第5話 冒険者ギルドで依頼を!
「はい。これで、あなたの冒険者登録が完了致しましたよ。」
エパに全財産を賭け事にブチ込まれた俺は、お金を返して貰う為にそのまま同じく一文無しの
今は
冒険者には、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、アレキサンドライトと左から順に五段階に分けた評価が与えられる。一番上のアレキサンドライトクラスになることは滅多になく、今は世界に一人もいないらしい。プラチナランクですら世界に3チームだけだとか。
まあ、俺達は小遣い稼ぎに
「へぇ。これが
エパが首に吊したそれを興味深そうに摘まんで見ていた。始めて付けたのだろうか。
「このプレートがあれば様々なことに対する身分証明として使える。例えば、ギルドの依頼で他国に赴いた時に関所を通行料無しで通れたりな。まあ、これを付ける主な理由は、死んだ時に外見で見分けの付かなくなった死体が誰だか判別つくようにだけど。」
昨日聞いたことを口にしてそれとなりにエパに伝えてみる。
「そんなの分かってるわよ。っていうかさっき聞いたし。」
「ああ。そうだな。悪い、お前が書類書いたりしている間、俺は暇だったんでよ。何も考えずに口にしたわ。」
ふん!と不機嫌そうにそっぽを向かれた。たしかにエパ目線で見ればくどかったかもしれない。
「それで?どのクエストに行くの?」
発注された
冒険心でもあるのか、期待に胸を膨らませた彼女の顔は煌めいている。なんとなく、こいつとなら楽しく
「そうだな。あれなんてど」
「あ!これ良いわね!これも!それも!」
「……。」
人にどのクエストを受けるのかを聞いておきながら、意見も聞かずに自分であれやこれやと幾つもの依頼書を手に取っていくのはどうなのだろうか。手に取ったやつは全部受けるつもりだろうし、自分勝手な奴とは思ったが、だからといって特に文句はなかった。
俺は今、
俺はエパの隣で彼女が手に取らなそうな地味な山菜採集のクエストなども手に取る。デカい報酬が得られるような依頼はエパが勝手に取っていくだろう。だったら、俺はその片手間に出来そうな仕事を探した方が儲けられそうだ。
「ちょっとリヴィス。何よ、その地味なクエストは。つまんなさそうじゃない。私は手伝ってあげないわよ。」
「うるせぇ、馬鹿女。こういうのはな、デカい依頼の片手間にちょちょちょいっとやるんだよ。
「あんた、意外とがめついのね。」
「ほっとけ。」
がめついとかないだろ。お前のせいでこっちは金が無いんだ。それに、皆お金は欲しいと思うぞ、多分。
「それより、ねぇ見て見て!この依頼、面白そうじゃない?」
それは、大型モンターの討伐クエストだった。
「ん?確かに。タカドリルは強いって聞くし。一度戦ってみてぇかも。」
「でしょでしょ!他にもね、いろいろあって。」
そうして彼女は一枚ずつ、自分の手に取った依頼書を俺に見せて来た。取り敢えず、俺は自分が何のクエストを受けるのかを知る為にもその全部に目を通しておいた。
エパが計20枚、俺が計5枚の依頼書を持って受付嬢のところへ行こうとすると、ギルドの入り口から今日の依頼を終えた冒険者チームの一つが帰って来た。何故か全員がヌルっヌルのヌメヌメだ。その後ろには今日の成果と見える巨大なカエルとナメクジが乗った荷台がある。
彼らの内の何人かは泣いていた。
「うげ。なにあれ。」
隣にいるエパが明らかに嫌そうな顔をした。流石にヌルヌルのベタベタを見ると、ああはなりたくないと乙女の琴線か何かに触れるのだろう。こいつの乙女の
「ねぇ。冒険者ってあんなのになる仕事なの?」
「まあ、それはその人次第じゃないか?受けた依頼にもよると思うぞ。一番多いのは血まみれとかかな。
「うっ。まあ、確かに。」
