第29話 ライバル



およそ10年前。


俺が高校に通っていたころだ。



俺、いや、黒井少年はこれでも勉強ができたのだ。


どれくらいかというと、定期テストの学年の順位トップファイブに入るくらいにはできた。


ちなみにクラスではだいたい一位だ。


そして、毎度玄関口に張り出される順位表を見て、特に悔しがる女子生徒が一人。


「くっ、また負けたッ…!」


彼女の名前は氷浦一紗ひうらかずさ。俺と同じクラスの友人だ。

様々な製品を製造する『氷浦グループ』の一人娘でもある。


成績優秀スポーツ万能、おまけに美人ときたものだ。

友人も多いし、先生からの信頼も厚い。


そんな彼女が、成績を見て悔しがる理由。


「おいシュン。どうやって今回の外国語のテストを切り抜けたんだ?」


「え?あれは…。」


俺とクラス順位を競っているからだ。ほぼ一方的にだが。


しかも毎回俺が一位、一紗が二位なのだが。


一紗はクラス順位一位、学年順位トップファイブ入りを狙っているが、いつも自分の上にいる俺をライバル視しているらしい…。


今思えばそれがあったから勉強をさらに頑張れたのかもな。




当時俺はこの関係をよしとしていら。一紗のおかげで陰キャの俺にも数人の話し相手ができたし。


だから全然、というか嬉しいですありがとうに近いのだけど。


それに一紗と勉強するのは楽しいからな。



こうして一紗とは親しい関係が続き、大人になった今も時々連絡を取っていたのだが…。



スマホが壊れたから連絡する手段なかったわぁ!!









「か、一紗…、なんでここに…?」


「なんでと言われてもな、シュンの会社の商品を作るとか、もろもろ大事な話し合いをしに来たんだが…、聞いてなかったか?」


「うん聞いてないね。」


ふと天摩を見る。


「お、俺が、わ、わ、忘れるわけねえだろ…?ははっ…」


天摩明後日を向いていた。


ごまかせてないぞ天摩。そういう大事なことは先に言ってくれないと…。



「それに、急に連絡を寄こさなくなったがどうしたんだ?」


「ああ、スマホが壊れて連絡先が全部消えちゃってさ。」


「そうだったか…。」



「ちょっと待ってください!」



そこまで俺と一紗が話したところで、星奈さんが待ったをかける。


「あ、あの、駿作さん。この方は、駿作さんとどういうご関係なんですか…?」


星奈さんがおずおずと聞いてくる。



「ええと、この人は氷浦一紗、俺の高校時代の同級生。」


「よろしく」


一紗が星奈さんに少し笑って見せる。



「へ、へ~。どうして駿作さんの周りには美人な人が多いんでしょうかねぇ…。」


星奈さんの顔が引きつっている気が…。


というかそれは俺も聞きたい。


そうだよなぁ、三人とも俺には釣り合わない美人だし。


「まあ、星奈さんも美里も一紗も美人だしね。」


「え?!」


「ぅ?!」


「ッ?!」


その瞬間、三人の女性が驚く。


あ、



まーた失言しましたああああああああああああ!!



お、怒られるかな…。




「び、美人だって…、美人…!駿作さんが私のことを…!美人って…!」


星奈さんが両手で顔を抑えて何かを言っている。


「ッ~~~~~~~~~!!!」


美里はその場でうつむいてプルプルしていた。


「す、ストレートだ…シュン…。」


一紗は少し後ずさりして、左胸を両手で抑えた。



あれ?怒る…というかみんな顔が赤いような…。



俺は俺の後ろでにやにやしていた天摩に歩み寄る。



「な、なあ、天摩。なんで俺怒られないんだ?」


小声で天摩に聞く。


「……はぁ…、それが分からないことを怒ってもらった方がいいぞ…。お前…。」



「?????」



だめだ、何もわからん。











「それで、今は皆で何をしていたんだ?」


三人が立ち直ったっところで、一紗が聞いてくる。


「ああ、料理対決だよ。俺の朝食をどっちが作るのか競ってた。」


「なんだって!シュンに手料理を食べさせる競技なのか!では私も参加させてもらおう!」


ちょっと違うが…



「「ええ?!」」


俺が驚くよりも先に、星奈さんと美里が驚いた。


「ま、待ってください!」

本日何度目かの、星奈さんの待ったが入る。


「私は駿作さんに日頃の感謝のこめて作りたいと思ったんです!一紗さんには、駿作さんに料理を作りたい理由があるんですか?」


星奈さんが一紗さんに迫る。



「…?私がシュンを好きだからというのが理由だが?」



「ひょぇ?!」


「えっ?!」


一紗の言葉に星奈さんと美里が驚いて後ずさりする。


もう何回目かの誤解を生んだって…。


「一紗、それくらいにしといてくれ。あんまり人をからかうのは良くないぞ。」


「からかってなどいないぞ?私はいつでも本気だ。」


「あのなぁ…。」



一紗は高校の時からの付き合いだが、卒業して大学に入ってしばらくしてから突然、時々送られてくるメールに「好きだ」とか「愛している」などとつけてくるようになった。


どういう意図があってそんなことを始めたのかわからないが、毎度言われるものだからもうとっくに慣れてしまった。


だからか、周囲に人が居ようが、なりふり構わず好きだというときもあってちょっと困っているが…。



「す、好き?!今、駿作さんのことを好きって言いましたよね?!」


「か、一紗ちゃんのことは聞いてたけど、そんな関係だったの…?!」


ほらぁ、二人が混乱してるって。



「むぅ、なぜいつも軽くあしらわれてしまうんだ…。」


一紗が小声でぼそぼそと何か言っているが…。




「ごめんな天摩、なんかいろいろと…。」


「…それは全然かまわねんだけど…。」


天摩の顔が少しだけひきつってる気がする。


「ん、なんだ?」


「はぁ……、俺は友人として、お前を一発殴りたいけどな。」


「なんで?!」




今日一日わけの分からないことだらけなんだが…。

















またライバルが増えちゃったよ、どうしよう…。



ぐぬぬ、一紗ちゃん侮れないわね…。



はっ、もしや私の見た目に問題があるというのか?!



まったくバカ駿作…、つくづくこの三人が可哀想だぞ。











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