【兄への歩み寄り】

第7話 「人気じゃないって言ってるようなもんなんだが?」

「お相変わらず人気だね。お兄ちゃんの方は」

「……今の発言、何気に俺は人気じゃないって言ってるようなもんなんだが?」


 入学式の翌日、朝から声をかけてきたのは中学時代からの親友、高坂博司こうさかひろしだ。


 博司は俺と同じ中学から、唯一同じ高校に進んだ友達である。


 侑志が人気だからといって、俺だって友達がいないわけではない。


「実際そうじゃないか。人気度だけ比べたら天地の差だろ」

「博司だって俺と同じくらい人気無いだろ」

「博司って名前で呼ぶなって何回言ったらわかるんだ。苗字で呼ぶか、せめてヒロって略して呼んでくれ。どこぞの足臭サラリーマンと同じ名前だって茶化されるじゃないか」

「わざと名前で呼んでるに決まってるだろ」

「性格がひん曲がってるな……」


 博司は名前で呼ばれることを酷く嫌っている。


 まあ確かに博司という名前は古臭い感じがするし、博司と聞けば、足臭サラリーマンか、一般人すぎる芸人くらいしか思い浮かばないからな。


「性格の悪い奴と友達やってるお前も性格悪いだろ」

「僕のどこを見たら性格が悪いやつになるんだよ。困ってる人がいたらほっとけない性格で困ってるくらいなのに」


 博司は正義感の塊のような人間だ。


 悪いことをしているやつがいたら放ってはおけないし、困ってる人を見たら見て見ぬ振りは絶対にできない。


 これ程までに正義感が強いというか、お人好しなやつはどこを探しても博司以外には中々見つからないのではないだろうか。


 俺と仲が良くなったのも、中学時代に博司が侑志の俺に対する嫌がらせを注意したことがきっかけだしな。


 俺は博司をよくおちょくるような発言をするが、博司には感謝しているのである。


「困ってるならたまには見て見ぬ振りして見過ごせよ」

「それは無理だな。シドのこともまだ解決してないんだし。早く兄ちゃんと和解してくれよ」

「和解って言われてもなぁ……。こっちが嫌っているというよりも、あっちが俺のことを嫌い、というか完全に見下してるだけだからな……」

「せっかくの双子なんだから。仲良くしないと」


 双子と言われれば瓜二つで仲良しなイメージがあるかもしれないが、俺たち兄弟はその真逆。


 二卵性で生まれてきたが故に顔は似ていないし、仲は悪すぎる。


「双子だからって無理して仲良くする必要はないだろ別に」

「僕は一人っ子だからね。シドみたいに兄弟がいる人が羨ましくてたまらないんだよ。それが双子となれば尚更だ」

「そんなもんかね」

「そんなもんだよ。だから、早く仲直りするべきだ。今回はシドの方からにいちゃんに歩み寄ってみたらいいんじゃないか?」

「……まあちょっと考えてみるわ」


 侑志と本気で和解したいとは思っていないが、これ以上博司に心配もかけたくない。


 無理だとは思いながらも、俺は侑志とどのようにして和解するかを考え始めた。

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