【兄姉の悪事】
第4話 「ちょっとは侑志君に似てるかな」
『おまえら、入学式はちゃんと出なきゃだめだyo!』
入学式が終わって教室に戻った俺と新那が担任である
こっぴどくとは言いながら、三羽先生はかなり陽気な先生で、怒られているという感じはしなかった。
なんかずっと語尾に『yo!』ってつけてたし。
三羽先生からの説教? に耐えた俺たちは、職員室から教室へと戻るため横並びで歩いていた。
「やっぱり怒られちゃったね」
「入学式すっぽかしてりゃそりゃ怒られるわな」
「はぁーーーーっ。教室戻りたくないなーーーーっ」
「同じく。とはいえ流石に戻らないとな。このまま教室に戻らないと不登校になっちまいそうだし」
「不登校はやだね。流石に高校は卒業しときたいし」
不登校だなんて縁起でもないことを言ってはいるが、あながちあり得ない話ではない。
というか、俺も新那も中学時代よく不登校にならず卒業したもんだよな。
「あーあ。教室到着しちゃったか。それじゃねっ、志道君。気楽にいこう!」
新那はそう言って俺に満面の笑みを見せながら自分の席へと戻って行った。
今のは新那なりに俺を勇気づけようとしてくれたのだろう。
……よし、頑張るか。
そう気合を入れて俺は自分の席へと戻った。
休み時間は残り五分程で終了なので、侑志の姿を見ないようにスマホでもいじって時間を潰そう。
そう思っていた俺だったが、やはり侑志は俺の視界に入ってくる。
同じ高校で、同じ教室ともなれば視界に入れないなんて無理な話だわな。
侑志の周りは相変わらず人まるけで、それを見るだけで嫌気が……。
あれ、待てよ?
もしかして侑志の隣にいるあの女の子……、新那の姉ちゃんか?
顔は似ているというわけではないが、その雰囲気はなんとなく新那に似ている。
いや、なんというか、こんなこと言ったら新那に怒らられるかもしれないけどマジで可愛いな。
拳サイズ程の小さな顔(言い過ぎ)に、五百円玉くらいありそうな大きな目、スッと通った鼻に、可愛らしくちょこんと添えられた唇。
あれは誰がどう見たって可愛いと言ってしまうだろう。
あの顔で文武両道ときたら、モテないはずがない。
そりゃ新那も入学式すっぽかしたくなるわ。
……え、ちょっと待て。
今俺新那の姉ちゃんと目が合ってないか?
そう思った瞬間、新那の姉ちゃんは俺の席へと歩いてきた。
え、ちょ、ちょ、なんだよこれ。
絶対俺の方に歩いてきてるよな?
頼む、こっちにくるなこっちにくるなこっちにくるな。
…‥そんな俺の願いも虚しく、新那の姉ちゃんと思われる人物は俺の席の前に立った。
え、なんか俺顔舐め回すように見られてない?
これ俺から声かけた方がいいやつ?
「ふ〜ん。確かにちょっとは侑志君に似てるかな」
「……は?」
「それじゃあね。弟君」
「え、ちょっ……」
新那の姉ちゃんは、たった一言だけ言い放って俺の席を後にした。
俺にとって、『ちょっとは侑志君に似てるかな』という発言は屈辱的なものだ。
『ちょっとは』という発言は、俺が侑志より劣っていることを前提にした発言で、俺を貶すための言葉だ。
『ちょっとは似てる』というのは逆に考えれば、『ちょっとしか似ていない』とも言い換えられらのだから。
それに、そもそも俺は侑志と比べられるのが嫌いだ。
これまでの人生で何度も侑志と比較される人生を送ってきたので、些細なことであっても侑志と比較されるのは腹が立ってしまう。
あの女、新那のいう通りろくな女ではない。
そして侑志の輪に戻った新那の姉ちゃんは、俺が侑志とちょっとしか似ていないことをその輪の人間に伝えたのだろう。
侑志を囲んでいた複数の生徒が一斉にこちらを向いた。
そして俺の顔をしばらく見てくすくすと笑い出した。
それは俺がこれまで何度も経験してきたこと。
だから嫌だったんだ。侑志と同じ学校に通うなんて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます