三十泊目 赤神颯真という男


「……まっずい」


 次の休み。

 赤神から昼食を食べに出かけようと誘われていた蛍は、待ち合わせ一時間前の十時に起きるつもりでいた。


 ら、寝坊した。時刻は十時五十五分。

 昨夜は赤神に嫉妬のような感情を抱いた自分をひたすらに責めた。

 理屈は頭で理解しているのに、どうしてそんな感情が沸き起こるのだろう?

 そんなことをぐるぐると考え、朝方眠りについたのだった。


 蛍はとにかく連絡だ! と焦ってスマホを手に取り、赤神へ連絡を入れた。


《すみません、赤神さん。……今、起きました》


 情けない。

 自分はいったい今何歳なのだ。


《了解です! 自分は何時でも構いませんが、今日は中止にしますか?》


 こんな時でも宿泊客と接するのと同様、時間を変更する。あるいは中止にするという二択を提示して、相手の思考の負担を減らす言い方をする赤神。

 いい奴だ。嫉妬を抱くなんて、とんでもないことだ。


(どうすっか……)


 幸いにしてお店に予約をしていたわけではないので、考えるべきは赤神のことだ。

 時間を遅らせるのも、中止になるのも申し訳ない。

 どちらがより赤神にとっていいものだろうか。

 ただ今回は食事だけではなく、赤神の話を聞く予定であった。

 それについては早く聞いておいた方がいい気がしていた。


《えっと、本当に申し訳ないんですが……一時間後でもいいですか?》

《はい、もちろんです! ……それか、もしよろしければですが》


「?」


 他に何かあるのだろうか。


《俺が、お昼ご飯を買ってご自宅に伺いましょうか?》


「!?」


 ぐっとスマホに込める手に力が入る。

 まずい。それだけは絶対に阻止しなければならない。

 なにせ、休みの日に片付けようと思っていた物たちは、未だ元の場所に鎮座しているのだ。テレビ前のちょっとしたスペース以外、とてもではないが寛げるような環境にない。


 そもそも他の同僚のことも、学生時代の友人すらも招いたことのない部屋だ。

 出会って約一か月と少しの相手を部屋に招くなんて──


《えっと……部屋、めっちゃ散らかってるんで……》

《気にしないですよ~》


(いや、おれが気にするわ!!)


 赤神は蛍が遅刻をして焦っていることをかんがみたうえで、最も時間が有効活用できる方法を提案しているに過ぎない。


《もちろん無理にとは言いませんが!》

《で、では本当にすみませんが、一時間後にいつものところで待ち合わせでいいですか……?》

《りょーかいです!》


 やはり一つの提案に過ぎなかった。

 赤神はすぐに引き、蛍の希望通り一時間後の待ち合わせに変更となった。


「やべ。早く準備しよ」


 既に十一時を回っていた。

 蛍は慌てて顔を洗い、外出用の服に着替えた。








「ガチで、申し訳ないです」

「いえいえ。お気になさらず」


 待ち合わせ場所に颯爽と赤い車で現れた赤神。

 ぱたん、とドアを閉じて手を振る姿が相変わらずドラマのワンシーンのようだ。


 湿気と日差しのせいで夏の陽気も感じる日中。

 赤神はラフな薄い青色のシャツをさらりと着こなし、上のボタンをいくつか開けてサングラスを胸元にかけていた。


(様になるな……)


