第24話 新社の下準備
星奈さんに昼ご飯を作ってもらってからはや三日、俺は朝、少しだけ早く起きて、最寄り駅から二駅隣の町にある、『オームロ工房』の会社のあるビルに来ていた。
そのビルの前で大室と待ち合わせしていて、俺よりも先にビルに来ていた。
「おはよう。」
「おお、黒井、おはよう。どうだ、ここが俺たちの会社のあるビルだぞ。」
「へぇ…、結構いいところだなぁ。」
「だろ?駅から近いし立地も最高。いいところを教えてもらった。」
教えてもらったってことは、大室の人脈かな?こいつの計り知れない人脈が怖い。
「…もしかしなくても自慢の人脈か?」
「ははっ、そうそう、わたくしご自慢のツテでございますよ。」
「なんだよそれ。」
俺たちは冗談を言い合いながら、ビルに入る。
入り口の受付の横にあるテナントの案内板、一階から五階に入っているテナントの名前があり、その三階には、『オームロ工房』とかかれている。
「あれ、もう会社の看板のデザイン決まってるのか。」
ずいぶんおしゃれだな。
「ああ、これは自分で考えた。」
「そうか、まあ俺たち広告代理業だしな。」
流石大室。できることはすぐにやっちゃうから仕事が早い。
エレベータに乗って三階に向かう。
エレベーターを降りて、壁が一面ガラス張りのドアのオフィスに来た。
そこには少し大きめに『オームロ工房』と書かれている。
「ようこそ、わが社へ。まだ始まってはないけどな。」
「おおっ。」
なかなか広いオフィスだ。大きい窓から日差しが入って、室内はとても明るい。
入って左側は事務スペースだろうか、同じつくりの机と椅子がいくつか並んでいた。
右奥にあるいくつかの小部屋みたいなスペースは何だろう。
近づいてみると、天井から『ライバー課』とかかれた吊り看板があった。
「もしかして、あれって配信用の個室か?」
「ご名答。家で配信とかできないときなんかは、ここのオフィスを使って出きるようにしてみたんだ。」
「なるほどな」
流石大室だ。
個室のドアを開いてみると、俺が今使っているのよりもずっと性能のよさそうなパソコンと、高そうなゲーミングチェアが置いてあった。
「すご…、金かかってそうだな…。」
「おーい黒井!こっちこいよ!」
俺が個室を眺めていると、大室が呼んできた。
「はい、ここがお前の席な。」
そういって大室は、窓側から一番近い席を指さす。
「え、もう決まってるんだ?」
「いや、俺的にはなんとなくここがいいなって思っただけだ。嫌ならお前好みで変えていいぞ。」
おそらく大室が座るであろう、窓を背中に向けて座る形で置かれたデスク。
そこから一番近い場所だからかな。
てことは…。
「俺の向かいは佐畑さんってことか?」
「そういうこと。」
確かに、この構成なら仕事はしやすそうだな。わざわざ離れて座る必要もないし。
俺がそのあと、ぐるぐると社内を見渡していると…。
「そうだ、この会社の始業が2週間後くりなんだよ、だからいまのうちにやりたいことをやっちまいたいから、手伝ってくれ。」
大室が話しかけてきた。
「ああ、もちろん。」
そりゃやりますよ。俺たちの会社なんだしな。
俺は大室について行き、ガラス張りのオフィスの隣にある部屋に案内された。
「ここは会社の倉庫だ。オフィスに置く以外で必要なものはここに置くことになるから覚えておいてくれ。」
「おう。」
なるほどな、十分な広さもあるし、この鉄製の頑丈そうな棚にならいくらでもモノを置けそうだ。
「それでだな…。」
大室は地面に置かれた沢山の段ボールを開く。
「この段ボールの中にあるパソコンとかマウスとかを、俺たちのデスクに運ぶのやってくれないか?」
「オーケー。」
段ボールの中には白一色のパソコンが入っていた。
段ボール一個につき一つだから…、5つあるのか。
三つは使うだろうから、とりあえず三つは持っていくか。
「…重。」
一個でもだいぶ重いな…。一個ずつ運ぶか。
俺は段ボールを持ち上げてオフィスに戻る。
「パソコンはどれも同じやつだから、俺のでもお前のでもいいから、適当に広げて設置しといてくれ。」
「わかった。」
俺は段ボールからパソコンを取り出して、机の上に置いていく。
性能はわからないけど、まあ俺が使ってるやつと同じくらいかそれ以上だろうなぁ…。
俺もここでゲームやった方が、強くなれるんじゃないか…?
「そういえば、なんでパソコンが白なんだ?」
「白の方が明るくて、会社の雰囲気もよくなるだろ?」
「なるほどな。」
大室、こういうところにも見た目を考えられるのは、根っからの広告代理業人だな。まさに転職というやつか。
こうして俺は、腰を痛めないように運び方に気を付けながら、パソコンを置いていく。
パソコンは使うときまで袋にかぶせたままだ。埃がつくのは汚いからな。
「よし、終わった。」
頼まれたパソコンを設置し終わった。
「お疲れさん。ありがとな。」
「おう。」
うん、綺麗なオフィスだったが、モノが置かれていくほどに会社の全容が見えてきて、これから働くことに少しワクワクしていた。
一か月前の俺じゃ考えられなかっただろうなぁ。
「よし、これでとりあえず今日やってほしいことは終わった。ありがとな。黒井。」
「全然、俺たちの会社だしな。」
……俺たちの会社。
大室たちとはこれからともに仕事をしていくんだよな。
…。
「あのさ、大室。」
「ん、なんだ?」
「これから名前で呼び合わないか?」
「え?」
大室はぽかんとする。
「これからさらに深くかかわってく奴といつまでも苗字呼びって、なんか距離感がある気がしてさ。」
「お、おお、…まあ確かにそうだな。全然いいぞ。」
「おう、ありがとう。よろしくな
「こちらこそ、よろしくな
うん、大室との関係は大事にしていきたいしな。
「だったら、佐畑のことも名前で呼んでやれよ?」
「あ、ああ、そうだな。」
佐畑さんを名前呼びか…。
佐畑さんに会ったときに「美里さん」なんてよびかたしたら驚かれるだろうなぁ。
「うし、まあ今日はこれで終わりだがまた呼ぶかもしれないから、よろしくな。」
「おう、まかせて。」
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