第184話  げきおこ!

「やはり予定通り大筒しかござらぬな。」


徳川家康が陣取る浜松城攻略の軍議は、満場一致で策が決定した。


虎の子の大筒。

そして砲弾は残り三発。


「…先ずは降伏の使者を送る。まあ奴が降伏などする事はなかろうが……。」

一縷の望みで降伏を促すが、誰も期待はしていなかった。






◇◇◇






「申し上げますっ!連合軍よりの使者が参りました!。」


家康は全く表情を変えずにこの報告を聞いていた。


本田正信はこの表情を見て家康の意を汲み取り、家臣に伝えた。

「通せ。」



「はっ!」




少しして、連合軍を代表して盛山が派遣した使者が家康の御前に姿を現した。



「長宗我部元親が家臣・久武親信に御座います……。此度は総大将である盛山の名代としてお目通りが叶い感謝致しまする。」


深く頭を下げる久武であったが、四国の田舎大名の家臣などと小馬鹿にしていた者も居る中、その振る舞いや所作は決してあなどる事など出来ない事が誰の目に見ても明らかな雰囲気を醸し出していた。



「……家康である。此度のそなたらの戦ぶり……この家康、感服致した。敵ながらあっぱれじゃ。」

家康のこの言葉には偽りは全くなかった。

この男、無意味な強がりなど決してしない様である。


「恐れ入りまする……。つきましては、徳川様に我が総大将よりの伝言をお伝え致したく罷り越しました。」

澱みなく自信たっぷりの口調で言葉を発する久武。


この使者の態度にもやはり一切の動揺を見せない家康が反応する。

「申されよ…。」



「はっ。率直に申し上げまするっ!徳川様には我が連合軍の軍門に降って頂きたく存じます。」


家康の家臣達はこの言葉にかなりの動揺を隠せなかった。

もちろん連合軍がこの降伏勧告をする為に使者を寄越した事は皆が分かってたのだが、実際に言葉にしてこれを聞くとやはり胸を締め付けられるような感覚を覚えるのだ……。


ただ一人……家康だけを残して。


「ふむ。実に率直な申し出……、そなたも只者ではないな。あっぱれじゃ……。」

家康は心からこの言葉を発していた。



久武は家康と目線を外さぬまま軽く頭を下げた。

「…どうかお聞き入れ下さりませぬか…?失礼ながら……徳川様ほどの聡明さやお力をお持ちの方が織田の手駒の様な扱いを受ける事自体が、我らは理解に苦しんでおります。」


全く物怖じしない物言いにほとんどの者が怒りと同時に呆気にとられていた。


だが、中には我慢出来ぬ者も居た。

「無礼ものめがっ!!貴様っ!!誰にものを申して居るっ!田舎大名の一家臣ごときがっ!!」


その時だった。



「控えろうつけ者めがっっっっっ!!!!」

初めて聞く家康の怒号の様な叱責。





家康の穏やかな表情が一変していた……。

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