第5話 「……椎那ちゃんがいるから?」

「入学式はちゃんと出ないとダメだよ?」


 教室に入るなり、私にそう声をかけてきたのは中学時代からの親友、一井百香いちいもかだ。


 百香は気弱な性格で、引っ込み思案ではあるが、どんな相談でも自分のことのように悩んでくれる唯一の友達である。


「いやーちょっと教室にいづらくってさ」

「……椎那ちゃんがいるから?」

「……うん。やっぱり同じ高校に来るのやめとけばよかったかな」

「お姉ちゃんがいるかいないかでいく高校決めるなんてもったいないよ。椎那ちゃんも賢いけど、新那ちゃんだって同じくらい賢いんだから、いい大学に進学するためにはこの高校じゃないと」


 中学時代、私は椎名とは別の学校に行こうと思っていた。


 しかし、百香の熱心な説得があって椎那と同じ高校に進学することを決めた。


 百香から口酸っぱく言われていた『自分の人生を他人に左右されるべきじゃない』って言葉が胸に響いたことが、椎那と同じ高校に通うことを決めた最大の要因である。


 とはいえ、やはり嫌なものは嫌なわけで。


「そうだね。ありがと百香」

「……えっ、ねぇあれ見て」

「え?」


 百香に言われて百香の指差す方向を見ると、椎那が志道の机の前にいて、何か一言喋ってそのまま席に戻っているのが見えた。


 何を言っていたのかはわからないけど、あの顔は完全に、何か悪巧みをしている時の顔だ。


 椎那が志道の元に行く前に気づいていれば止められたかもしれないけど、気付くのが遅かった。


 志道の元から離れていく椎名は、自分が元々いたと思われる集団へと戻っていく。


 その集団の中心には椎名と、志道の兄、侑志君がいた。


 侑志君、志道が言うには最低のお兄ちゃんらしいけど……。


 ん?


 あれ、なんか私、今侑志君と目が合ってる?


 いや、合っているような合っていないような、若干侑志君の視線は私の目よりも下に向けられているような。


 そう思った瞬間、侑志君は両手を広げて首を傾げた。


 その行動を見た瞬間私は理解した。


 侑志君は、私の胸が小さいことを馬鹿にしているのだと。


 恐らくは椎名が私の胸が小さいことを話して、私の胸に注目が集まったのだろう。


 私の胸が自分より小さいと椎名が私を揶揄うようになったのは中学の頃から。


 やはり椎名と同じ学校には入学するべきではなかったかもな……。


 志道の話を聞いていただけで確証はなかったが、やはり侑志君はかなりのクズらしい。


 志道君も大変だな。


 志道君に同情すると同時に、私は勝手に自分と同じ状況の人がいると知って心強さを感じていた。

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