バツが悪そうに顔をくしゃくしゃにした後、彼女は自分の手に取った依頼書を改めて確認し始めた。
「ねぇ、私が取ったものにヌルヌルのベチャベチャになっちゃうような依頼はないわよね。」
「大丈夫だったと思うぞ?多分。」
ヌルヌルになるのは嫌そうだが、どうやら血に濡れる方は特に気にしないようだ。普通はヌルヌルベチャベチャの方がマシだと思うんだが。……。よく分かんないな、こいつ。
「おー。リヴィス。今日も来てたのか。本当にこれから
「ひっ!近づいて来た!あんた、知り合いなの?うぷっ。」
近づいた冒険者が放つ独特の匂いに、エパは顔を青くして口元を押さえる。
「こら。失礼だぞ。この人はツツラっていうんだ。昨日知り合ったんだけど、結構良い奴だぞ。」
俺自身は、元々山賊であった事から、こういう匂いには慣れている。なんなら、もっと臭い匂いだって嗅いだことがある。
「昨日は一人だったのに、今日は連れがいるんだな。お前、この女とパーティを組んだのか?」
「ん。まあ、そんな感じだ。実は俺、こいつに今日、昨日稼いだ有り金を全部
「ふひっ。そうか。お前も問題児を抱えたんだな。」
ツツラがげっそりとした顔でニヤリと笑う。よく分からないけど嫌な笑みだ。
彼のパーティメンバーは彼以外全員女性だ。役職としては獣人族の拳闘士と
「ナメクジ、嫌ぁ。カエル、嫌ぁ。殴ってもヌルンって!ヌルンってええええ!!」
「今日は14体のカエルとナメクジを同時に私の魔法で消し飛ばしてやりました。満足……です。」
「うぅ……。カエル達じゃ全然手応えがないよぅ。私は、もっとゴツいのを防ぎたいのに。体当たりもナメクジに轢かれるのも、ヌルヌルの体表が盾を滑っていまいち手応えがないの……グスン。」
「そんなに強力なのが欲しければ、私の魔法はいかがです?」
「それも凄く良いけど、もう馴れちゃった。」
「一応、人が余裕で死ぬ程の威力なのですけど!? うぅ。もっと精進しないと。」
「精進しなくていいわ馬鹿!ったく。こっちはもっと火力を抑えて欲しいくらいなのに。」
「ひひひ!相変わらずツツラのところのパーティは楽しそうだな。」
「リヴィス、それ本気で言ってるのか?いや、まあ騒がしい連中ではあるんだが。……。魔物にやられたのならまだ理解出来る。そういう仕事だしな。でも、でも。そうじゃないんだ。魔物よりも厄介で警戒するべきものが仲間達だなんだよ!このチームは。俺はこれからどうすれば……。」
「それでも、あいつらとのチームを解散させるつもりはないんだろ?」
「それを言うな。自分が馬鹿に思えてくる。」
「別にいいじゃないか。一緒に居たいと思える仲間がいるってことは、案外良いことなんだぞ?」
「……。分かってるよ。」
ツツラは少しだけ照れ臭そうにしながら自分の仲間達に視線を送る。
「なんですかぁ?ツツラ。まさか照れてるんですか?」
「うるせぇ!」
この時間に戻って来る冒険者はそれなりに多い。俺達は少し混み列になった受付に並んび、その待ち時間に少しツツラと駄弁る。もしかすれば、クラスメイトよりも仲が良いかもしれない。
「お前の連れ。役職は?」
「冒険者だ。学生はこの基本職以外からは始められないらしくてな。研修期間みたいなもんらしい。仕事分の報酬は規定通りにしっかり貰えるらしいし、特に影響はないから構うことはないよ。」
「なんかお金には抜け目がなさそうだな、お前。でもそっか。学生を即戦力には加えられないもんな。でもだとしたら、お前の連れが持ってるその依頼の大体は受注出来ないんじゃないか?どれもブロンズクラス以上推奨の依頼だぞ。」
「そこはほら、あくまでも“推奨”だから。本人の許可があれば問題ない。この職業は、なんやかんやいって最終的には怪我も病も自己責任だからな。護衛とかの任務でない限りは基本どのランク帯でも受けられるみたいだぞ。階級はあくまでも指針。みたいな。」
