第190話  飲ま飲まイェイ

「家康が傘下に加わればもう何も怖いものはござらんな。」

島津歳久が酒を煽りながら上機嫌で声を上げた。



「確かに……しかも此度の久武殿の働きは幾千、幾万の将兵や民の命すら救う事にもなります。」

吉川元春も賛同し、更には久武の功を称えた。



「この一報を何とかして長宗我部殿や我が殿に伝える事が出来れば……。」

立花宗茂は先を見据えていた。



「じゃが、もしこれが我が殿らに伝わらなくとも……信長にとって大きな誤算であり、実際に戦力的にも圧倒する事になった。もう何も心配など要らんというもの!」

島津歳久は酔いも手伝って気が大きくなっていた。



「島津殿……過信は禁物で御座いますぞ。」

盛山が釘を刺す。



「はははっ!これは失礼致した。儂の悪い癖で御座る!もちろん油断はしておりませんぞっ!!わははっ!」



本当にそうなのか分からない物言いだったが、彼の性格的にはこれもありかと盛山はあまり心配してなかった。



今は久武の帰りを待ち、これからの行く末についてしっかりと計画を練る事が肝要である。


徳川家康がこちらに付く事など当初は一切想定していなかった。

まさかの僥倖であったのだ。

あとは具体的に安土攻めへの策を固める事が必要……。



「信長は大筒を持っているのであろうか……。」



独り言の様な小声で語る盛山に吉川元春が声を掛けた。

「盛山殿、それも久武殿が戻れば明らかとなるやも知れませぬ。吉報を待ちましょう。」



「うむ……そうですな……。今宵は存分に飲みましょうか!」


「おっ!!盛山殿っ!!やはり土佐の男ですなっ!!飲み比べじゃぁぁ!わははははっ!!」


「うむっ!!望む所っ!!土佐の鯨と呼ばれたこの盛山っ!!酒に関しては底なしで御座るぞ!!」


「これは大きく出ましたなっ!よしっ……!もっと酒を持ていっ!!!」

島津歳久は大戦に勝った時の様な馬鹿騒ぎを始めるのだった。



この連合軍の宴は理解出来るものだろう……。

本来ならば徳川家康との攻城戦が始まり、大勢の犠牲を出す事は目に見えていたのだ。

それが突然、家康の降伏によって明るい未来が切り開かれようとしている……。

これまでも大勢の犠牲や苦しみを伴ってきたこの大戦……、溜まりに溜まったものがある。

これが飲まずにいられるか。

誰もがそう思い、この騒ぎを諫める者はいなかったのである。



連合軍の宴は朝まで続いた。



そして次の日には全員が昨日までの馬鹿騒ぎを忘れ、気を引き締めていた。

やはりここまで数年に渡り苦楽を共にし、強い絆を深めて来た連合軍はメリハリがしっかりしていたのだ。





連合軍は酒で強くなる……!









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る