第23話 たどたど星奈さん



「駿作さん!できましたよ!」


ちょうど3試合目を終えたところで、星奈さんが俺を呼ぶ。

ナイスタイミング。


「わかりました。」


俺はスマホを置いて、テーブルの前に立つ。


「おおっ。」


なんと、星奈さんの作った料理はオムライスだった。しかも形が綺麗。


「どうですか?今回は自信作なんですけど。」


自身作、納得だ。

とても二日前まで、料理をしたことがなかった人とは思えない。


「めっちゃおいしそうです。」


「ッ…!そうですか…!!」


俺の言葉に喜んでもらえたようだ。


「ささ、どうぞ食べてください!」


星奈さんが俺にスプーンを渡してきたので、それを受け取って椅子に座る。


「いただきます。」


オムライスを一口サイズに切って、口に運ぶ。


「んっ?!」


「え、ど、どうしました?!」


いや、これは…


「うまい!!!」


「わぁっ!」


なんだこれ?!俺が作るよりも店で食べるよりも美味い気がする!すごい!美味すぎるぞ!!


「これすごいです、どんどん食べれちゃいます。」


すごいな、本当にたった2日の練習なのか?美味すぎる。


俺は我を忘れてバクバク食べた。


たまごふわふわで微量に甘いから、ケチャップライスとよくあう!


ちょっと上から目線になってしまうが、この加減ができているだけでめちゃくちゃすごいと思う。


「星奈さん、店出しましょう」


「もう、駿作さん褒めすぎですよ!」


「だってそれだけ美味いんですもん。」


「嬉しいです。ありがとうございます…。」









「ふぅ…。」


あっという間に食べ終わってしまった。


「ご馳走様でした。」


「お粗末さまです!」


「めちゃくちゃ美味しかったです。一日でこの腕はすごすぎて驚きました。」


「そんな、褒めすぎですって!」


いや、でもそれくらい美味しいんだよな…。流石星奈さん…だな。


「また作るので、ぜひ食べてくださいね!」


「もちろんですよ!」


あ、でも、俺にばかり作って大丈夫なのかな。

お友達とかにも食べさせててあげたりとか…。


「俺だけじゃなくて、友達とかにも振舞ってみてはどうですか?この腕なら喜ばれると思いますけど。」


「え?!や、わ、私は……その…」


「…ん?」


「な、なんでもないです!とにかく私が作りたいので作ったらぜひぜひ食べてください!それだけですから!」


「え、ああ、はい。わかりました。」


星奈さんが早口でそう言うので、俺はうなずくしかなかった。


なんか聞いちゃいけなかったかもしれない…。反省反省。











もう…、駿作さん、急にあんなこと言いだすから、驚いてついいろいろ言っちゃった気がするけど、大丈夫だったかな、変に思われてないかな…?










「さて、一通り相談事も終わりましたし、ここでお暇させていただきますね。」


「え!い、いや、もうちょっといてくれてもいいんですよ…?」


「そんな、悪いですよ。」


「う、まあ…。そうですよね…。すみません。」


「…?大丈夫ですよ。むしろお邪魔してお昼までいただいちゃったのア俺の方ですし。」


星奈さんが謝ることなんて何もないのに。


「駿作さん…もう……。」


星奈さんが何やらご不満そうな顔だ。やっぱり何かしちゃったか…。



ピリリリリリリリリリッ


「ん?」


電話が鳴った。


俺の新しい電話が鳴るのは初めてだ。


「すみません、ちょっとでますね。」


「はい。」


俺はとりあえず外に出て、電話に出る。


「もしもし?」


「あ!黒井くん!!」


「んん?!」


突然耳もとで大声がして、驚く。


てか、この声…。


「佐畑…さん…?」


「そうだよ!佐畑美里!忘れたわけじゃないでしょう?!」


「う、うん。覚えてるよ…。」


「急に会社からいなくなったかと思ったら、連絡もつかなくなって、そしたら昨日急に連絡先が追加されるものだから何事かと思ったよ!」


「あ、ああ…。」


「それで急に追加してきたと思ったら、それから何も連絡してこないし!もうしびれを切らしてこっちから連絡しちゃったじゃない。」


「そ、それはごめん…。」


そういえば、連絡するの忘れてた……。

当日あったときに話せばいいやなんて思っちゃったけど、俺のこと心配してくれてたんだよな…?


「いや、本当にごめんなさい。心配かけて。」


「そうだよ…。本当に……心配したんだから…。」


「え…。」


電話越しの佐畑さんの声が鼻声だった。

いや、本当に申し訳ないことをしたな…。


「それにしてもよかったよ、元気そうで…。それに、大室くんの会社で働くことになったみたいでよかったよ。」


本当に俺のこと案じてくれてたんだな…。


「…そうなんだよ、大室には感謝してる。そういえば、佐畑さんも、あそこをやめて大室の会社に行くんでしょ?」


「そうなの!また一緒に働けるね。」


「そうだな。」


うん、今度会った時にしっかり謝ろう…。



「じゃあ、また電話する。」


「うん、ちゃんと連絡してよ?」


「はい、すみませんでした。」



俺は佐畑さんとの電話を切る。



「すみません、電話終わりました。」


「ひゃい?!お、おおおおお疲れ様です!!」


星奈さんの受け答えがしどろもどろだなぁ…。


「…?はい。じゃ、、俺はこれで失礼しますね。お邪魔しました。」


俺は玄関横の靴棚の上に置いた上着をとって外に出る。


「は、はい…。また会いましょう…。」



大丈夫かな星奈さん。本当に俺なんか行っちゃいけないこと言ったかもしれない。


星奈さんにも謝らないといけないかも…。



俺は頭を抱えて星奈さんのマンションを後にした。














危なかった!


別にやましい気持ちで駿作さんの上着を触っていたわけじゃないけど…。いや、やましい気持ちだったのかもしれない…。


大丈夫だったかな。バレてないかな…。


どうしちゃったんだろう私…。駿作さん相手だとおかしくなっちゃう。


だめだ…、そのうち普通に話せなくなっちゃうんじゃ…?


いやいやいや…。そんなの嫌だ。駿作さんとはもっとお話ししたい…!



ううう…。





私は頭を抱えて、玄関で一人悩んだ。

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