第35話 飛び入りの子



星奈さんはそのあと、13時くらいまで配信をしていたけど、まあとにかく凄い人の数で、大盛況に終わった。


ゲーム結果の中には過去最高の27キルもあって、それはもうコメントは困惑と歓喜の嵐だった。


星奈さんの喋る話題もおもしろかったけど、なによりプレイスキルが高すぎて、トークしながら、そのなめらかで無駄も隙も無い動きに、視聴者はさらに盛り上がった。


登録者は初動の2.57万人から3.2万に増え、最高の同時接続視聴数は約2300人、合計視聴回数は約4100回となった。


うん、1日目でこれはすごいをこえてやばい。ネットの拡散力の速さを改めて認識した。いいことも悪いこともすぐに広まっちゃうんだな。



「…。」



星奈さんは今、3時間くらいのゲーム配信を終えて、椅子に座って机に突っ伏している。そりゃ疲れるよね。


「お疲れ様です星奈さ…。」


俺が話しかけようとして止めた。


「すぅ…。」


星奈さんはすやすやと寝息を立てて寝ていた。


思わず心がきゅんとなる。なんか小動物?ウサギとか子猫とか見た時と同じ感じの、なんて言ったら分からないけどね…。


…別に星奈さんが小動物見たいって意味じゃないよ?!

というかこれは不純な考えになっちゃうのか?!


危ない危ない。口に出さなくてよかった。



俺はそのあと、会社の入り口にかけてあるジャケットを持ってきて、星奈さんにかける。

もう11月だし、風邪ひいちゃいけないしな。



「あれ、星奈ちゃん寝ちゃったの?」


美里が少し声のトーンを落として聞いてくる。


「うん、まああれだけ配信してたしね、今は寝かせてあげよう。」


「そうね。」


俺たちは昼ごはんを食べて、午後の業務に入った。















1時間くらいしてからだろうか、


プルルルルルル…


会社の固定電話が鳴った。


「はい、オームロ工房です。」


天摩が電話に出る。


「…え?来客ですか?今日はその予定はないですけど。」


来客…ということは1階のフロントからか。


というか…。


「天摩、また忘れてるとかじゃないだろうな。」


「いや、そんなことないはずだけどなぁ…。」


天摩は小声でつぶやく。

まあむやみに疑うのはよろしくないからな。このくらいにして…。


「駿作、ちょっとフロントまで行って様子を見てきてくれるか?」


「ん、分かった。」


まあ、もしかしたら知り合いかもしれないし、確認だけしに行こう。


俺はオフィスを出て、エレベーターで1階に向かう。




エレベーターが開くと、入り口に警備員さんとフロントの受付の女性、そして背が低めの女の子がいた。


「お願い!少しだけ!少しだけ入れてください!」


「だめなものはダメです、確認が取れるまではほかのテナントには入れないんですよ。」


来客?の女性と警備員が話していた。


どうやら少しもめているみたいだ。



「あの、オームロ工房の黒井ですけど。」


「あ、オームロ工房さん?この方ご存じでしょうか?」


警備員さんが聞いてくる。


星奈さんに比べると少し背が低めの女の子?かな。でも着ている服は今時の高校生っぽい?か…?いや、大学生?もしや中学生かも…?だめだ、年齢が全く分からない…。


「すみません。わからないです。」


「分かりました。そういうことですので、お引き取りください。」


警備員さんに連れていかれる女性。


「ま、待ってください!…えっと、あの!私、さっきの配信見たんですよ!」


すると女性は、俺にそんなことを言って来る。


「え?配信を?」


「はい!月星さんの所属がここって知って、家から近かったので、見に来たんです!」


…そうか。ここのことを知ってわざわざ…。


「…あ、警備員さん。その人と少し話がしたいので、連れて行かなくて大丈夫ですよ。」


「え?わかりました…。」


警備員さんにはビルの入り口に戻ってもらい、俺はフロントにある待合席でこの女性の話を聞くことにした。


「えっと、詳しく聞いてもいいですか?」


「はい、えっと、私九島くしま芹音せりねって言います。高校二年生です。」


「ああ、ご丁寧にどうも。俺は黒井駿作って言います。」


おお、高校生だったか。


「それでその、実は、私の配信をしていて…。」


「はい。」


ああ、だから気になったのかな?


九島さんは一呼吸すると、



「あの、私を、この事務所に入れてくれませんか!」



「…はい?!」


思わぬ提案に驚いてしまった。
















「こりゃすごい…。」


「おう…。」


「へぇ…。」


俺、天摩、美里は、オフィスにある同じパソコンの画面を覗いている。


そこに映し出されているのは一つのチャンネル。


『Sene』という名前のチャンネル。登録者は8.47万人。


主に歌ってみたといういろんなひとが作った歌をカバーした動画を投稿しているようで、そのどれもが再生数10万を超えていた。


そしてライブのアーカイブにはゲーム配信があり、そのなかには『ブイゲー』にあるゲームをプレイしたライブもいくつかあった。



そう、これが九島芹音さんのチャンネルだ。


近くにこんな配信者がいたとは。



「読み方はセネです。歌い手謙ゲーム配信者としてやってます。」


「なるほど…。」


なんて言ったらいいか…。すごいな…。


「あの、本当にうちなんかの会社でいいんですか?」


「おいなんかとはなんだ。」


美里が九島さんに聞いた言葉に天摩が反応する。


「はい、ここがいいんです。今日の月星さんの配信を見て、配信環境もすごくいいし、何より楽しそうにゲームしてお話しする星奈さんに憧れました。」


「そ、そうですか、ありがとうございます。」


これは素直に喜んでいいやつだな。


星奈さんにも聞かせてあげたいけど。



「そういえば、高校生以下の人が事務所に所属するには親の承諾がいるよな。」


天摩が聞いてくる。


「ああ、そうだなぁ…。」


「それなら大丈夫です、私の両親には許可をもらってここに来ました。」



「え、そ、そうですか。」


天摩がぽかんとしたあと、椅子に座りなおす。


…この子、できる子だ…。


「駿作、お前がいいんならいいんだけどどうする?」


「え、」


まさかの俺に決定権があるようだ。


…まあ、せっかくあの配信を見てきてくれたんだもんなぁ…。


よし。


「いいでしょう。ようこそオームロ工房へ。手続きはまたご両親と一緒に来た時にでもしましょうか。」


「…!ありがとうございます!」


九島さんが手を突き出してきたので、俺はそれを受け取って、握手を交わす。



こうして新たにSeneこと九島芹音さんが、オームロ工房の所属配信者になった。


一件落着…か…。



いつの間に起きてきたのか、棒立ちの星奈さんと目が合う。


「お、おはようございます、星奈さん。」


なぜか口元を抑えておろおろ?している星奈さん。


「…しゅ、駿作さんに4人目の女性が…!」


「え、ちちょちょっと待ってください、いや違いますって、それ色々と誤解生みますから!!」


一件落着とはいかなかった…。


「…あ、あれ…?!星奈お姉さん?!」


「え……、もしかして芹音ちゃん?!」




こ、今度は何だ…?














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