第5話 なんだこの配信者


あれから、ずるずると寝転がったまま、パソコンで『ヨーツベ』や、さっき加入した『ネトフリー』を見ながら日中を過ごした。そして気づけば17時。けだるい体を起こして、流石にちゃんとした食事を食べなければと、体調がすぐれないながらも卵かけご飯と野菜炒めを作った。


その後はいつものように、歯磨き風呂を一気にやってしまい、リビングにドライヤーを持ってきて、ソファにもたれた状態で髪を乾かした。

その途中手が顎に当たった。丸一日剃っていないだけで、じょりじょりとした感覚がある。髭もそらなきゃなぁ…。


そう思いつつも、明日でいいやと思いそのままベッドに入って寝た。大好きなゲームも今はやる気が起きなかった。




そこからの俺はずるずると、ナマケモノのように最低限の動きしかしなくなった。今までじゃありえないが、そんな生活をなんと二週間も続けてしまった。


その間に携帯ショップにも行くこともなく…。


ここまでくると数ある欲求のうち、睡眠欲以外死滅したように無くなった。


一日三食が一食になって、カーテンも明けなくなって、ソファにもたれかかりながら水を流すようにPCゲームをやって、つまらないラジオを聴く感覚で動画や映画を見ていた。


俺は一つ学んだことがある。意外とスマホなくても人って生きていけるんだと。


…そんな俺でも歯磨きは欠かさなかった。ふと洗面台の鏡に映る顔を見ると、まあひどい。髭はだいぶ伸び切って、目の下のクマもくっきり見える。


「うわぁ」


自分姿に思わず声が出た。


これが俺か、一番陰キャだった高校時代よりひどいな。


そんなことを思いながらも、結局髭は剃らずにPCの前に戻る。


ちょうど『ヨーツベ』を開いていたが、おすすめは大体見たような動画ばかりだから、もう何回目かの作業で、左上の矢印を押して更新した。



「ん…」



ふと、目に入ったのは右下に「ライブ中」と赤く表示された生配信動画。サムネイルは設定されていなくて、常にゲームのプレイ映像が流れている状態。ゲームは俺が好んでやっているPCゲーム『VVGAMES』略称『ブイゲー』だ。様々なミニゲームが入っているゲームだけど、どのゲームもミニゲームとは思えないほどクオリティが高くて人気のゲームだ。


さらに、すべてのミニゲームで、自分の作ったオリジナルのキャラクターで遊べるというのも魅力の一つかもしれない。


ちなみにVはVarious(色々)を表すらしい。



とりあえず、一体どんな人が配信をしているのかと思ったが。


「同接ゼロってマジか」


この人のライブを見ている人は誰もいないみたいだ。


…なんとなく俺は、配信はクリックせずに、ちっちゃい画面で流れている配信映像を眺めていた。


「この人『Vショット』やるのか。」


配信している人は、俺がこの『ブイゲー』の中で一番好きな『Vショット』というシューティングゲームをやり始めた。いろいろあるシューティングゲームとは違って、キャラが自由自在に動くからいろんなプレイが出来て面白い。初見でやるとその動きの多さに驚くほどだ。今時のゲームでもこんなにモーションのあるゲームは少ないんじゃないだろうか。


そうして、配信者がやっていく『Vショット』を、小さい画面で見続けていると。


「え、うま…。」


小さい画面でもわかる、ジャンプや転がり込んだり建物の上をかけるパルクール、動かしているキャラクターのその動きの俊敏さが半端じゃない。相当上手いぞこれ。どうなってるんだ?


俺は。どのゲームよりもこのゲームをやってきているからこそわかる。この人はめちゃくちゃにうまい。


正直プロ団体にいてもおかしくないのだが、こういうゲームで大会に出ている人なんかはチームやクランに加入していたりするし、今では大抵登録者二十万人前後いて、同接も2000人は越えているし、そう考えると、この人は別にプロ団体とかそういうのに入っているわけではなさそうだ。


…なんでこんなにうまくて人がいないんだ…?


そう思った後、俺はその人の生配信をクリックしてみた。


画面左側に大きく、配信の様子が映し出される。そして、やはりプレーはとんでもなくうまかった。ただただキャラクターの動かし方がうまいだけでなく、狙いに一切の迷いがない。ほとんどのほかのプレイヤーをヘッドショットで倒していって、頭に当たらなくても必ず体のどこかに当てている。エイムまで半端ないとは…。


そうして、あっという間に全滅させ一位になりその回を終わらせてしまう。


結果は


kill count 24

Head shot 19

Receive damage(受けたダメージ)0


「24キル?!」


俺は思わず声をあげてしまった。このゲームで無数にある各ワールドに、入ることのできる人数は最大50人。


つまりこの人は、一人で約半分を倒してしまったわけだ。


「うーん!おしい!ヘッショ20行きたかったぁ~」


その途端、俺の耳に入ってくる可愛らしい女性の声。


「この人女性かよ!」


ますます人気にならない原因が分からなくなってきた。


急いで俺はその人のチャンネルに飛ぶ。チャンネル名は『つーちゃんねる』。チャンネル登録者は2人、動画は出していなくて、ライブは4か月前から3日に一回くらいのペースでやっているっぽいな。


俺は上から順番にライブ履歴を見ていく。


3日前 0回再生


6日前 1回再生


9日前 0回再生


12日前 2回再生


3週間前 1回再生


etc...



「…。」


ガチで誰も見てないじゃん。


嘘だろ?この声とこのプレーで登録者二人?今人気ゲームだぞ?なんで?


謎が深まりに深まる。


気づけば俺は検索サイト『グルグル』を開いていた。





謎に伸びないゲームめちゃうま配信者『つーちゃんねる』。俺はそれに取りつかれたように色々調べ始めた…。

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