてあるのだろうか。


 新那が双子という事実に舞い上がってしまい、馴れ馴れしく話してしまった気がするが、冷静になって考えてみればいくら双子同士だからとはいっても今後俺たちの関係が継続していくかどうかは怪しい。


 実際連絡先は交換したものの、二十一時を回っても新那から連絡は何もないわけだし。


 クラスメイトなので多少関わることはあったとしても、友達にはなれないのかもしれないな。


 ……というか、連絡先を交換したんだしこっちからトークの一つでも送るべきなのではないか?


 このまま何もトークを送らなければ、明日新那と教室で顔を合わせた時に『最低』と罵られてしまうかもしれない。


 いや、まあ流石に最低と言われることはないだろうが、『なんで送ってくれなかったの?』くらいのことは言われる可能性があるだろう。


 ……うん、そうだな、そうだよな。


 俺から新那にトークを送ろう。それが礼儀ってもんだろうしな。


 は? ただ新那とLIMEがしたいだけじゃないのかって?


 そんなわけないだろ。これは礼儀なんだから。


 よし、とりあえずは『お疲れ』から送ればいいだろう。


 そう考え、俺が新那とのトーク画面を開くと、その瞬間、新那からトークが送られてきた。


 新那『お疲れっ』21:06


 俺のスマホに唐突に送られてきた天川からの「お疲れっ」のセリフ。  


 新那からトークが送られてきたことは素直に嬉しかったが、その嬉しさよりも、送られてきた瞬間に既読をつけてしまってことに俺は焦っていた。


 まさかこんなタイミングでトークが送られてくるとはな……。


 新那『あれ、まさかの速攻既読?』21:06


 新那『ずっと私とのトーク画面開いちゃうくらい私のこと好きなの?』21:07


 新那『わかる、わかるよ私って可愛いしね』21:07


 若干おちょくってきているにことに腹が立つが、まあ俺が新那の立場でも、トークを送った瞬間既読がつけば同じようにおちょくりたくなるかもしれない。


 これ以上新那に好き勝手言われるわけにはいかないので、俺は事実を伝えた。


 志道『丁度今日のお礼を言おうと思ってたんだよ』21:08


 新那『なるほど』21:08


 新那『そういうことにしといてあげる』21:08


 そういうことにしといてあげる、というか事実がそうなんだが……。


 まあ気にしないでおこう。


 志道『ありがとな』21:09


 志道『話聞いてくれて』21:09


 新那『こちらこそだよ』21:09


 新那『私もお礼するためにLIMEしたし』21:10


 これまで俺が受けてきた仕打ちを新那に話したことで、俺の心はかなり軽くなった。


 新那も俺と同じように心が軽くなったのなら、そんなに嬉しいことはない。


 新那『学校行くの全然楽しみじゃなかったんだけどね』21:11


 新那『志道のおかげで学校行くのちょっとだけ楽しみになった』21:11


 --っ。


 新那から送られてきたLIMEを見て、俺は思わず頬を綻ばせた。


 まさか出来損ないの自分が、こうして誰かの役に立つなんて思っていなかった。


 それから俺は自分が同じように返信をするのは恥ずかしいと思いながらも、同じようにLIMEを送って眠りにつくことにした。


 志道『俺も学校行くの楽しみになったわ』21:12

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