第6話 国吉による華麗(?)な〝G〟退治
国吉の一撃により、あれほどイーリスが怖がっていた〝すばしっこくて図太い、黒光りする生き物〟は、
彼は、床に転がっている
(ゲッ!!
イーリスほど恐れているわけではないが、決して得意というわけでもない結太と龍生は、国吉の行動に顔をしかめた。
視線に気付いたのだろう。国吉は二人に目をやると、ニッと笑って。
「ああ、すいませんね。妙なもんお見せして。――不気味に思われるでしょうが、部屋のゴミ箱に捨てると、お嬢がお怒りになるんですよ。くたばってるとは言え、同じ場所に
「……は、はぁ……。そーなん、っすか……」
「いろいろと、大変そうですね……」
理由は判明したものの、
結太も龍生も、引きつり笑いを浮かべながら、平然としている国吉を見上げた。
国吉は、二人の視線を物ともせず、まだ結太にしがみついているイーリスに向かって、
「ほら、お嬢。あんたの怖がってるもんは、もうどこにもいやしませんよ。いつまでそーやってコアラみてーに、純情な男子高校生にしがみついてるつもりです?……ったく。藤島家のお嬢様ともあろうお方が、はしたねー。下着が見えちまってますよ?」
「――えッ!?」
結太が驚きの声を上げ、国吉を振り返ったとたん、イーリスの体の感触が消えた。
やっと離れてくれたのかと、ホッとして顔を戻そうとすると、
「イヤーーーーーッ!! 何言ってんのよっ、国吉のバカァアアッ!!」
耳をつんざくような悲鳴を上げ、イーリスは体を起こすと同時に、結太をもの凄い力で突き飛ばす。
結太の体は、後ろ向きにぐるんと一回転(後転)しそうになったが、途中でバランスを崩し、横向きで床に倒れ込んだ。
「ギャンッ!?」
イーリスはハッとした様子で顔を上げ、膝をついた状態で、慌てて結太に
「結太っ、大丈夫!?」
結太の肩にそっと手を置き、心配そうに覗き込む。
まだ体はヒリヒリと痛んだが、結太はヨロヨロと体を起こし、『だ、ダイジョーブだって。ちょっと打っただけだ。こんくれー、どーってことねーよ』と告げ、ヘヘッと、照れ臭そうに笑った。
「……ごめんなさい。アタシ、またパニック起こしちゃったのね。……どーもダメなの。あの
〝G〟とは当然、〝黒光りする生き物〟のことだろう。(どうやら、その生き物の名前を口にすることすら、
まだ少し、怯えている様子のイーリスは、胸元に両手を当てて周囲を見回すと、龍生に目を留め、不思議そうに首をかしげた。
「え?……どーしてここに、秋月くんがいるの? 国吉はともかくとして……。え、と……?」
パニックを起こしている間のことは、全く記憶にないのだろうか?
だとすると、本当に心底、〝G〟が嫌いなんだなと、結太と龍生は、そっと顔を見合わせ、肩をすくめた。
龍生は、気を取り直したように微笑を浮かべ、
「部屋の前を通り掛かった時、悲鳴が聞こえてね。いったい何事かと、全開だったドアから中の様子を窺ったら……驚いたよ。結太と君が、重なって床に倒れているところが、目に飛び込んで来たんだから」
その時の状況を語ると、イーリスはポカンと見つめ……次の瞬間、かあっと顔を赤らめた。
左右の足を外側に向けて座っている(ペタン座り、女の子座りとも呼ばれる座り方だ)イーリスは、両手で頬を押さえ、ひたすら恥ずかしそうに縮こまる。
「や…っ、ヤダ、アタシったら。いくら怖かったからって、自分で結太を押し倒して、しがみついちゃうなんて……。ほ、本当にごめんなさい、結太。……驚いたでしょう?」
頬を押さえたまま、チラリと上目遣いで結太を窺う。
「い――っ、いやっ、べつにっ!……え……っと……。そりゃ、驚きはしたけど、全然ヘーキだからっ!! こんなのこれっぽっちも、気にすることねー――……って?」
結太がイーリスに、
恐る恐る、そちらへ顔を向けると……。
鬼のような形相の咲耶が、仁王立ちして結太を見下ろしていた。
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