十七泊目 どうせやるなら
《クロさん、この前はありがと~ トキトー》
事務所に隣接する休憩室のテーブルの上。皆が持ち寄ったお菓子コーナーの端。
メッセージの書かれた
「あ、
「引継ぎですか?」
「いえ。この前時任さんの抱えていた処理を手伝ったから、お礼? だと思います」
「いいですね、そういうの」
二連休だった蛍と、今日から二連休の時任。
夜勤や休みによりシフトが合わない時はとことん合わずに、しばらく顔を見ないこともある。そんな時はもちろん引継ぎも大事であるが、クロトホテル宮崎内ではこれも日常的に行われていた。
「チョコ、お好きなんですか?」
「まあ、……甘いもの好きですね」
ある時は引継ぎボード、ある時は休憩室。またある時はロッカーに付箋を直貼り。とにかく誰かを褒めたり、お礼を言ったり。個人的なことは別として、仕事上での感謝を述べる際には皆がそれを目に留めるようなやり方を行っていた。
「チョコじゃなくていいんですけど。そういう伝統があるみたいで」
「素敵です」
「
それはクレドにあった、『自分たちの幸せ』に関する部分。
良い行いや感謝の言葉というのは、誰が聞いても心地が良い。
気軽にお礼を言い合えるのは、それだけで風通しのいい雰囲気作りができる。
逆に上司からの注意や、個人的なミスによる指導というのは目につかない場所で行われた。対応にバラつきが出ないよう今後皆で注意していこうという意味を込め、担当した者が分からないように事例が引継ぎされる。
「理想ですね」
「いえいえ、赤神さんが以前勤めていたホテルの方が──」
言って、そういえばと蛍は思い出した。
(この前ちょっと言い辛そうだったのって……、職場での話だったのかな)
神社にて恋愛に関する話をした際、赤神は明らかに動揺していた。
それはもしかすると以前の職場で起こったことだったのかもしれない。
モテるが故の大変さなのだろうか。
「どうせ同じことをやるなら、楽しい方がいいですよね」
「え?」
「仕事」
そう言うと赤神はにっこりと、いつもの笑みを浮かべた。
(やっぱり……)
赤神はもしかすると、以前の職場を辞めたくて辞めた訳ではないのか。
そう蛍は予想した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます