第36話 呼び方と外出



唐突に会社にやって来た高校生の女の子、九島芹音くしませりねさん。


彼女はどうやら星奈さんが実家にいたころのお隣さんの娘さんで、そのお隣さんと星奈さんのご両親は仲がとてもいいようで、星奈さんと芹音さんも仲が良いようだ。



「ま、まさか昨日配信してた月星さんが、星奈お姉さんだったなんて!」


「ふふ、私も芹音ちゃんがこんなに登録者がいる配信者だったなんてびっくりだよ!」


星奈さんと芹音さんは仲良く話していた。



「いやぁ、世間って狭いねぇ。」


「そうだなぁ。」


天摩の言葉に俺は相槌を打つ。


でも、全く知らない人よりは、星奈さんっていうある程度親しい人が真ん中に入ってくれると、かかわりの深めかたもスムーズにできそうだしな。



「あ、皆さんのお名前が聞きたいです。これからお世話になる会社の皆さんですから、名前を覚えたいです。」


芹音さんがそう言って来た。


そうか、確かに全員は自己紹介してなかったな。


「俺はさっき話しましたけど、改めて、一応ライバー課をまとめている、黒井駿作くろいしゅんさくです。」


「俺は大室おおむろ天摩てんま。この会社の社長をやってます。社長って呼んでくれて構いません。」


「私は宣伝課の佐畑美里さはたみさとです。よろしく。」



俺たちはそれぞれ自己紹介する。


「じゅあ私も、オームロ工房に所属する、公式ライバーの月星こと月星星奈です!」


星奈さんもノってきた


「皆さん、私に敬語はいりませんよ。私は学生で、皆さんは社会人。そこは立場をしっかりわきまえたいと思ってて!」


真面目な子なんだろうなぁ。


「わかった、よろしく。九島さん。」


俺は敬語を辞めて…


「芹音でいいです!」


九島さんがそういう。


おう…


「せ、芹音さん。」


「芹音でいいです!!」


……。


「せ、芹音…ちゃん…。」


こ、これは慣れない…。


「じゃあ俺も遠慮なく、よろしくな芹音。」


「よろしくね、芹音ちゃん。」



天摩と美里の二人は何事もないかのように名前を呼ぶ。


うーん、俺が女性に免疫がないからだろうか。

ん?じゃあなんで星奈さんには普通にできてるんだろう・・・。慣れか?


「む~。」


そしてなぜか星奈さんがご不満のようだ。


「駿作さん!私も呼び捨てにしてください!そして敬語も辞めてください!」


「ええ?!」


なんでまた急に…。


そしてにやにやする天摩となぜか少しだけむっとしている美里。



そして少し首をかしげていた芹音ちゃんは、思いついたように相槌を打つと。


「駿作さんも隅に置けませんね!」


「はい?」


この子は何を言っているんだ?


いやいや、今はそんなことじゃなくて…。


「えっと、本当にいいんですか?」


「私がいいって言ってるからいいんですよ!!」


「あ、はい…分か…った。」


なんで俺の周りにいる女の人たちは、変なところで頑固なんだろうか…?





と、いうことで、会社にいる人全員を下の名前で呼ぶことになりました。











「さて…。」


一通り終わったな…。

とりあえず、芹音ちゃんの手続きは明日やるとして…


俺には別にやることがある。





「午後にまた一件入れちゃったから、よろ!」


「………はぁ…。」




天摩がまた、勝手にほかの会社との会議をセッティングしてしまった。

俺名義で。



だから俺しかいけないから、仕方なく行くことになった。


俺はライバー課であって、広報の人ではないのだが…。仕方ないかぁ。



「行ってくる。」


「あいよ~」












今日はまた初めてくる会社だ。


『FOODBAL(フードバル)株式会社』。ここの社長の茂木雷二もてぎらいじさんは、俺や天摩と同い年で、天摩よりも前に起業して成功した実業家だ。


業務内容は、地方や中心都市で作られているおみやげに使われるような料理やお菓子、その地方に個人経営をするお店で食べられるお菓子や料理のオンラインテイクアウトなどを行うサイトを運営していて、売り上げの低迷気味だった地方物産や個人経営のお店を数多く救ってきた。


起業して二年だが、すでに売り上げは結構なもののようで、さらなるサイトの拡散のために俺たちの会社に新しいサイトを作る話を持ち掛けてきてくれた。


天摩の人脈はすごいな。


ただやっぱり人気の会社ってことで、俺たちの会社以外にも数件の会社が、サイト作成の話を持ち掛けられて、その作成案を持ってきているみたいだ。



…俺もほかの会社に負けないように頑張らないと…!



会社は俺たちの会社の最寄り駅から2駅隣、俺たちの会社と同じ感じで、8階建てのビルの5階に『FOODBAL』の会社が入っている。


なんか建物が全体的にすごくきれいだな。清潔感があっていい。


俺たちの会社のあるビルもなかなかきれいだとは思うが、ここのビルはできて間もないんだろうなぁ。




俺は会社に足を踏み入れて、受付を通って、エレベーターで5階へ向かう。



五階について、エレベーターを降りる。


案内に従って、一番奥にある会社、『FOODBAL』に向かう。




会社に入ろうとした時、内側から扉が開く。


「ありがとうございました、ぜひご検討のほどよろしくお願いいたします。」


「ッ…?!」


耳に、頭に、残り続けていた人の声が。


「あれぇ?」


俺が心底嫌いになってしまった人間が。


「もしかして、黒井かぁ!」


その大きな体と薄くなった髪を揺らす男。


「あ、ああ、あ…。」


俺はその人を前に声が出なくなる。


「おいおいおい。」


目の前に立っている人物。


「ニートになって、この会社に泣きつきに来たのかぁ?ww」



前の会社、『株式会社上安じょうあん』の広報部長。


「あ、あ、あ…。」




権藤政伸ごんどうまさのぶだった。














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