「じゃあ研修期間とかそんなに意味なくないか?」
「言われてみればそうかもな。」
お前天才か?と言おうと思ったが、それでもしギルドが明確に学生の危険なクエスト受注を禁止してしまうと俺が困ってしまうので、なんとか口から出てしまう前に呑み込んだ。今でさえ結構グレーな範囲でやっていると昨日聞いたばかりだ。
「次の方どうぞ~」
「おっと。俺達の番が来たようだな。それじゃ、お先に。」
「おう。またな。ツツラ。」
手を振ってお別れすれば、向こうも片腕だけ上げてそのまま依頼完了の受付へと行ってしまった。
「はぁ。やっと行った。あの人、臭かったわね。」
エパが新鮮な空気を吸うために大きく息を吸った。
「それだけ仕事が大変だったんだよ。ほら行くぞ、俺達の番も来たようだ。」
「俺達の番って、ほ、本当にヌルヌルにはならないわよね。」
「ならないよ。……多分。」
「待って、多分ってなによ。」
ごちゃごちゃと煩いエパを連れて、俺達も受付嬢の元へと歩みを進める。受付のお姉さんは笑顔で俺達を待ち構えていた。昨日一人でここに来た時にはいなかったお姉さんが受付をしてくれるみたいだ。
「このクエストを二人で。」
受付嬢のお姉さんの前に受注依頼のクエストを置く。一瞬、何故かギルドが静まり帰ったかのような錯覚を覚える。思わず身体が硬直した。何か、おかしい。
「ご提示されたクエストには、シルバー級のものもありますが、どうしますか?」
止まったと思った世界が再び動き始める。意味もなく、お姉さんの笑顔に陰りを感じた。この空間が俺の知っている場所ではなくなってしまったような異質感。
「勿論やるわ。こっちの方が面白そうだし。」
五感から得られる情報は何もおかしくない。のに、変な感覚が俺を襲う。周りにも視線を配り、違和感の正体を探ろうと思ったのだが、俺はどうしても目の前のお姉さんから意識を反らせないでいた。
目が少しの情報でも欲し、その名札を捉える。“ペルフィ”。
聞いたことのない名前だ。山賊家業なんてやっている手前、裏の人間には幾らか心辺りがあったりもするのだが、この女のことは全くの初見のようだ。
「でも、あなた達のレベルではまだ危険ですよ?」
だが、だからといって全くと安心出来る訳でもない。
知らず知らずのうちに、剣の柄へと手が伸びていく。
「私は問題ないけど、こいつはちょっと心配ね。」
「……。ちょっと待った。」
この女は、この空気感を捉えられていないのか。危機感の欠片もない態度で俺を見て半笑う。
その言葉を皮切りに、繊細に感じていた違和感が消えてイライラへと変わって行く。
「聞き捨てならないことを言ったな。お前、今なんつった?」
「だ~か~ら~!弱っちい貴方が心配だって話をしているの!怖い顔しちゃって。そんなに緊張しているならここに残ってたら?私がちゃちゃっと稼いで来て上げるわよ、弱虫。」
自信満々に自分は大丈夫だと豪語しながら、エパが俺の頬を人差し指で押し出して、挑発気味に顔をしかめて来た。なんだこいつ。うぜぇ。
そんなにこのギルド嬢1人に警戒心を持った俺が馬鹿らしいかよ。いや、確かにたかが怪しげな女一人に向きになるのは男としてダサいのかもしれない。だが、そんなことを言っていられる程この世界は甘くない。寧ろ、女を侮って死んだ男の方が不様だろうに。
まあいい。このギルド嬢が怪しいことなど後回しだ。今は、
「……。ひひひ!言うなぁ。なら、どっちの方が多く依頼を熟せるか勝負しようぜ。そっちの方が盛り上がりそうだしよ。」
「どうしてそんな勝負をする必要があるの?賭けごとの時もそうだけど、なんで男はそうくだらない勝負をすぐ引っかけてきたがるの?」
向きになって俺の財布の中身を全額BETをしたのがお前だけどな?
