第185話 DA・YO・NE
「下がれたわけがっっ!!!」
「お主にこの者の様な振る舞いが出来るのか?敵の本陣……ましてや敵の城に単身で乗り込んだ上でじゃ……。」
この言葉と同時に、鬼気迫る家康の表情を見た家臣は深く頭を下げた。
「……申し訳御座いませぬっ……。」
「久武殿……失礼致した……。」
「長宗我部殿は誠に素晴らしき御仁の様じゃな…そなたの様な家臣を抱える事が出来る者は日ノ本広しと言えど中々はおらぬであろう……。」
この言葉も本心だった。
……半分だが……。
「もったいないお言葉に御座います。」
「改めて徳川様……。我らに降り、共に日ノ本の安寧の為にお力をお貸し願えませぬか……?」
久武は再び降伏を促した。
「出来ぬ。」
この返答は久武が言葉を発し終えるのとほとんど同時くらいに行われた。
すこし機先を制された感覚の久武。
「徳川様……、このままでは双方に多大な損害が出まする。それは我らも徳川様も望む所ではない筈……。何卒ご理解頂けませぬか……!?」
食い下がる久武に家康が静かに答える。
「そなたの申し出は最もな事じゃ……儂は戦は好きではない。出来れば穏便に暮らしたいとすら思うておる。」
「この戦もこのまま幕引きをしたいくらいじゃ……。」
「では是非我らに御降り下され…!」
「出来ぬのじゃよ……。」
またしても久武の再度の願いはあっさりと突き返された。
しばし沈黙の後、久武が訪ねた。
「……ではそう思い至る徳川様のお考えを……お聞かせ頂けませぬか?」
「よかろう……久武殿。では先ず聞かせてもらおう……。そなたらの主君は上様を倒せると……?」
「……分かりませぬ。織田信長の、人とは思えぬこれまでの振る舞いや、神懸った用兵術……。ただの暴君にあらず……。神仏にも例えられるあの男は底が見えませぬ……。」
「……しかし!民は疲弊しております。諸国大名も同じっ!」
「このままの世が続けば織田以外はただ搾取されるのみっ!!それだけは何があっても避けなければなりません。我らはその思いを一つにしております。そしてその下に、我らが殿・長宗我部様!九州の島津様に大友様。更には中国の毛利様までもが賛同されたのです!」
「……誰もが泰平の世を望んでおります……。誰がこの連合を想像出来たでしょうか……。奇跡の様な我らの同盟……それが日ノ本の思いを代弁しておりまする。」
「……決して織田には負けませぬっ!!」
「…儂もそう思う……。」
家康のこの返答に久武や、家康の家臣達も驚きを持って受け止めていた。
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