40.5輪 あなたは最高の親友
「今回は本当にお疲れさまね」
栗色巻毛のメイドは心からの
「ミンディ様に代わりを頼まれたのでは、やるしかないでしょう」
「でも、とってもいい経験になっているんではないの」
巻毛メイドが念入りにふくらはぎをほぐしてやると、黒髪メイドは枕に顔を埋めてもう一度唸った。
「屋敷内にくまなく目を配るのがどれだけたいへんか分かって、お嬢様にますます尊敬の念を抱いているところよ」
「あなたはよくやったわ。お嬢様が回復されるまでは
激励を込め、巻毛メイドは黒髪メイドの足裏を親指で強く押し込むようにさする。
黒髪メイドは痛みに顔を跳ね上げる。叱りつけるように抗議してから、黒髪メイドは改めて枕に顎を埋めた。
「奥様は、この何倍もの使用人をまとめていらっしゃるのよね。一体どうやっているのかしら」
黒髪メイドが長々とため息を吐き出して言うので、巻毛メイドはちょっと笑ってマッサージを続行した。
「緊急事態で総出での対応だったのだから、いつでもあんなに慌ただしいなんてことはありえないわよ。それに、報告を聞いた奥様が、あなたをとても評価してくださっているという話よ。特別なお手当も出るのではないかしら。あなたがこのまま奥様やお嬢様の侍女に抜擢されたとしても、わたくしはちっとも驚かなくてよ」
「やめてちょうだい。今回のことで、もっと他人に興味を持つべきだったと身につまされたのだから」
黒髪メイドは軽く首を反らして低く頬杖をつき、息つく暇もない苦労を思い返す。
「一番たいへんな厨房はメイド
「あら、そんなことなくてよ」
言いながら、巻毛メイドはベッドに飛び乗った。黒髪メイドの太腿にまたがるようにして腰へ手の平を当て、しっかりと体重を乗せて押していく。
「わたくしはこの性格でしょう? ミーハーだ、なんて言われて侮られやすいから、人を使う側には向いていないの。裏方をしている方が、わたくしにはずっと有意義だわ」
「それは侮る人が分かってないわね。あなたのはミーハーではなくて情報通と言うべきよ」
腰を揉まれる心地よさに若干の微睡みを覚えつつ、黒髪メイドは思ったままを口にする。すると巻毛メイドは腰に両手を置いたまま、首を伸ばすように身を乗り出した。
「まあ、褒めてくれるの」
「もちろん。助けられたのはこちらだもの」
直後、巻毛メイドは両手を浮かせ、黒髪メイドの背中に全身で飛びついた。
「嬉しいっ、ありがとう! あなたは最高の親友だわ」
「うわっ! こら、ちょっと、重いったら」
降ってくるようにのしかかった重みと、背中から首に巻きついた腕の力で、黒髪メイドは思いがけずうめくはめになった。
これでは休むどころではなく、黒髪メイドは身をよじって巻毛メイドを離れさせようとする。巻毛メイドは振り落とされまいと、さらに躍起になってしがみついた。
使用人の相部屋で、メイド二名がそうして大騒ぎしているときだった。
がちゃりと音をたてて扉が開いた。ベッドの上でジタバタしていた二人は、同時にぴたりと固まって振り向く。
いくつも並んだ簡素なベッドの向こうから、先輩メイドが呆れ顔でこちらを見ていた。
「なにしてるのよ、あなたたち」
「なにもしてませんっ」
黒髪メイドが、巻毛メイドを押しのけて答える。シーツの上にひっくり返った巻毛メイドは、黒髪メイドにちょっと不満の目を向けてから同意して頷いた。
腕を組んで肩をすくめた先輩メイドは、呆れ顔のまま用件を告げた。
「楽しそうなところ悪いけれど、皇太子殿下がお嬢様のお見舞いにみえて、わたくしたち使用人にもたくさん差し入れをくださったわ。厨房にあるから、食べたかったらいらっしゃい。早くこないとなくなるわよ」
黒髪メイドと巻毛メイドは顔を見合わせた。二人は自然に笑みを交わし、同時に機嫌よくベッドから跳ね起きた。
「はーい! すぐに行きます!」
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