「は~ん。さては怖いんだな、お前。おんぶに抱っこでクエストを受けさせて欲しいなら素直にそう言えよ。」
「カッチ~ン!上等じゃない!あなたの方こそ。ごめんなさいをするなら今のうちよ!?」
くだらない言い争いを始めた俺達を、受付嬢のお姉さんは
*** *** ***
「うおおおおおおおおっ!!」
ティラティ王国近郊の森、ギルドから貸し出される荷台の付いた馬車に乗って俺達は少し遠くの魔物達の住まう場所まで来ていた。場所の荷物番に依頼を受けてくれた冒険者には森の外で荷物番をして貰っている。一文無しなんだから出来れば自分だけで全部なんとかしたかったのだが、流石に受けた依頼を達成した荷物を全て管理しながら次々と依頼を熟すのは難しい。少し痛いが、必要経費ってやつだ。
俺は今、依頼内容にはなかった巨大なカエルに追われていた。ゲコッゲコとその鳴き声が耳に届く度に、今日見たヌルヌルベタベタのツツラ達の様子が思い返された。何が嫌かって、こいつは追い掛けながらその長い舌を伸ばして来るところだ。
森の中、急に感じた殺気に身を退いてみれば、目の前の地面がこいつの大きな舌によって叩き付けられた。食べられる寸前だった。カエルの顔を見ただけで血の気が引いたのを覚えている。
「あっぶね!この舌、ほんっと素早いな。おちおちと前にだけ集中して逃げることも出来ねぇ。っていうか、カエルって剣は効いたんだっけか!?」
一度、ギルドの依頼書で
「クッソ!やるしかねぇのか!」
開けた場所に飛び出る。段差になっていた地面に後ろを向きながら着地する。逃げていても埒が明かないと剣の柄を握る。
だが、出て来た筈の森の様子がおかしい。ビッグズベックが追い掛けて来ていた時のズドンズドンと言った飛び跳ねる音が消え、代わりにブブブと嫌な羽音が聞こえた。
注視していた森から姿を現したのは、巨大な蜂型モンスターで。カエルは森の中で体を毒まみれにされて倒れていた。
「……!? は!? なんかさっきのカエルから変わってる!? なんだあのデッケェ蜂。うわ!撃って来やがった!」
尻尾の毒針から毒の弾が発射された。咄嗟に避けた俺のいた地面に深い穴が空けられた。毒とか関係無く当たれば致命傷になりそうだ。
「あ!? ありかよ、そんなの!」
蜂の尻尾からもう日本の毒針が突き出して来て、3本のそれが高速で回転し始めた。
「ぅっ!!」
思わず息を呑んだ。嫌な予感は感じ取っていたが、ほぼ想像通りに回転した毒針から毒弾が連射された。これで戦うどうこうの話ではなくなってしまう。近づく暇すら与えさせてくれなくなった。加えて、この弾を斬れば純粋に毒を頭から浴びかねない。後ろに向かって全力で走り出したが、その背面にある地面に撃ち付けられるぼこぼこにとした穴が徐々に近づいてくる。弾丸の照準が徐々に逃げる俺へと合い始めている証拠だ。
「に、逃げ!!?」
いや、間に合わない。平地に出たのが悪手になった。弾を割ける障害物がなければ、全弾を避けきることを不可能にした。逃げ切りは難しい。剣柄に手を掛ける。気合いでなんとかするしか。そう思った瞬間、真下の地面が急激に盛り上がり、足のバランスを崩して転がってしまう。
「クギュウルアアアアアア!!!」
地面から飛び出して来た巨大怪獣が毒蜂に噛みついた。毒蜂の悲鳴が響く。ブブブブと煩かった羽音が弱々しい音へと変わって行った。
「うお!モグラ!!?」
