第40話 頼れる人たち
…知らない天井だ。
「…ここは?」
俺は起き上がる。
…病院のベッドみたいだ。
「…ん?」
俺の寝ているベッドの隣で、椅子に座った星奈と美里が、お互いもたれかかりながら寝ていた。
…俺、またなんかあったのか…。
だけど、なにも思い出せない…。いや、思い出そうとすると、黒い靄のようなものが出てきて、頭がズキズキと痛む。
あれ…、俺、夢を見ていたんじゃ…?
じゃあ、なんで病院なんかにいるんだ?
俺がそんなことを関あげていると、星奈さんが目を覚ました。
「んん…。」
星奈さんは目をこすって、俺を見る。
「…おはよう、…星奈。」
俺は軽く手をあげてみる。というか、星奈呼びは慣れないなぁ…。
「…おはようございま…す?!」
星奈さんは、眠そうな顔だと思ったら、俺を見て目を見開いた。
「…大丈夫?」
俺がそう声をかけると、
「う…、うぅ、しゅ…、駿作さああああん!!」
星奈さんが飛びついてきた。
「えぇ?!」
いきなりすぎて驚く。
「よか、よかったああああ!!」
星奈さんの涙で、俺の着ている服が濡れていく。
何があったのか詳しくはわからないけど、俺の実を案じてくれているのはいつものことだから、これだけ泣いてくれるのは正直嬉しい。
「え、しゅ、駿作君!」
そこで、美里も目を覚ました。
「なんか、心配かけたみたいで…。」
「そうよ!まったく、もう二度とあんなマネしないで!次やったら天摩と一緒にぶん殴ってやるんだから!」
「うえぇ…、それは勘弁して…。」
天摩のパンチは冗談抜きで痛いから嫌だ。
でも俺、どうやら相当バカなことをしたらしい…。
俺を慕ってくれている人を大泣きさせるほどに。
すると、病室の扉が開けられる。
「あ、目覚めましたか。」
あ、
「駿作!」
そしてその奥から天摩が走ってきて、俺のベッドへ迫ってきた。
殴られるの覚悟で少し身構えたが、
「ごめんな、俺のせいだ…。」
天摩が抱き着いてきて、そういう。
「…え?」
天摩が悪いなんてことはない。
悪いのはどう見ても俺だろうに…。
「いや、天摩は何もしてないだろ?」
「……お前、もしかして何も覚えてないのか?」
「うん、ごめん。なんか、原因を思い出そうとすると頭に黒い靄みたいなのがでいてきて、頭痛と吐き気がするんだよ。」
俺がそういうと、
「…そうか、じゃあ、俺の方から説明させてもらおうか。先生、いいですか?」
「ええ、今は黒井さんの精神も安定しているみたいですし。」
天摩と桝田先生がうなずきあう。
…俺が何をしてしまったのか、聞けるんだな。
「ええ、黒井さん、落ち着いて聞いてくださいね?」
「…はい。」
…。
「あなたは、首を吊って死のうとしました。」
「………え?」
え、首を??
「いや、え?なんで俺がそんなこ…と…。」
あ、そういえば、と思い出した。
「…そういえば、夢から覚めようとして、首を吊った気が…。」
俺の言葉に、桝田先生が少し目を見開く。
「…夢と現実の区別がつかなくなっていた…、ということですかね…。」
桝田先生はうーんと唸った。
「以前診察した時よりも、状態が良くないですね…。」
「そう…ですよね…。」
夢と現実の区別がつかないまま首つって死のうとしたっとか、俺どれだけ病んでるんだよ…。
「…あのな、駿作。」
そこで、しばらく黙っていた天摩が口を開く。
「ん?」
「お前が首を吊るほど思い詰めていたことだと思って、話すのをためらってたんだが、これはお前のためを思って話す。」
「な、なに…?」
天摩のこんな顔見たことがない
「お前は二日前、俺が頼んで、茂木さんのところに商談に行ったんだよ。」
「二日前…?」
思い出してみようとする…。
一番最初に思い付いたのが、星奈さんの初配信。
確かあれは今日の…ん?
二日前…?!
「待ってくれ、俺、二日も寝てたのか?」
「ああ、そうだ。お前は星奈さんと美里に助けられてから、丸二日寝てたんだよ。」
「え、」
俺は星奈と美里の方を見る。
二人とも笑ってうなずいていた。
「…ありがとう。」
俺は誠心誠意二人に頭を下げた。
二人は、俺の命の恩人ってことだしな。
「い、いいんですよ!駿作さんは相当思い詰めていたんでしょうし、それに、今こうして生きているんですからいいじゃないですか!」
星奈は両手を振ってわたわたする。
「そうよ、あなたの前の会社から持っている悩みに、気づいてあげられなかったのは私だしね…。」
美里は、少し暗い顔をする。
「そ、そうか…、ありがとう…。」
二人とも優しいな…。
「ああ、それで、今から話したいのは、美里も言っていた、前の会社からの悩みだ。」
「うん。」
さっき言いかけてたやつ…か。
「お前は、権藤が苦手だよな?」
「ッ…、うぅ?!」
権藤という名前を聞いて、頭に顔を思い浮かべた瞬間、頭がズキズキと痛み、気持ちが悪くなる。
「あ、す、すまん駿作!配慮が足らなかったな…、大丈夫か…?」
「う、うん…なんとか…。」
ああ、俺もわかった。
アイツに何かされたんだ…。
「続けてもいいか?」
「頼む。」
「よし、それでお前は、茂木さんの会社に行ったとき、たまたまであったであろう権藤と、一悶着あって約束の商談の時間が2時間も過ぎてしまった。それで茂木さんに勘違いされて、ショックで何も判断ができなくなってたんだと思うんだよ。」
「待って、一度に話されても…。」
「ああ、すまん…。」
俺は、天摩に事の発端をゆっくり教えてもらった。
不思議と納得がいった。アイツならやりかねないなんて思ったのかもしれない。
そして、沸々と、あいつに対してどんどん怒りがわいた。
そこまで話したところで、病室の扉が叩かれる。
美里が開きに行く。
そこにはスーツの男性が立っていた。
「あ、茂木さん。」
天摩がつぶやいた。
ああ、茂木さん、こんな人だったな。
茂木さんは、そのまま俺のもとに歩いてくると。
「この度は、大変申し訳ございませんでした…。」
俺に深々と頭を下げた。
「え?」
「私は、あなたの事情も聴かずに、ただ時間を守らなかったという理由で突き放してしまった。」
「ああ…。」
流石天摩のお知り合いさん、良い人なんだろうな。
「お詫びに、入院費や治療費はすべて私に負担させてください。」
「え、いや、そんな。」
「払わせてください。これくらいしか私にはできませんから。」
「あ、はい…。」
これは、素直に受けとった方がいいやつか…。
「あと、虫のいい話ではあるんですが、もう一度商談の時間を設けさせてください。もちろん黒井さんのお好きな時間で構いません。黒井さんの作成した広告やサイトはすごくいいと、ほかの企業さんや大室さんから聞いていますから、そんな方のサイトをぜひ一度見せていただきたいです。なにとぞお願いいたします。」
茂木さんは何度も頭を下げながら言う。
うん、答えは決まってる。
「もちろんですよ、行かせていただきます。」
せっかく天摩が築き上げてきた関係を、俺なんかの頑固でつぶしたくはない。
「…!ありがとうございます!!」
茂木さんは、俺の手を握って、何でも頭を下げた。
俺の周り、いいひとばかりだなぁ。
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