 男の自分から見ても、かっこいい。

 服装がどうというよりは、赤神の立ち居振る舞いがそうさせている。

 堂々と胸を張り、背筋は伸びて、目線はまっすぐ。

 制服を脱ぐとすぐに下を俯いて歩きがちな自分とは大違いだと蛍は感じた。


「忙しい時のエネルギー消費量、半端ないですよね。眠くなるのわかります」

「赤神さんも、わかるんですか?」

「ええ。もちろんですよ」


 爽やかな笑みからは、疲れなんて全く想像できない。

 いつでも余裕のある表情。そんな彼でも、エネルギー切れになることがあるのだろうか。


「じゃ、行きましょうか」

「車出してもらって、すいません」

「いえいえ、早くこっちの道に慣れないとなんで。道案内だけお願いしますね。宮崎牛、楽しみだなぁ~」

「おれも滅多に食べられないですよ、ほんと」


 今日は赤神たっての希望で、宮崎牛レストランでのランチ。

 宮崎牛をはじめ、焼き肉や鉄板焼きのお店はディナーのみの営業も多いのだが、中にはランチタイムも営業している店がある。

 その内の一つへ、助手席の蛍が道案内をしつつ向かった。






「やば」


 人気のお店だが、平日だったために何とか並ばず入れた二人。

 ランチセットを頼むとサラダにご飯、スープと一緒に、蛍がふだんスーパーでは絶対に手に取らない色をしたお肉が運ばれてきた。

 元は赤いのだろうがそれを上書きするかのように白い線が飛び交っている。


「ぜったいおいしいやつですね」


 赤神もそれを焼いた時を想像したのか、うっとりとした様子で同意した。


「惜しむらくは肉の量……」


 焼き肉といえば食べ放題のチェーン店へと足を運ぶ蛍。

 いい肉、それもランチセットの一人分だ。

 ふだん食べる量に対して少なく感じるのも無理はない。


「じゃ、いただきます」

「いただきます」


 赤神が焼き肉を指定したのは、恐らく焼き時間に話ができると考えたからだろう。

 さっそく自分の肉を目の前の網に乗せた赤神は、ぽつりと話した。


「……あの」

「はい」

「俺、前職を経て吹っ切れたと言ったじゃないですか」


 網に乗せた肉からは、焼いていない側からもじわりと脂が滲みでていた。


「人から嫌われるのに、躊躇ちゅうちょがなくなった……んですよね?」


 蛍は赤神が以前ロッカーで言っていたことを思い出す。


「うん。……実は俺、最後の方は精神的に参ってやめたんですよ」

「………………、え!?」


 その申し出には蛍も心底驚いた。


(あの赤神さんが……、病んだ?)


 まさか。あり得ない。

 そんな感想しか出てこないが、赤神がこんな冗談を言うわけもない。


「な、なんで……」

「元々、一部の男性上司にはよく思われてなくて」


 一呼吸おき、肉の面を裏返して蛍へと視線を戻す赤神。

 優しい笑顔はなんだかいつもと違って見えた。


「父も、業界に限ればですけどちょっと名前は知られてましたし。まあ、ありがたいことに女性陣からは可愛がられていたような気もしますし。親のコネで入社しただとか、女たらしだとか根も葉もないウワサを流されたこともありまして」

「ひどい……」


 蛍の言葉に反応して口端だけを上げた笑い方は、皮肉を含んだようだった。


「ま。言うのはいつだって、現場に出ていない人でしたよ。現場の人間にそんな暇ないですからね。仲のいい男の同僚もそれなりにいました。それで、女性陣が良かれと思って『あんなこと言ってたよ』って教えてくれるんですけど……正直、腹が立つというよりは残念でしたね。クロトホテルと同じくいい会社でしたし、企業理念も共感できるものばかり。施設も充実していて……まあ、給料もそこそこ。あとは仲間同士で連携して、お客様のことを考えればいいってだけなのに、現場にいない者が水を差すんです。うんざりしますよ」

「おれでもいやですよ、そんなの」


 蛍はチーフたちや加賀美が、少なくとも事務所内で誰かの悪口を言うことは見たことがなかった。

 もちろん仕事上のミスは指摘しなければならないし、単純に忙しくてそんな暇がないだけなのかもしれない。誰かに対して何らかの想いがあるにせよ、仕事中に仲間を巻き込んで愚痴る……ということはなかった。