空中に投げ出され、体が反転した俺は帽子が落ちないように押さえつけながらその光景を見る。弾丸で地面を荒らされて怒ったのか、それともただ外殻が硬かったのか。巨大怪獣は何度も毒蜂を口の中で噛みつけた。
「グギッッギャア!!」
毒に犯されたもぐらが顔を悪くして呻き声を上げた。苦しみに暴れるモグラの尻尾に俺は不意打ちを貰う。尻尾は通常のモグラの何倍も太く長く、荒々しく地表に姿を現した。地中から突如現れ、
「お。こいつ、依頼モンスターか。ラッキー。」
それは、偶然にも受けた依頼にあった討伐目標だった。受け身を取りながら地面上を転がり、着地する。此方に殺気を飛ばす敵対者達に向けて改めて剣を握る。
モグラの尻尾はピンク色のデカいミミズだった。だが普通のミミズとは違い、その先端には肉食系の鋭い牙のある大きな口が付いている。尻尾と体とで全く別な生き物が混じり合った怪物を前に、俺は真っ直ぐに突っ込む。
「お前は、物理無効じゃないよなぁ。」
敵の殺気は収まらない。専攻して尻尾のミミズが、俺を喰わんとばかりにあんぐりと大きな口を開けて迫って来ていた。弾丸のような速さで飛び出して来たその顔が俺を狙う。
「
剣を抜く寸前で、地面ごとミミズの口が俺を呑み込んだ。構わず前進する。
「
途端。俺はミミズの身体を掛け巡り、抜刀した剣で輪切りにした
モグラは俺を恐れ、慌てて地面に潜ろうとした。だが、その手はもう彼の思い通りには動かなかった。身体の末端にまで、蜂の毒が回ってしまっていたのだ。それに気が付いた途端、モグラは恐怖で忘れてしまっていた毒による苦痛を思い出した。
自暴自棄になって俺を襲おうとしたモグラの首を、俺は真正面から切り捨てた。その巨体が、激しい音を立てながら地面に崩れ落ちる。
「よし。依頼達成っと。」
「あんた、結構やるのね。」
背後。草原の中、いつの間にかそこに居たエパが話し掛けてきた。彼女の側にはタカドリルの死体がある。向こうも依頼を終わらせて来たようだ。俺は剣を鞘に納めながら彼女を見た後、自らが倒したモグラを一瞥する。
「まあ、山ではこんな魔物を沢山狩ってたからな。このくらいならまだ何とかなる。」
クエストの受注に成功した俺達はまるで徒競走でも始めたかのように同時にギルドを飛び出した。律儀にもギルドのお姉さんが半分に分けてクエストを渡してくれた為、俺達はより早く相手より依頼を終わらせられるように、個々人で分かれて集中的にクエストに取り掛かっていた。だから、エパに会うのも数時間ぶりだ。
空を見上げれば、日が沈み始めている。
「
エパはニヤニヤしながら下から俺を見上げて来る。こいつ、一体何処から俺の事を見ていやがった。
「俺にだって相性くらいはある。トゥコキュビに関しては平地じゃなければまだやりようはあった。」
「え~。本当に~?」
愉快そうに笑うエパ。煩いなぁ。出来たよ。多分。知らんけど。
「そえよりお前、
「そうよ!それを言いに貴方を探してたんだったわ。そしたら何か楽しそうにしてて、ちょっと癇に障ったのよ。」
何故か急に不満を口にされる。まあ、逃げるのが楽しく無かったかと聞かれればちょっとは楽しかったかもしれない。命が賭かっていなければの話しだけどな。
頬を膨らませてご立腹な表情を見せる彼女だったが、どうやら本気で怒っている訳ではなさそうだ。
「私はもう12枚終わらせたわ。そっちはどうなのよ。」
