第16話 思わぬ提案



俺たちはファミレスから一番近かった大学病院に運ばれた。


その後、星奈せいなさんの足の調子を病院の先生に見てもらい、診察室で結果を聞いた。



「軽度の捻挫です。全治二週間程度なので、その間はあまり足を動かさないようにしてください。」


病院の先生が星奈さんにそういう。



「分かりました。ありがとうございます。」



俺と星奈さんは病室を後にする。星奈さんは松葉杖だ。


星奈さんは軽度の捻挫ということで、二週間のうちの最初の五日程度は松葉杖生活らしい。


うーん。マジで許せないなあの男。


折れてなかったのが幸いだった。



「星奈さん、大丈夫そうですか?」


「はい、慣れないですけど何とか。」



ちなみにあの男に掴まれた腕の痣も治療してもらった。


それもあとにはならないらしい。本当によかった…。



完全に守ってあげられなくて、星奈さんの生活に支障が出てしまったなぁ。


はぁ…。



「もしかして駿作しゅんさくさん、私が怪我したことを気にしてますか?」


「うぇ?!」



え、嘘、顔に出てたか…?



「あのレストランから逃げた時に言ったとおり、私は全然気にしていませんよ!むしろ感謝しています。そう言ったのは駿作さんじゃないですか!」


「せ、星奈さん…。」




…そうだよな。




「…そうですね、次は絶対無傷で守って見せます。」


「ふふっ、その時はお願いしますね?かっこいいヒーローさん。」


え、何そのパンチ!


「うぅ?!ま、まかせといてくださいよ!」


「はははっ、やっぱり元気な駿作さんが一番ですよ!」


「そ、そうですか?」


「はい!」



俺が元気な星奈さんが見たいように、星奈さんも俺の元気な姿を作ろうとしてるんだ。


嬉しいな。





俺たちは湿布とかを貰って病院を出た。


「星奈さん、とりあえずタクシー呼びますよ。支払いも俺がします。」


「え、そんな悪いですよ。」


「いやいや、星奈さんは怪我をしてますし、それに俺はそのままタクシーに乗って帰りますから、ついでですよ、ついで。」


「そ、そうですか……。」


ん?なんかちょっと歯切れが悪い気が…。




あ!




待ってそれじゃあ俺星奈さんの家を知ることになっちゃうよねぇ?!


「わ、いや、そういうのじゃないです!すみません!」


「…え?どういうことですか?」


あれ?それを気にしてるんじゃないのか?



俺の早とちり?!



「い、いや、すみません。なんか今の話の感じだと、俺が星奈さんの家の場所を知っちゃうことになっちゃうじゃないですか?」


「あ、ああ…、全然それは気にしてないですよ?」


あ、そうなんですね。


「なんか、すみません…。」


「いえいえ、送ってくれるんですから気にしないでください。」


優しいなぁ…。



とりあえず病院の敷地から外に出て、病院前の通りでタクシーを止めた。


「東町の薬局までお願いします。」


「分かりました。」


星奈さんの言葉に運転手さんが答える。



東町薬局は東町唯一の薬局だ。



東町の薬局は俺のマンションからも近い。



……いや、なんとなくわかっているけどあえて言わないほうがいいだろう。


余計変なことになってしまう。



「おや…」


すると、運転手さんが口を開いた。


「もしかしてそちらの男性の方、前の…。」


「ん?」


運転手さんがそんなことをので、俺はミラー越しに運転手さんの顔を見る。


「あ、」


この人、俺がクビになったときに乗ったタクシーの運転手さんだ。


「いやぁ、この間は本当にすみませんでした。転んでしまったのはこのタクシーについていたフックのせいだったんですよね?」


「え、あ、まあ、そうだったかもしれませんね。」


「いやあ、本当にすみませんでした。ここで会えたのも何かの縁ですし、お代は結構ですよ。」


「え、そんな、悪いですよ。」


「いいんですよぉ。」


「あ、じゃあ、まあ…、お言葉に甘えて…。」


おお、なんか運がよかったな。


不運の後には幸運が待ってるってことか…。


「隣の方は奥さんですか?」


「ぶっ!」


ちょっとぉおお!!!運転手さん!!!


「おく…?!」


星奈さんも顔を真っ赤にしていた。


「い、いえ、違うんですよ。この方は知り合いで、これから家へ送り届けるところなんです。」


「ああ、なるほどそうでしたか!すみません。前にあなたを下ろしたところから近かったので、同じ家に住んでるものだと。」


ちょおおおおおおおお!!!


俺が言ってないことをぉ!


「え??」


バレてしまった…。うーん。


「もしかして駿作さんの家、私の家と近いんですか?」


「は、はい、そうみたいですね?」


「なら、これからは配信越しじゃなくて、家で一緒にゲームができますね!」


「ええええええええ?!」


今度は心の叫びが出てしまった。


「そ、それはちょっと流石に!」


まだ知り合ったばかりの女性の家にお邪魔するなんて…!


「え?私は構いませんよ?」


違う!そういうことじゃないです!


この人やっぱちょっと天然だよなぁ…?


「ははは、仲が良いことで。」


運転手さんが笑う。



「あ、そうだ、駿作さん!」


「は、はい?」


こ、今度はなんだ…?


「その、えっと…。」


ん?


なんか、もじもじして…。


「あの、私の家に来て、手伝ってほしいことがあるんです!」


「は、はぁ。わかりました。」


まあ、それくらいなら…。





こうして、俺たちは東町の薬局に向かうのだった。












…これで駿作さんを家に呼ぶ口実ができました…!

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