 むしろ蛍にいたっては、いつだって責めたい相手は自分だった。


「……とまあ、ここまではよくある話。人間、意外と自分の何が相手をイラつかせてるかなんてわかんないし。このくらいならまだ、自分が我慢すれば済む話なんですけど。まー決定的なことがありまして」

「決定的なこと?」


 両面が焼けた肉をタレにつけ、一口で食べきる赤神。

 「うま」と自然に口からもれた言葉からは、感情が読み取れない。


「え、やば。めっちゃうまい。肉の甘さなのかな? 塩とかわさびでいってもうまそう」

「あーそれはヤバいですね。おれも早く焼こ」


 サラダを先に食べ終えた蛍。

 ようやく自分の番だと贅沢にも肉を二切れ、網の上に乗せた。


「……で、えーっとなんだ? そうそう、辞める数か月前にね、新人の女の子が入社したんだけど」

「はい」

「付きっきりってわけじゃないけど、新人教育とかで絡むことがあって」

「へー」

「新人研修はけっこう色んな部門でさせてもらうんだよね。コンシェルジュ業務は宿泊部門だからさ、その時に関わって。まあ、連絡先も交換したり、しゃべったり。そしたらなんだろう、気に入られたんだろうね。告白してくれてさ」

「おお」


 さすが、男からみてもモテそうな男。

 蛍は赤神のそういった面には不思議と嫉妬のようなものは抱かなかった。


「でも俺、仕事好きだったし。忙しくて自分のことで手がいっぱいだったから、彼女が欲しいとか……そういう気分でもなくて。お断りしたんだよね」

「まあ、そういうこともありますよね」

「それで、彼女は研修後に宴会部門バンケット配属になったんだけど、そこでの飲み会でなにを思ったか、俺と付き合ってるって話したらしくてさ」

「!?」


 突拍子もない展開に、肉を裏返そうと伸ばした蛍の腕が止まる。


「いや、そんな事実ないけど……と思って。教えてくれた同僚と彼女と三人でご飯に行って話聞いたら、まあ謝ってくれて」

「冗談にしたって……、なんでそんなこと言ったんですかね?」

「本人曰く、『舞い上がっちゃって』とか言ってたけど。……まあ、宿泊部門って夜勤もあるし。他の人らと時間が合いにくいから、バレないって思ったのかね。同僚曰く『チヤホヤされたい』女子らしい。俺とお揃いの名刺入れとか、スマホカバー買ってたらしいし。社内ストーカー的な?」

「あー……」


 なんとなく、その女性とやらの気持ちがわかった。

 宴会部門内での赤神人気がすごいのだろう。飲み会での話題に挙がる常連に違いない。新人研修でたまたま絡む機会のあった彼女が、優越感を得たいがためにうっかり嘘をついた……といったところか。


 ビジネスホテルの規模で考えたら、そんな誤解がまかり通ることはまずない。

 赤神の元いたホテルは想像以上に大きく、働く者も多いのだろうと蛍は予想した。


「で、最悪なのがこっからでさ」

「えっ!?」


 恋愛経験がほとんどない蛍にとって、ここから先の展開はまったく想像もつかない。まだあるのか、と驚きの声をあげた。


「ちゃんと訂正しといてって言ったのに、バンケット内ではまだ付き合ってることになってたらしくて。で、たまたまバンケットの知り合いに言われたから、また『そんな事実はない』って言ったんだけど…………。まあ、知り合いが本人に直接聞いたら泣いたらしいよね」

「わー」


 修羅場だ。いや、赤神には非のない修羅場だ。

 海外で学んだ経験のある赤神。仮に彼の女性への扱い方がスマートだったにしても、『付き合ってる』とうそぶくのは相当の覚悟がいる。

 この話にはまだ続きがありそうだ。


「で。俺も真相は辞めてから聞いたんだけど……結果から言うと、その子は宿泊部長の不倫相手」

「!?」

「部長からお金をもらう代わりに、俺のイメージがわるくなるような揉め事を起こせって命令されてたらしい。部長は俺を別部署に追い出したかったんだろうね。で、彼女からしたら、わりと俺が好みの顔だったから付き合えることになったらラッキー。無理でも金がもらえる……的な?」

