第38話 絶望の夢?(※一部残酷表現)




「……。」



俺はあの後、ビルを後にして、呼び掛けてくれた男性と女性の声も聞かぬまま、会社にも戻らず、家に直帰してしまった。


俺は取り返しのつかないことをした。


天摩と仲が良くて、俺たちにサイト作成の相談を持ち掛けてくれた茂木もてぎさんの好意を、踏みにじった。



なんで、俺はあの場にいたのに会社に資料をもっていかなかったんだ…?


いや、待て、資料…。そうだ、持っていた封筒は…?!


なにも…、ない…。




ふと、会社に行く前に天摩に聞いた話を思い出す。



「俺と特に仲良くさせてもらってる、同い年の茂木さんって人がいるんだが、今回行く『FOODBAL』がその人の会社だ。普段はすごく優しい人なんだが、時間を守らない奴にはすごく厳しい。お前が遅れることはまずないだろうけど、まあ、時間だけは特に気を付けて行ってきてくれや。」



ああ、そうだった。


だから時間には気を付けて、商談の30分前に行ったのに…。



なんで、俺はあんなところで倒れていたんだ…?



思い出そうとして、


「うっ…。」


吐き気とめまいが出てくる。


だめだ、思い出そうとすると急激に気持ち悪くなる…。

頭に映し出される記憶に、真っ黒なもやがかかっていて、それを見ると…。


「うぅっ…!」


俺は洗面台に走った。


「おえぇぇ…。」


胃の中は空っぽで何も出ない。


ふと鏡で自分の顔を見ると、左頬がほんのり赤くなっていた。


触るとずきりと痛む。


何かにぶつかったか殴られたのか…?



…それであそこに気を失って倒れていた…?




いや、理由が何であれ、俺は取り返しのつかないことをした。


もう、ダメなんだ…。



せっかく俺を誘ってくれた天摩に合わせる顔がない。



「ちゃんと連絡すること!」


美里の顔が浮かぶ。



……心配させちゃうから連絡だけはしないといけないか…。


ああ、スマホの充電切れてるんだっけか…。


俺はスマホを充電器に刺した。



一回寝よう、起きたら連絡すればいい…。



そして、力が抜けるように、スーツのままソファに倒れこんだ。












「あれ、さっきまで部屋にいたはずなのに」


そうつぶやいた黒井は、真っ白な空間にいた。


「黒井。」


突然、黒井の後ろから声が聞こえる。

黒井が振り返ると、そこには権藤が立っていた。


「あ…。」


「なぁ黒井、お前は、一体何のためにここにいるんだ?」


権藤が黒井に問う。


「え…?」


黒井は聞き返す。


「お前は…、ここにいる必要はあるのか?」


「え、いや、それは…。」


黒井は戸惑う。自分が何のためにその場にいるのかはっきりと言えないようだ。


いや、権藤を前に、うまく言葉が発せないだけかもしれない。


「お前はいらない人間なんだよ、わかるか?無能で、必要のないやつなんだ。」


「え…。」


「お前が生きている理由なんてないんだ。自分にかかわったすべての人間に迷惑をかけて…。」


「……。」


黒井の中には、いろんな人の顔がちらつく。


「お前は今までかかわった人間に、恩返しの一つでもしたのか?おい?」


権藤は、どんどんと黒井に迫る。


黒井は一歩後ずさる。


「お前はいらないやつなんだ。お前が生きている理由なんてないんだ。わかるか?」

「俺はお前を必要としないし、どうだっていい、ほかの奴らもそう思ってるぞ?」

「雇ってくれたのなんて一時的、お前はいつ消えてもかまわない捨て駒だ。」

「あの頑固さじゃ、あの社長は許してくれないだろうなぁ?」


黒井の頭に、権藤の声が重複して入ってくる。

頭がガンガンと痛い。

気持ち悪い、吐きそうになる。


そして、


「なぁ、俺と、お前にかかわったすべての人間に、申し訳ないと思わないか?」


「…。」


「お前は、それ相応の償いをするべきだと思わないか?」


その途端、真っ白の世界が真っ黒になった。


「え、え…。」


そして、黒井は足を踏み外し、いつの間にあったのかわからない穴に、どこまでも深い闇に落ちていく。


「うわぁあああああああ!!!」



ニタニタと笑う権藤の顔を見ながら。













「はぁっ…はぁっ…はぁっ……。」



夢か、


くっそ、めちゃくちゃ嫌な夢だったな…。



あんな夢を見たのは、会社をクビになった日以来だな…。



凄い汗をかいていた。水を飲もう。


そう思って立ち上がり、キッチンを見ると。



「…え?」


権藤が立っていた。


その瞬間、権藤と俺以外の周りが真っ白になる。



「まさか…。」


「黒井。」


権藤は、さっきの夢と同じようなことを話し始めた。



「い、嫌だ…やめ…!」


「なぁ、黒井—―——」















「はぁっ…はぁっ…はぁっ…。」


あれから何回繰り返したんだろう…もういやだ…。


人間、夢の中だと怖いことや驚くことがあったりすると、勝手に目が覚めると聞く。


…。


権藤に会う前に、死ななきゃ…。


このループは、キッチンにいるであろう権藤と会うことで繰り返される。


だったら、会う前に死ねばいいんだ。


そしたら、この世界から解放される…!


権藤のあの言葉の圧と、ニタニタと笑う顔を見るのは嫌だ…。



でもどうやってしんだらいいんだ…?


キッチンには権藤がいる。包丁とかのは物は使えないし。正直、夢の中だって言うのに、使う勇気がない。


キッチンの方面、リビングダイニングの方はいけないとなると…。



俺の部屋か、洗面所、トイレ、物置、玄関にあるものでなんとかしないと…。




あ、


確か物置にロープがあったな…。


そうだ、実家にあったもので、使えそうなものを引き取ってきた時に紛れ込んでたやつだ。


ラッキー…、使おう。


俺は物置をあさる。


案の定、奥に袋に入ったロープがあった。


俺はそれを首に巻き付けて、少し苦しいクライでしっかりしめる。



そして、外に出る。


外は夕日がきれいだった。


俺はロープの端を、アパートの手すりの鉄柵の一本に括り付ける。


そして下を覗き込む。


このアパートは二階建て。首を吊っても、俺の足は地面にはつかない。


「…よし…。」


なんか、夢の中なのにどっと疲れたな…。



俺は手すりを乗り越えて、迷いもなく下に飛び降りた。


その瞬間、グンッとロープが伸び、思い切り締まる自分の首。


「がっ…は……ぁ……」


めちゃくちゃ苦しい…死ぬ………。


でも、これで、楽に…。





「駿作さんッ!!」




ん…、星奈か………


ようやく…夢から…………



さめ…………



















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