十九泊目 それぞれの課題
「──では、頑張ってください」
「「はい」」
おもてなし係に就任し、館内にある過去の係の功績を垣間見た蛍と赤神。
総支配人の加賀美より過去の取り組みなどを紹介した資料を踏まえ、おもてなし係について簡単なオリエンテーションを受けた。日々の業務と共にさっそく係としての活動を開始することに。
加賀美が言うには、こうだ。
・店舗の課題を仲間からの意見、お客様からの口コミやアンケートなどから洗い出し、それの解決に向けて取り組みを提案する。
・課題には全員で取り組めるような内容にすること。
・課題がなければ、例えば『自分が感動したこと』などをもとに、お客様に対して、あるいは仲間に対してなにか出来ることはないかを模索する。
……といった内容だ。
宮崎店をはじめ、各店舗が取り組んできたことを羅列した資料をみた赤神は、しきりに唸って感心していた。
「まずは、皆さんにお伺いするところからですかね」
「ですね」
赤神はさっそくペンとメモを持って全員に聞いて回ろうとする。
「──ちょっ!? っと、待って……ください」
「?」
それを慌てて蛍は引き留めた。
「どうしました?」
「あ、いえ。いきなり聞くのもアレかなと……」
「? どうしてですか?」
蛍は、さっそく自分と赤神の性格の違いが出たことを実感した。
(いや、陽の者すごいな……)
もちろん赤神も分かってはいるはずだ。
人がいきなり、『今仕事で困っていること、ある?』と突然聞かれすぐに答えを導き出せないことなど。
ただ、蛍の予想ではあるのだが海外の者たちは話し合いをもっとフランクに捉えている。プレゼンのように答えを準備して臨むものではなく、話し合いの中で見つけていくものだと。
つまり、海外でも学んだ経験のある赤神は話術でそれを引き出せるように話すつもりだ。それはそれでいいことなのだが、何分ホテリエとは接客業。
刻一刻と状況が変わり、客が入れ替わりやってくる。
立ちながら話し合いをする時間はほとんど無いに等しい。
「えーっと、ほら。もうすぐチェックインの15時ですし……ぐっち君休憩入るし……」
「休憩前に、少しお伺いしておきましょうよ」
「で、でもほら……」
蛍は言って、自分でも分かっていた。
これではまるで、やらない理由を探しているみたいだ……と。
きっと谷口も聞けばあっけらかんと答えてくれる。
すぐに答えが出るものでもないし、「また思いついたら言いますね~」なんて言いそうだ。
(わかってる……)
──でも、もしちょうどお客様が来たら?
──もし、ちょうど他の仕事を抱えていて、話しかけるのが迷惑なタイミングだったら?
蛍の頭の中は常に多動だ。
あらゆる事態を予測し、なるべく相手の負担にならないよう立ち回っていた。
「……クロさん?」
「あ、……すみません。何でもないです」
──羨ましい
蛍には、赤神に対する嫉妬のような感情がよぎった。
赤神は考えなしに行動しているわけではない。
もし谷口が忙しそうであれば、また後で聞けばいいと考えているだけだ。
その予測も含めて、怖気づくことなくまずは聞いてみようと行動を起こせる。
蛍には時々、『考えすぎた結果、動けなく』なることがある。
やりたくないわけじゃないのに、できない。
それが蛍の長年の悩みの一つでもあった。
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