第17話 初!女性の家



「今鍵開けますね。」


「は、はい。」


俺は今、星奈せいなさんの住むマンションの前に来ていた。


このマンションは、俺の住むマンションから徒歩で10分くらいのところにある別のマンションだ。


マンションがあるこっちの方面にはあまり行かないから、ここにマンションがあるのは知らなかった。


「どうぞ、」


「お、お邪魔します。」


ふわっといいにおいがした。


あ、玄関にディフューザーがある。匂いの正体はこれか。


「汚いですけど、」


床はベージュ色の木製、壁は白一色、どこにでもあるような普通の家だ。


ダイニングとソファのある空間の横にもう一つ部屋があるから、1LDKか。


全体的に家具も単色でとても落ち着いた感じがする。


「ついでですし、私の部屋も見てください。」


「え、はい」


そういって星奈さんはリビング横のドアをスライドする。


「おお、」


入った正面に、こちら側に背を向けるように置かれた赤色のゲーミングチェア。


その奥には真っ黒の机に真っ黒のPC、デスクトップ、キーボードマウス。


どれも結構いいやつだな…。


「あ、す、すみません散らかっていて。」


星奈さんは片足でぴょんぴょん飛びながら、机の上に並んでいたエナジードリンクの空き缶を片付け始めた。


「あの、俺やりますよ?」


流石に怪我人に掃除とかさせられない。


「え、いや、悪いですよ!」


そういう星奈さんだったが、俺は空き缶と、ついでにその横にあったゴミ袋をもって、そのまま玄関に持って行った。



多分だけど、星奈さんは掃除ができない…。少し意外だけど。


「す、すみません…、頼もうとしたのは掃除ではないのに…。」


「気にしないでください、俺がやってあげなきゃと思っただけなので。」


駿作しゅんさくさん…。」




俺はとりあえず星奈さんをソファに座らせた。


「それで、頼み事って何ですか?」


そう、もともと星奈さんの家にお邪魔したのは星奈さんに頼まれごとがあったのだ。


「え、えっとですね…。」


なんだろう。



「あの…、食事の作り方を教えてくれませんか!」



「…はぇ?」


そんな頼みごとをされた。






俺はソファの向かいに胡坐あぐらをかいて座る。



「実は、私一人暮らしを始めてから全く料理してなくて…。」


「え?!」


「そ、それで…毎日…カップ麺とか…、コンビニ弁当で…。」


「な、なるほど…。」



俺は、最近はジャンクフードばかりだったが、それ以前は一人暮らしを始めてからほぼ毎日自炊していたから、正直星奈さんの生活に驚いた。


「え、あの、一人暮らしはどれくらい前から?」


「今大学二年生なので…、1年半以上前からです…。」


おう…。


「それで…、今回病院の先生に言われて、栄養価のある食事をしましょうって言われて…、どうやら私の栄養の偏りもケガしやすい原因らしくて…。あはは…。」


なるほど、それで…。


…あれ?


「でもなんで僕が自炊できるって知ってるんですか?」


「え?!そ、それは…。」


…ん?




「か、勘です…。」



「勘??」



か、勘か…。


「す、すみません…。こんな頼み事しちゃって…。」


「ま、まあ、できますから!もちろん教えますよ。」


「あ、ありがとうございます!」



うん。まあ時には勘が大事になる…よな?







り、理由を考えるの忘れてたぁ~!変に思われてないかな…?





ちなみに足を捻挫した状態でやって大丈夫かと思ったが、座席の高い椅子を持ってきて、座りながらやるらしい。


こんな状態でもすぐ有言実行する人かな、すごいな。






「では、まずは簡単肉野菜炒めから行きましょうか。」


「は、はい!」


俺は台所に立ち、材料を用意した。


ちなみに冷蔵庫にはエナジードリンクとお茶、コンビニで買ったであろうプリンしかなかった。


なのですぐ近くの、俺がいつも行っているスーパーで、キャベツとにんじんとp-万、豚肉、サラダ油、一応卵と調味料も買った。



「では、俺が見ているので、指示通りやってみてください。」


「はい!」


星奈さんはエプロンも着て、準備万端だ。


……エプロン姿も似合うな。


「じゃあ、まず、にんじんを切りたいので、ニンジンを洗ってください。」


「はい!」


星奈さんはニンジンを洗い始めた。スポンジで。


「ちょぉっと!待った!」


「え?」


「手でこする感じで洗えばいいんですよ!」


「え、あ、そ、そうなんですか!すみません!」


星奈さん…、本当に料理やったことないんだな…。


「ある程度洗ったら、ニンジンを3分の1くらい残して切ってください。」


「はい!」


星奈さんは包丁を取り出して、まな板の上にニンジンを置く。


そして、プルプルした手のまま、猫の手よりだいぶ指の開いたままの手の上から切ろうとしていた。


「おわ、ちょ、ちょっと待ってください!」


「え?」


あ、危なっかしいな!そのままだと指切っちゃうよ!それも四本同時に。


「手はこう、グーにして、包丁の側面を、こう…、指に擦るように使うんです。」


「あ、小学校の家庭科でやりました!」


「そうですか、ではそんな感じでやってみてください。」


星奈さんはニンジンに刃を入れて、切った。


うん、ちゃんと切れてるな。


「な、なるほど、こうすれば指を切らないで済みますね!」


星奈さんはニコッと笑った。




「次は、皮をピーラーでむきます。できるだけ皮だけをむくようにして、あ、手も切らないようにしてください。」


「は、はい…。」


星奈さんはニンジンを見つめて、ゆっくりとを通す。


ゆっくりじっくりとすごく慎重に刃を通す。


「あ、あの、星奈さん…。もっと早くやっても問題ないですよ?ニンジンの皮と実の違いは、ぱっと見で分かりますから。」


「え、わ、あ、そうですよね!流石に遅かったですね、すみません…。」


うん、俺が最初に星奈さんを見た時は、ゲームがめっちゃうまくて話し上手で面白い人だったけど、なんと料理ができなかった。



完璧な人だと思ったけど、やっぱこういう一面もあってさらに面白いなこの人。


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