第21話 星奈さんと新企画



大室と再会して、駅で別れた次の日、俺は星奈せいなさんの住むアパートに来ていた。

俺が一夜使って考えたことを、星奈さんに話すためだ。


インターホンを鳴らす。


「はーい」


星奈さんの声が小さく聞こえて、少しすると、


「え、駿作しゅんさくさん!」


星奈さんはドアを開けるなり、俺の顔を見て驚く


「おはようございます、今回はお話があってきました。」


「そうなんですね!どうぞ中へ。」


星奈さんに案内されて、部屋に入る。


「お茶出すので台所借りますね。」


俺は星奈さんに断って台所に行く。星奈さんに無理はさせられないからな。


「え、それは本来私がやるべきことですよ!」


星奈さんは慌てている。


「いえ、せめて足のケガが完治するまではやらせてください。」


「…優しすぎです。」


「そんな、当たり前のことですよ。」


「むぅ…。」


星奈さんは「納得いかない」といった感じに頬をふくらました。不覚にも可愛いと思ってしまう。


美少女って何しても似合うよな…。


……ああああああ!!そういう考えは払拭するんだ!黒井駿作!今日は大事な話をしに来たんだから!


俺はごまかすように自分にはコーヒー、星奈さんには緑茶を作って、テーブルに持っていく。


「はいどうぞ、星奈さん。」


「ありがとうございます。」


今日はソファではなく、二人用のテーブル席にお互い向かい合って座る。



「それでですね、星奈さんに大事な話があってきたんです。」


「…はい。」


俺は一呼吸おいて、話を始めた。



「星奈さんは、配信者を今後も続けていきたいですか?」


俺は真剣な顔になったつもりで、星奈さんに聞く。


「え……、はい!駿作さんのおかげで、配信をやることにさらに楽しさを見つけられたので、引き続き、どんどんやっていきたいと思ってました!」


「なら、有名な配信者になってみたいという考えはありますか?」


「もちろんです!視聴者さんと楽しくお話ししながらゲームしたいです!」



よかった、星奈さんがそういう気持ちなら安心だ。


正直今俺が考えている企画は、星奈さんが今後どうしていきたいかがすごく重要になってくるんだ。



「星奈さんは、一昨日俺に、広告を作ってほしいと頼んできたじゃないですか。」


「そうですね。」


「星奈さんの配信を、広告だけじゃなくて、配信周り全体のサポートをやらせてほしいなって思いまして。」


「え…!そんなことできるんですか?!というか、い、いいんですか…?」


「はい、実は新しい就職先が決まりまして、元同僚の会社なんですけど、そこで新しくやることになった企画で、星奈さんをサポートしたいなと。」


「え、おめでとうございます!」


「いえいえ、ありがとうございます。」




この話を星奈さんに持ち掛けたのには、もちろんちゃんとした理由がある。



昨日大室から電話があった。


大室は、自分の会社『オームロ工房』で、今までのノウハウを生かして広告代理業でやるつもりだった。しかし、自分の人脈だと、最初は順調でもその後に手に入る収入に限界があると分かって、急遽広告代理とほかに何かやりたいと考えたらしい。


それで何かいい案はないかと俺に相談したい、ということらしい。


もちろん、俺が今後働いていく会社なんだから、喜んで相談に乗った。



どうせなら、広告代理店なんだし、そういう宣伝とかできる仕事がいいよなぁと二人で考えていて、俺は思いついた。


広告はなにも店頭に貼ったりするものだけではない、最近じゃネットにあるような広告も請け負っているところもある。


だから、広告請け負います!という広告を会社で作って、『ヨーツベ』とかで流せば、依頼が来るんじゃないかと。


そして、その宣伝はただ紹介するだけじゃなくて、宣伝してくれるような人やキャラクターが欲しい。


そう、


今話題のライバーを起用したらどうだろうかと考えた。



最近は『ヨーツベ』で流れる広告で、ゲームの宣伝を請け負うライバーや、省庁の宣伝で異例のコラボして話題に上がったライバー、寂れていたテーマパークとコラボして、コラボグッズと共にそのテーマパークの売り上げを元に戻したライバーだったりと。


その提案に、大室もすごく納得はしてくれたが…、


「肝心のライバーをどうやって集めるんだ?」


そう聞かれた。



そう、そこが大事だ。今のちっちゃい会社じゃ大室には悪いが、誰も仕事は回してくれない。


うん。だから俺はこう提案した。



「『オームロ工房』にライバー事務所を作ろう!」



「はぁ?!」








「星奈さんの配信周りのサポートを俺たちがするので、その代わりに星奈さんは俺たちの作った新しいライバー事務所の名前を背負ってほしいんですよ。」


「え?!私が駿作さんたちの会社をですか?!」


まあ、驚くよね…。


「え、あの、そんな重要な役目を私なんかがやっちゃっていいんですか…?」


「星奈さんにならむしろやってほしいと思って頼んでます。どうですか?」


「あぁ…。」


星奈せいなさん、事前に断っておきます。ただ配信をやるだけとはいえ、一応俺たちの会社の社員になってしまうんですけど、それでもいいですか?無理ならもちろん断っていただいて大丈夫です。」


「…。」



星奈さんは配信者としての器が凄いと思う。だからそれを生かせる環境を俺たちで作って、楽しく配信をしている星奈さんを見て、うちの事務所にも目を向けてくれたら!という夢物語みたいな考え方だ。


でも、星奈さんなら絶対人気になる…。そう確信している。



俺の言葉を聞いた後、星奈さんはうつむいたまましばらく動かなかった。



「あの…、星奈さん?」



うん、出来ませんと言われたら、そこは星奈さんの気持ちを受け止める。

星奈さんに無理を言って、利益のためだけに配信をしてもらう…、なんてことは絶対したくない。



なんて回答が返ってくるんだろう…。





「……すごく!すごくおもしろそうです!今からわくわくしてきました!やります!やらせてください!」


「お、おう…。」


星奈さんがめっちゃぐいぐい来る。


というか、めっちゃうれしい言葉だなぁ!


星奈さんにやってもらえるなら本望だ。



あ、でも。


「俺たちの会社の社員という肩書があっても本当に大丈夫ですか?」


当たり前だけど、星奈さんは星奈さんだ。だからこれだけはちゃんと聞いておかないと…。


「え?全然いいですよ!私は配信を今よりももっといい環境でできるだけでもうれしいのに、さらに駿作さんたちのお手伝いもできるなんて、一石二鳥じゃないですか!」


「せ、星奈さぁん…。」



もう天使だなこの人。




「じゃあ…、星奈さんに頼んでも大丈夫ですか?」


「はい!よろしくお願いします!」


俺たちは握手をした。







この日、



『オームロ工房』に新しく、『ライバー課』というものが追加されることとなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る