第39話 駿作を救え!
~株式会社オームロ工房
「………遅い…。」
駿作が会社を出て二時間半以上がたったが、帰ってくるどころか、いまだに連絡の一つもない。
美里には一応、俺の会社のあるビルの周辺で歩き回ってもらってはいるが…。
どっかで道草でも食ってんのか…?
「…ちょっと
俺は、茂木さんに電話をかけた。
「ああ、大室さん?」
いつもより少し声が低い茂木さん。
なんかあったのか…?
「茂木さん、駿作のやつどこ行ったか分かる?」
俺はいつもの感じで、茂木さんに聞く。
「……黒井さんなら、僕が追い返したよ。聞いてないのか?」
「え、なんで?!」
「…黒井さんは、まだそっちに帰ってないのか…。仕方がない、僕の方から説明しておくか。」
「ん…?」
なんだ…?
「黒井さんは、商談の時間に2時間遅れてきたから、商談を破棄させてもらったんだよ。」
「は…?!あいつが?!」
いや、ありえねぇだろ、あいつは時間はしっかり守る方だし、なんだったら、俺が茂木さんは時間に厳格な人だって言ったら、商談の三十分前に着けるように早めに出ていったくらいだぞ…?
一体何が…??
…いや、これは駿作に何かがあったに違いない。
「時間に間に合わず、せっかく設けてくださった時間を憂げにしてしまったことは謝罪いたします。申し訳ございません。」
「ああ、あとで黒井さんにもはなしておいてくれ…。」
「すまないが茂木さん。」
「…ん?」
「駿作の奴に、何か変わったところはなかったか?ほかの人と違うというか。」
「んん…。」
茂木さんは少し考えているみたいだ。
「黒井さんってだらしない性格なのか?」
「え?全然そんな事ねえよ、あいつは綺麗好きで、自分の家も会社のデスク回りも綺麗だし、スーツだってシワひとつないからな。」
「…そうか…。」
…?
「なんか、思い当たることでもあったか?」
「いや、あの時の黒井さんは、スーツが土か何かで薄汚れていたし、スーツ、特に胸元がシワだらけで乱れていたから…。」
間違いない…。
「…それは、絶対何かあったんだ…。」
「え?」
駿作は、何かに巻き込まれたんだ…。
それも、とてつもなくやばいものに。
俺は一回、茂木さんとの電話を保留にして、星奈さんに電話した。
星奈さんんは今日は大学が休みだ。きっと家にいるだろう。
「…天摩さん?」
「もしもし星奈さん?緊急で頼みたいことがあるんだけど。」
「……なんですか?」
俺の声音で、真剣なことなんだと気付いたのだろうか。星奈さんの声音も変わる。
「今すぐ、駿作の家に行ってくれないか?」
「…分かりました。必要なものとかありますか?」
「いや、とくにはないが、電話はいつでも掛けられるようにしといてくれ。」
「はい。今すぐ駿作さんのところに行きます。」
そう言って電話が切れた。
続いて俺は、美里にも電話をかける。
「もしもし美里、悪いが今すぐ隣町の駿作の家へ行ってくれ、場所はわかるな?」
「…緊急みたいね、わかったわ。」
「頼む。」
美里との短い電話を終える。
…。
俺は保留にしていた茂木さんの電話をとる。
「茂木さん。会社の入り口に設置されている監視カメラとかあれば、今日の午後一時半から四時までの間を詳しく見てくれないか?」
「え?いや、急になんで…?」
「駿作が遅れた、本当の理由がわかるかもしれないからだ。」
「…そうか、わかった。」
俺は茂木さんとの電話を終えて、固定電話に留守番電話の設定をした後、自分も外に出る準備をした。
~
「駿作さん、大丈夫かな…。」
私は天摩さんに頼まれて、自分の家から駿作さんの家に向かっていた。
天摩さんから電話があった。駿作さんに何かがあったのは間違いない。
天摩さんと会ってから、まだ日はたっていないけど、いつも駿作案とふざけあった居る時や、仕事中に私たちに声をかける時とは違う、低くて何かのこもったような声。
それを聞いて、すぐに何か事態が起きたんだと思った。
そしてその内容が駿作さんについてだったし、聞いた瞬間は、どうか何もないようにと願った。
でも万が一、何か起こっていたら、私は全力でサポートしたい。
この角を曲がったら、駿作さんのいるアパートだ。
…なんか、音がする。
アパートの方から、ガタガタと音がした。
少し速足でアパートを目に入れ…。
「…?」
アパートの二階の鉄柵から伸びたロープのすぐ下に駿作さんがいた。
「ッ?!」
いや違う、駿作さんが首を吊っていた。
「いやっ!駿作さんッ!!」
私は急いで、駿作さんの足掴んで、上へ上げようとする。
「お、重い…」
どうしよう…。
今すぐロープを切りに行く…?いや、そんなことしたる間にも、駿作さんの首がしまっちゃう…。
でも、このままここにいても、駿作さんの苦しさはあまり解放されない…。
だめだ…、私じゃ…。
ジャンクフードばかり食べて、ゲームばっかせずに、もっと鍛えればよかった…。
やだ、やだ、救えないなんて嫌だ。
駿作さんが…死んじゃうなんて嫌だ!!
「誰か!!誰か来てください!!誰かぁ!!!」
私は必死に呼びかけた。
夕方の時間帯だから、きっと誰かいるはず。
そう思って、何度も大声を上げた。
「誰か…誰か来てよぅ…。」
なんで、なんでこういう時に限って、誰も…。
「星奈ちゃん!!」
その時、美里さんが走ってきた。
「え、そんな、駿作くん…!」
美里さんは、駿作さんを見て一瞬固まってしまった、けど。
「…私がロープを何とかするから、何とか星奈ちゃんは持ちこたえて!!」
「は、はい…!」
そう言って、美里さんは私の返事を確認して、外階段で二階に上がって、ロープをほどき始める。
10秒くらいだろうか…
「ほどけた!」
「あ、」
美里さんがロープをほどいたことで、駿作さんがそのまま横に倒れそうになる。
私は、すぐに駿作さんを抱きしめる。
そしてそのまま二人で倒れた。
「駿作さん…!」
私が呼びかけても、反応がない…。
でも…。
「あ…。」
私の体と密着する駿作さんの体から、ドクンドクンと、弱くなってるけど心音がした。
「星奈ちゃん!駿作くん!」
美里さんも戻ってきた。
「美里さん!駿作さん、生きてます!まだ心臓が動いてます!!」
「ッ…!」
美里さんは、私の言葉に驚く。
そして、
美里さんは、私と駿作さんに抱き着く。
「え、」
「よくやった!星奈ちゃん!!ありがとう!!」
美里さんは、涙声でそう言った。
私の頬にも涙が流れる。
「よ、よかったですぅ…。」
私と美里さんは、駿作さんを抱きしめたまま泣いた。
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