第14話 星奈さんを救え!


俺は急いでトイレの前へ向かった。



「へへへぇ、姉ちゃん可愛いなぁ?ちょっと俺と遊ぼうぜ?」


「や、やめてください!私これから予定があるんです!」


「そんなのどうだっていいからさぁ?遊ぼうぜぇ?」


「いっ、痛いっ…。」



トイレの前では、大柄でチャラチャラした格好の男性に腕を掴まれて、痛がっている星奈せいなさんが見えた。



「ちょっと!何してるんですか!」



俺は厨房にいる店員さんにも気づかせるつもりで、久々に大きめの声を出した。


「あ?なんだよお前。」


大柄な男が俺を睨んでくる。


「しゅ、駿作しゅんさくさん…。」


涙目の星奈さん。


「シュンサクぅ?あんたらカレカノかぁ?てか、男の方地味すぎだろw、なあ姉ちゃん、あんな奴より俺と付き合わねえかぁ?」


「い、嫌です!」


「ああ?俺の誘いを断ろうってのかぁ?!」


「痛い痛いッ、や、やめて…ください…。」


大柄な男が星奈さんの腕をつかむ力を強めているみたいで、星奈さんはさらに痛がった。


くそが…。


「…その人を離せ!」


「ハッ、嫌だね~、クソ地味陰キャ君の言うことなんざ誰が聞くかよ!」


この男、話は聞いてくれなさそうだ。


…どうする?どうやったら助けられる?ほかのお客さんは萎縮して動かないし、店員さんもまだ来ていない。もし呼びに行っても、その間にこの男が星奈さんを連れて行ってしまうかもしれない。


俺は、ふと、すぐ近くにある給湯器が目に入る。


…やるか…。



ちょっと男の人には怪我をしてもらうことになる。うーん正当防衛で許されるかなぁ…。でも万が一許されなくても、星奈さんは絶対罪には問われない…。


男見せるか…。


俺はこの男には力で勝てないと思う。だから、少し卑怯なやり方をする…。


俺はゆっくり後ろに下がり、給湯器の横から紙コップを取り、お湯を入れる。


幸いコップも給湯器も大柄な男には死角だ。


「あ?何してんだ?」


俺はコップにある程度お湯が入ったのを確認して、コップを大柄な男に見えないように自分の体に隠すような形で持つ。そして、大柄な男めがけて勢い良く走った。


「おらっ!!」


そして、大柄な男の顔に、紙コップに入ったお湯をぶっかけた。


「…うぉあっちいぃ!!」


大柄な男は自分の顔を両手で抑えて、後ろにしりもちをつく。


給湯器のお湯っだからな、確か90度くらいあるんだよな。熱いに決まってる。

この店のセルフサービスの、コーヒーと紅茶に万歳だな


「星奈さんこっち!」


「え、え…。」


俺は困惑している星奈さんの、大柄な男に捕まれていた方とは逆の手を掴んで、そのまま出口まで走る。


俺にはとどめを刺すとかできない、だから逃げるのみ!おそらく、いや絶対に逆上して追っかけてくると思う。だからとにかく逃げる!


そこでようやく騒ぎに気付いたようで、店員さんが二人、厨房から出てくる。


店員さんたちには申し訳ないけど、大柄な男の対応は任せるとしよう。


「お金です!お釣りはいりません!!」


「え、ちょっとお客さん!!」


俺は諭吉をカウンターに置くと、店員さんの声を背に走って店を出た。



俺たちは近くの商店街の方まで走って、コインパーキングにある車のかげに隠れる。


車の陰から様子を見ていたが、あの男は追ってきてはいないみたいだった。


俺ってやろうと思えば走れるな…。


にしても、今はアドレナリンドバドバだけど、ちょっと大柄な男性に申し訳なかったな。強引なナンパに熱湯で勝負を仕掛けちゃったし…。今は逃げられたことの方が大きいけど、冷静になったら後悔しそう。


わー、裁判とかされるのかなぁ…。勝てるかな。


そんな感じで一人で悩んでいると、自分のそでを星奈さんが引っ張った。ここに来るまで一言もしゃべっていなかった星奈さんだったけど、目には涙をためていた。


「…大丈夫でしたか?」


俺がそう聞くと、星奈さんは俺に抱き着いてきた。


「うぇ?!えぇぇえ?!」


なんっ、え?!星奈さ…


「こ、怖かったぁあああああ!!」


星奈さんは俺に抱き着いたまま泣き出した。


あ、ああ、そうだよな…、ありゃ怖いに決まってる。

俺は、星奈さんの背中を軽くさすった。


そのまま星奈さんは数分俺に抱き着いたままだった。



正直。今の俺はこの人を救えたなら刑務所ぶち込まれてもいいや。と思えた。







「すみません、本当にありがとうございました。」


まだ少し鼻声の星奈さんが、赤くはらした目を細めて少しだけ笑った。


よかった、どうやらいつもの元気な星奈さんが戻ってきたみたいだ。


「当然ですよ、困っている女性がいたら助けるのが男ってものでしょう?」


「はははっ、駿作さん、本当に助かりました。」


「いえいえ。」


「…かっこよかったです。」


「うぇ?!」


星奈さんが少し小声でそう言うもんだから驚いた。


人生でかっこいいなんて、親にしか言われたことないけど。





俺たちはコインパーキングを出て、商店街を歩きだした。


「もう大丈夫そうですか?」


俺は星奈さんに聞いてみる。


「はい、せっかくのお昼、ドタバタで終わっちゃいましたね。」


星奈さんはそういいながら、男に捕まれていた腕をさすっていた。


…。


「ちょっといいですか?」


「え?」


俺は、星奈さんの袖をまくった。


…はぁ、あの男…。


星奈さんの腕には、赤黒い手形のようなあざがくっきり残っていた。


「…くそ、女性の肌に傷つけやがって。」


「これくらい大丈夫ですよ!」


「そんなこと言わないでください、女性を傷つける男なんて同じ男として許せません。」


「駿作さん…。」


許せんなぁ、あの男。俺は刑務所コースでいいからあいつも刑務所に行かないかな。


なんて考えていたら、


「そこの二人!ちょっといいですか。」


俺たちの後ろから声がして、振り返った。


「えっ」


紺色の帽子、水色のシャツ、紺色の防弾チョッキ。腰に掛けられた真っ黒な道具類。


「東署のものですけど、ファミレスの件についてお話があるので、ご同行願えますか?」



もう運命の時が来たのか…。





そこにいたのは警察官だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る