第19話 元同僚との再会
時刻は17時過ぎ。そろそろお
玄関で
「どんな広告を作りたいとかは、また決めていくって感じでもいいですか?」
「大丈夫ですよ。」
星奈さんをずっと立たせるわけにはいかないので、手短に話を済ませる。
「じゃあ、お邪魔しました。」
俺は外に出る。
「今日はありがとうございました!また連絡先教えてくださいね!」
「はーい。」
そんな言葉を背に俺は家へ向かう。
……あ、俺スマホないじゃん!
明日の予定が決まったな。
*
「よし。」
時刻は朝9時。
ようやく壊れたスマホを修理に出しに、外に出る。
今日は、家から歩いて30分くらいのところにある携帯ショップに向かう。
正直どこかに行くたびにタクシーを使ってはお金がもったいないから、最近は使わないようにしている。
うーん、もともと働いてた時は徒歩5分の駅に向かうだけだったから、ニートになってからはすごい自転車が欲しくなった。
一応車の免許もあるけど、車を買うお金はそう簡単に用意できないんだよなぁ…。
このままだと完全なペーパードライバーになってしまう。
そんなことを考えながらも、俺は歩いた。
「ふぅ…。」
疲れた。体力なさすぎだな、俺。
無事に携帯ショップに着いたので、とりあえず中に入る。
手前にある携帯売り場を抜けて、受付に向かう。
「いらっしゃいませ。」
奥にいた店員さんが俺に気づいて近づいてきた。
「すみません、壊れたスマホのデータを復元したいんですけど。」
「かしこまりました、こちらにおかけになってお待ちください。」
俺は受け付けに座って待つ。
「お待たせいたしました。お客様のスマートフォンを見せていただいてもよろしいでしょうか。」
「はい。」
俺は肩掛けカバンから、パッケージに入れた無残な姿のスマホを取り出す。
「なるほど、落として潰されたという感じですかね。」
「そうですねぇ。」
店員さんはスマホを軽く眺める。
「新しいスマートフォンにして、データだけ引き継ぎしたいということでしたね。」
「はい。」
「かしこまりました。ではデータメモリを取り出しますね。」
店員さんはそう言って道具を取り出し、スマホを分解する。
流石携帯ショップの店員さん。ものの数分でメモリを取り出してしまった。
「あー、メモリが変形していますねぇ…。」
マジか。
「それだとまずいですか?」
「いえ、ただ完全にデータの復元ができるかというと分かりません。」
「そうですか…。」
「では、データを復元しますので、2時間ほどお時間を頂いてもよろしいですか。」
「わかりました。お願いします。」
2時間か、どこかで暇をつぶそうかな。
俺は携帯ショップを出ようと出口に向かう。
その時に、ちょうど携帯ショップに入ってきたスーツの男性とぶつかった。
「すみません。」
「すみません。」
お互いに謝り、俺が店を出ようとして、
「あれ…、もしかして黒井か?」
久しぶりに聞く声が、後ろから聞こえて、振り返った。
スーツの男性だ。
…あっ
「え、
「ああ!やっぱり黒井か!久しぶりだなぁ!」
そこにいたのは、俺の元同僚、
俺は携帯ショップの隣にあるカフェで、大室を待った。
「お待たせ。」
「おう。」
20分くらいして、大室が俺の座っている席の向かいに座った。
「いやぁ、まさかこんなところで黒井に会えるなんてなぁ!」
「うん、俺も驚いてる。」
大室は、俺と一年くらい前まで同僚だった男だ。
大室が会社にいた時は、佐畑さんも含めた三人でお互い励ましあってたから全然部長や鳥田の嫌がらせにも耐えられたんだが、大室が急に会社をやめてしまい、佐畑さんともあまり会話しなくなってしまった。
それが原因というわけでもないが、励ましあう人がいたのは大きかったかもしれない。
「お前全然連絡寄こさなくなったからさ、心配したわ。」
「ごめん、スマホ壊れちゃってさ。」
「あー、それであそこにいたわけか。」
「そういうこと。」
大室との再会に、会話が弾む。
「そういえば、会社はどう?」
ああ。大室には…というか、会社の人間以外だと、星奈さん以外は俺が会社を辞めたこと知らないんだった。
「会社はね、やめたよ。というかクビになった。」
「え、マジで?」
大室は少し驚いていた。
「マジだよ。
「は?なんだよそれ、不当解雇じゃねえのか?それ」
大室が眉をひそめて、少し顔をしかめた。
「不当解雇だとは思うけど仕方ないんだよな。口答えしてたのは確かだし。」
「いやいやいや、あの鳥田にミスを
「それが通用しないのがあの会社の権藤っていう人間だよ。」
「はぁ、俺がいなくなったばかりに…、すまんな黒井…。」
「いいって、もう気にしてないから。そんなことよりなんか飲まないか?久々に会えたんだし。」
「ああ、そうだな。」
俺と大室はメニューを開いた。
「おまたせいたしました。こちらカフェラテと抹茶カフェラテになります。ごゆっくりどうぞ。」
俺は甘いものがあまり好きじゃないから、ミルク入りのカフェラテだ、大室は抹茶が好きだから抹茶カフェラテだ。
「ん~うま。」
大室が一口飲んで、しかめていた顔が和んだ。よかった。
「あ、そうだ。これ俺の連絡先。スマホ買い換えたら追加してくれや。」
そう言って渡してきたのは「オームロ工房株式会社 大室天摩」と書かれた名刺だ。
そして、その下に電話番号が書かれていた。
「オームロ工房…?」
「ああ、俺起業すんだよ。」
「え?!」
なんだそれ…?!
「あ、まさか会社やめたのって…。」
「そう、資金がたまった上に、宝くじで結構な額も当てちゃってさ、こりゃ起業するしかねぇ!って思って。」
「もともと起業するつもりで入社したのか?」
「そう。でも黒井がこんなに苦しんでたのかって思うと、今更ながら申し訳なくなってさ。」
「お前もつくづくいいやつだよな。」
「いんや、周りがひどいだけだ。」
「言えてるかもなぁ。」
やっぱこいつとの会話は弾むな。話してて楽しい。
「あ、てことはお前会社辞めたってことは今フリーだよな。」
「え?うん。」
なんだなんだ?
「だったらさ、お前がいいならうちの会社にこいよ。俺も優秀なクリエイターが欲しいしさ。黒井なら大歓迎だけど。」
「え?!」
願ってもない話が舞い降りてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます