第7話 死にかけとライバー
俺は会社を辞めてからの丸2週間、まるで人が変わったかのように、今までのような規則正しい生活も食事も辞めてしまい、ただただ堕落していた。お金に余裕があるとはいえ、ずっとこんな生活をしていたらいつか体を壊すだろう。
それはわかっているけど、俺はもう何もしたくない。ずっと体調がすぐれない状態が続いているが、俺はそれでもここから動けない。動きたくない。
金が尽きるまでずっとこの生活をして、尽きた時はもう…なんて考えてしまった日もあった。流石に思いとどまったが、改めて会社に対するストレスと経度のトラウマのようなものがあるのかもしれない。
もともと没頭できるものが少なかったから、ストレスのはけ口も少なかった。それは俺がもうちょっと工夫していればよかったと思う。
会社を追い出されたのだって俺が口答えするからだし、こんなことになるんだったら、最初からもっとちゃんとやればよかったんだ…。
でも今は、ほんの少しだけ元気だ。とある配信者の人と出会って、その人との会話が楽しくて、その人が配信するのを楽しみに1日を過ごしている。
あれからツキさんは、俺と話すために毎日配信をしてくれるようになった。お互いがへとへとになるまで、ここ3日はずっと話続けていたから、5時間越えの配信が連続している。
そして今日、ツキさんとチームを組んで戦うことになった。
もちろんアジアサーバーで。
「ブラックさん!早く来てください!」
「はやっ、早すぎだろ。マジで…!」
俺は配信先で俺を呼んでいるツキさんを、ゲーム内で必死に追いかける。だから俺の声はツキさんには聞こえていない。
俺はコメント以外話す手段がないから、今回はツキさんのやりたいプレイに俺が合わせる形でゲームが始まったのだが…。
俺を置いて障害物やら建物やらをぴょんぴょんと越えていくツキさんのキャラ。
赤色の髪の可愛い女の子のキャラなのに、それに似つかわしくない圧倒的プレイヤースキル。
その間に現れたほかのプレイヤーもどんどん倒していく。
俺はキャリーされてるだけで、全然倒せていない。本当にうますぎる。
「やった!勝ちました!」
結果、俺が2キル、ツキさんが21キルという結果に終わった。やばいですって…。
「すみません、いつもの癖で、私一人で勝手に走って行って倒してしまいました…。せっかくのパーティなのに…。」
ツキさんは申し訳なさそうに言う。そんなことはない。ツキさんはうまいんだし、うまい人が前線にたって倒してくれるのはありがたい。
[気にしないでください。やっぱり本当にプレーがうまくて驚きます、俺もあなたについていけるようになりたいです。]
「ありがとうございます!というか、俺ってことは、ブラックさん男性の方なんですか!女性の方だと思ってました!」
「ふふっ…」
思わず少し笑ってしまった。会社を辞めてから笑ったのは初めてかもしれない。
会社を追い出されてから苦しくなって、時の流れにもたれかかるようにただずっと、家から出ずに過ごしていた。でも今は、このゲームをやっている間だけはとても楽しかった。
…この人と話しながらゲームやるの楽しいな。ちょっとだけ元気が出た。
「すみません!午後から講義なのでそろそろ切り上げますね!」
講義…、てことは大学生か?
まあいいや、感謝の気持ちを伝えておかないとな。
[ありがとうございました。おかげでとても楽しかったですし、元気になりました。]
「た、楽しい…!そうですか!そう言ってもらえてよかったです!!」
ツキさんは俺のコメントにとても喜んでいた。純粋にすごく喜んでくれて、感受性豊かな部分はこっちも楽しくなる。
この人と出会えてよかったな。
こうして、ひょんなことから出会った配信者と、初めて一緒にゲームをする時間は幕を閉じた。
「…今日くらい頑張ってみるか。」
少しだけ元気になった俺は、久しぶりに溜まった洗濯を洗い、部屋のごみを捨てて、ついでに髭も剃った。2週間ぶんの髭は濃くて、少し剃るのが大変だったが…。
でも、ツキさんとのゲームパワーのおかげで、いつもよりしっかり動けた。今までは傍から見たら廃人同然みたいな俺だったけど、これで少しはマシになったかもしれない。
「…病院行こうかなぁ…。」
うん、そうするか。体調はすぐれないままだしな。ツキさんの配信を見ている時や、さっきみたいにゲームをやっている時はあまり気にならなかったが、日常生活で頭痛やらめまいがずっと続くのは正直キツイ。薬をもらうなりして症状は抑えたい。あとは、明確な原因も知っておきたい。多分ストレスだとは思うけど。
正直、家の外に出るのはめんどくさいという気持ちがあるが、ツキさんのおかげでなんとか動けそうだ。
「…いつまでもこんなんじゃいられないし、頑張ろう…。」
俺はPCで、明日に病院の予約を入れた。
俺はとりあえずこの日だけ、死にかけから少しだけ死にかけじゃなくなった。
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