「それは奇遇だな。俺も丁度12枚だ。」
11枚目の依頼を終えた所でカエルに付け狙われていたことを思い出す。思えば、後1枚だけだからと
「それじゃあお互い、最後の一枚ってことで。」
最後の一枚のクエストを見る
「“ノネキストダンジョン”の探索。だな。」
それはもの凄くザックリとした依頼内容だった。ダンジョン依頼自体、その殆どが国が出す依頼であり、内容は未踏破ダンジョンの探索。報酬はダンジョン内のモンスター討伐数や進行具合によって加算されていく。今回の依頼もその例に漏れず、特徴のない凡庸なダンジョン探索依頼だった。
これはギルドのお姉さんが、俺たちの喧嘩に決着がちゃんと着くようにとこの依頼を受けるよう提案してくれたものだ。
「これだけのクエストを今日中に終わらせるのがまず無理だとは思いますが、もし決着が付かなかった時の為に、このクエストでより多くの報酬を得た方を勝ちにしましょう。」と笑っていたっけな。
肩を回してみる。身体の方は結構疲れているようだ。正直少し眠たい。
「ねぇ。私、もう飽きちゃった。」
エパが唐突にそんなことを言った。軽い足取りで俺に背中を向けながら後ろ手を組む。
「飽きたって何が?」
「一人で依頼を熟していくことよ。貴方との競争があったから最初の方こそ楽しかったけど、段々と作業的になっちゃってつまらなかったわ。」
ティラティ王国がある方を眺めながら、エパはおそらく今日の依頼状況を思い出していた。これが背中で語るということなのかもしれない。
「そうなのか?」
「そうなの。だからさ、最後の依頼は一緒にいかない?あんたとやった方がまだ楽しいと思うの。」
彼女は腕を組みながらそんなことを沈み行く太陽に向かって言った。
後ろ姿だから顔は見えないが、からかってやれそうな面白い表情をしていそうだったので少し残念だった。
「それじゃあ勝負はどうするんだよ。」
俺はそう返したものの、実は俺自身も勝負事については割とどうでもよくなり始めていた。相手に戦意がなければ、熱くなれるものもなれないし、俺も飽きて来ていた。
「そんなのは止めよ止め。思えば、私は勝手にお金を使っちゃった謝罪とお金の稼ぎ方を知る為にこのクエストを受けたんだったわ。あなたとのくだらない勝負事で勝つ為じゃなかったの。」
人差し指を立てて妙案の様に言う。まあ、確かにメインは金稼ぎだ。無一文は彼女も同じ。彼女自身のこれからの稼ぎのことと、お金を全部使われて落ち込んでいた俺への申し訳なさから一緒に冒険者ギルドに来てくれていた事を思い出す。割と本気で心配してくれていた時は意外と優しいやつなんだなって思った。だからって全額賭けに投げたことは許さないけどな。
「それに私、楽しいことの方が好きなの。貴方とは競い合って別行動するより、一緒に居た方が面白そうだわ。だから、つまんない方はやめる。」
だから、最後の依頼くらい一緒に楽しみましょ。と言って彼女は振り返りながら俺に朗らかな笑みを向けた。
……。これ、もう時間も遅いから帰らない?とは言えない流れだよな。
でもまあ、それもいいか。なんか今の俺は凄く自然体だ。任務の時のような気張った俺じゃ無い。少しずつ、ここでの生活に慣れ始めて来ているんだろう。だったら、もう少しくらいこの依頼を彼女と続けるのもいいのかもな。
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