第28話 料理対決と訪問者



時刻は12時過ぎ、おなかがすいてくる時間だ。


「…できた!」


俺の向かいのデスクで仕事をしていた美里が、そう言って立ち上がると、印刷した資料を天摩に渡す。


「おお、短時間でやったにしてはよく出来てるじゃねえか。オッケー、早めだが昼飯にしていいぞ。」


「ありがと!よし、作るぞー!」


美里はそのまま走って会社を出ていく。


「仕事の出来を褒められたことより料理優先かよ。」


天摩はやけにテンションの高い美里に、笑いながら軽くため息をついた。



俺もため息をつきたい気分だよ。






あれからなんやかんやあって仕事が始まったわけだが、10時くらいだったか?大学に行ったはずの星奈さんが戻ってきた。


そして会社にきて早々


「美里さん!私、午後の授業だけ受ければ大丈夫なので!お昼時に料理対決しましょう!」


そんな提案をしてきた。


「いいわよ!さっそく勝負をつけられるじゃない!」


そしてもちろん、美里は承諾した。だが、



「だめだ、美里は自分の仕事が終わるまでよそ事は許さないからな。」


「うう、じゃあ今すぐやってやるわよ!」


天摩の釘刺しに美里は燃えて、あっという間に今日の分のノルマを終えてしまった。


前から思ってたけど、美里って仕事捌くのうますぎだろ…。





そうして今、美里は材料の買い出しに飛び出して行ったわけだ。


なんで俺に料理を作るだけでめちゃくちゃやる気に満ちているのか、俺にはいまいちわからなかったが…。



ちなみに星奈さんは、倉庫の隣にあるキッチンで現在進行形で料理をしている。


この台所は俺たち社員が使えるように、オフィスから直でいけるようになっている。


本当はその隣にある倉庫まで入り口を作る予定だったが、ここにきて「節約するぞ」と天摩が言ったので、倉庫に行くときは会社を出て、廊下経由で行かないといけない。


正直面倒くさいが…。




そんなこんなで俺も、午前に必要なノルマよりだいぶ多く終わらせられた。


そして一回休憩に入ろうかというタイミングで、星奈さんがお皿を持って、台所から飛び出してきた。


「おまたせしました駿作さん!私の料理を食べてください!」


そう言って星奈さんが、いつの間にか用意されていた長机の上に置く。


俺はそこに、自分のデスクで使っていたキャスター付きのイスを持ってくる。


「さぁ、美里さんが返ってくる前にじゃんじゃん食べてください。美里さんの料理ができるころには食べられなくなっているくらい、食べてくれてもいいんですよ?」


「…最初からそれが狙いですか?」


「ふふっ、どうでしょうかねぇ~」


星奈さん恐るべし…。



「ああ!勝手に食べさせ始めちゃダメでしょ!早めに作り出していた時から嫌な予感はしていたけど!反則よ!」


両手に買い物袋を下げた美里が戻ってくる。


「うーん、そんな反則はルールにありませんでしたよ?美里さん。」


「ぐぬぬぬ、待ってなさい…秒で作るから。」


美里さんはそう言い残して、風のように台所に入って具材を切り始めた。


「さぁさぁ、月城星奈の手料理、早く食べてください!」


「あ、はい。わかりました…。」


目の前にあるのはチャーハンと餃子だった。中華で勝負に出たってことか。

俺の好物が餃子だってのはここにいる誰にも言ってないけど、わかって出したのかたまたまなのか…。


「なぜ餃子を出したのですか?」


俺もつい判定する人間側として、会話にノってみる。


「餃子なら、男性のハートを射止めることができるかなぁと思ったからです。」


「なるほど。流石です。」


男性に人気の料理を事前に調べてくるとは、流石だ。


「じゃあ、いただきます。」


俺はレンゲでチャーハンを一口すくって、口に運ぶ。


ん!


「…おいしいです。」


「やったぁ!」


ちょうどいい塩加減と、広がるニンニクと胡椒の風味と香り…。

美味しいなぁ…。

星奈さん、ここ数週間で料理にめきめきと力をつけてるし…。恐るべし慣れの速さ。


そして餃子も口に運ぶ。


「うま…」


ニンニクとねぎの香りと、肉汁が口いっぱいに広がる。

めっちゃ料理うまくなってますやん星奈さん。


「餃子も最高です。」


「わぁ!ありがとうございます!」


いやぁ、本当にうまいなぁ…。


そのまま数分、俺が夢中でもぐもぐと食べていると、




「ちょっと待って!それ以上食べちゃったら私の手料理がお腹に入らないじゃない!」


皿を片手に速足で俺の前にやって来たのは、美里だった。


待って、さっき作り始めてたよね?

この人仕事だけじゃなくて料理も早いのか…?


「私のはこれよ。」


そう言って出されたのは、酢豚だった。



「ちょっと美里さん!お昼ご飯にしては少なすぎではないですか?駿作さんはよく食べる方なんです!」


星奈さんが美里に抗議する。確かに、俺は食べる方ではあるが…。


「あら、星奈ちゃんが作りすぎるから、気を使って一品にしたんだよ?そっちこそ駿作くんのお腹のこと考えられてないんじゃないの?」


「ッ~~~!!!」


美里の言葉に、星奈さんが声もなく悔しがっているのが分かる。



「さ、駿作くん。私の酢豚、食べてね~。」


「お、おう…。」


俺は美里の作った酢豚をすくって口に運ぶ。


「ん!うま…!」


この程よい甘酸っぱさと肉のうまみがしっかり出てる!肉にはしっかり味が染みているし!どうやってこの短時間でうまくしたんだろうか…。


「お、おいしい?」


「おう、めちゃくちゃうまい。」


「やった~!!」


美里は飛び跳ねんばかりに喜んだ。



ガチャッ


「ん、」


そこで会社の入り口が開く。


お客さんか?

見苦しいところは見せられないが…。





「ああ!」


入り口にいる女性、長いストレートの黒髪、整った顔…。


「シュン、久しぶり。」




そこに立っていたのは氷浦グループ副社長で、俺の元同級生の氷浦一紗ひうらかずさだった。







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