「な、なんですかそれ……こわすぎる」


 これはドラマの話だっただろうか。

 あまりの急展開な話に聞き入り過ぎて、すっかり焼き過ぎとも言える肉を慌てて救出した。


「いや、ほんと。あの時ばかりは人間不信に陥りかけたよね。まずもって、なんでそんな思考なのかが理解ができない」

「……!」


 それは蛍にも覚えのある感覚だ。

 これだけ人と接する仕事をして、世の中にはいろいろな者が存在すると思っていても。それでもなお、理解が及ばない者というのは存在する。

 蛍にとっては母親のように。


「嫌いなら嫌いでいいけど、それを仕事に持ち込むのもおかしな話だし、職権乱用する気満々だし」

「赤神さんが逆らえないのを分かって、やってるでしょうね……」


 パワハラとはやや違うものの、本質的には近いものだ。


「でさ、当時はまだ部長と共謀してるって知らないからさ。宴会部門バンケット内では勘違いさせた俺がわるいってなってて。宿泊部門の一部を除けば、俺の周りは俺の味方してくれてて。まぁ、組織内での対立みたいなことが起きたわけよ」

「うわぁ」

「そしたら、まあ。対立してたがために伝達事項がうまく伝わってなくて……お客様にご迷惑お掛けしちゃって」

「……」


 それは何よりつらい。

 『自分たちの都合をお客様に見せないこと』を信条とする蛍。

 赤神の気持ちは、蛍には痛いほどよくわかった。


「いや~俺、メンタルは強い方だって思ってたけど……あの時ばかりは堪えましたね。え? 研修の時に学んだ会社の理念って、なんだったの? ってさ。みんなクレド持ち歩いて、制服に袖を通した自分に誇りをもって仕事してたはずなんですけど」

「わかります」

「俺に直接嫌がらせするならまだ分かるけど、お客様にご迷惑をおかけするのって、違うじゃん。んで、お客様のクレームについて責任の押し付け合いでさらに険悪ムード。俺のせいで迷惑を掛けたっていう申し訳なさもあったし、そもそもの意味が分からなかったし。……そっから、自分でも驚いたんだけど……一気に人と接するのが怖くなって」

「赤神さん……」

「お客様どころか、同僚になにか頼み事するってのが怖くなってね。自分の知らないところで話が湾曲して伝わるんじゃないか……とかさ。同時期に立ち眩みとか耳鳴りとか、休日は寝たきりになっちゃうとか。体調にも影響が出始めて……まあ、辞めたんだよね」

「……そう、でしたか」


 理不尽な想いにより、自分の心や体調に変化が起きる。

 それについては蛍にも覚えがあった。

 ただ蛍の場合。自分に自信は未だないものの、受け入れてくれる場所がある。

 そこの者たちは少なくとも仕事をする上で、みな同じ志のもと働けている。


 同じだが、同じじゃない。


 人には人の事情があると分かってはいるが、やはり表面上では分からないことの方が多くあるのだ。


「そっからは、三か月くらい? 寝たきりで、薄暗い部屋で過ごしてたね」

「エネルギー、使い果たしたんでしょうね」

「ほんとね。で、三か月くらいしたら仲のよかった同僚から連絡があって、別件で部長の不倫とか、俺とか他の気に入らない奴の人事考課に手を加えてたとか色々明るみになったらしくてさ」

「……それってもうパワハラですよね!?」

「そうそう。まあ、そいつも部長も辞めたよね。んで、一気にアホらしくなったの。なんじゃそりゃ、って。もー気が抜けたっていうか。俺の悩みって、何だったの? みたいな。顛末を父親に言ったら、久々ご飯行こうって連れ出してくれてさ」


 すっかり肉を焼く手を止めていた二人。

 一呼吸おくためにお互い二枚ずつ肉を乗せ、蛍は冷めてなお美味しさを保つ肉を口に入れた。


「あの時の俺、ほんとひどくてさ。髭も剃ってないし、なんか覇気ないし。そしたら父さんに、『まずは太陽の光を浴びなさい』って言われた」

「太陽の?」

「うん。生活リズム戻すため、かな。たしかになぁと思って。……それで、ホテルも多いし心機一転。最初は沖縄に行こうかなって計画してた」

「おれも沖縄のリゾートホテル、勤めてみたいなって思ったことあります」

「土地も人も温かそうで、海もきれいだし……いいよね。父さんもいいねって言ってくれたんだけど、実はそこで初めて父さんに宮崎のこと聞いてさ」

「へぇ」

「宮崎を表す言葉に、『ひむか』とか『ひなた』とか、太陽を連想する言葉が多いよって。実際、全国的にも温かい土地だし。父さんは企業に呼ばれてマナー講師とかもするんだけど、仕事で宮崎に行ったり、知り合いとゴルフに行ったことがあるとかで教えてくれたんだ。……その時に、かわいらしいホテリエと出会ったとか」

「かわいらしい、ホテリエ?」


 どこかで聞いた言葉だ。

 赤神のすっかり砕けた言葉遣いに気を取られ、それがどこで聞いたものだったかが思い出せずにいる。


「すごく一生懸命に案内してもらったんだって。人をもてなしたいって気持ちは、どこも変わらないねって言っててさ。……詳しく聞いたらクロトホテルだったから、気になって近場の店舗に泊ったんだけど」

「どうでした?」

「よかった。なんか、勝手な話なんだけど、すごくウェルカムな雰囲気だなぁって。……いや、正直その時は理由が分からなかったんだけど、今なら分かる。クロさんの教え方もそうだけど、『どうして』それが必要かってのを、新人ベテラン関係なく皆さんスタンダードに自分で考えて客の一歩先の声掛けができてる。客を迎えたい、もてなしたいっていう、意識が統一されてると思ったんだよね。例えばマニュアルには載ってないけど、俺が初めての利用って分かったら、すぐに周辺地図が必要かって新人の子が聞いてくれたし。なんだろう。もちろん元いたホテルの方が、お客様にできることって多いんだけど……それでも俺が今必要なのは、心からお客様と向き合える環境なんだよなって。メンタルも弱ってたしホテルの規模にかかわらず、そういう場所がいいよなって」


 つまり赤神は、同志を求めていた。

 どれだけ充実した施設でも、心の足並みが揃っていないと意味がない。

 宿泊客に『心』をも届けることができないのだ。


「父さんはけっこう、自由にさせてくれる人だったから。俺が決めたことなら応援するって言ってくれて。で、すごくいいタイミングで求人もあって。今、こちらでお世話になってる次第です」


 ようやくいつもの笑みに戻った赤神。

 彼自身『吹っ切れた』と言ったのは、そういうことかと蛍は納得した。

 自分がどう思われていようと、とにかく仕事での志が同じ。

 それさえ同じであれば、他のことは気にならないということだ。

 実際のところ赤神の思うような者が揃っているクロトホテル宮崎。

 赤神がいつも楽しそうな様子で仕事をしているのは、比喩でもなんでもなく心から楽しんでいるのだろう。


「そんなことが、あったんですね……」


 蛍はまたも恥ずかしさに襲われた。

 完璧な人間なんてこの世にいない。いたとしてもそう見せているだけだと。

 頭ではそう理解しつつ勝手に自分と赤神を比べ、勝手に嫉妬していた。


 しかし、赤神の心の隙間を垣間見た今、蛍は別の感情を赤神に抱いていた。


(赤神さんでも……怖いんだ)


 人と接することが好きなのに、怖い。

 蛍と赤神の抱える問題は異なるのに、似た感情を抱くことがある。

 それは新たな発見だった。


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