第183話 狸の底力
「……大した事ないのぅ……。」
安土城の『天主』にて覇王の余裕で織田信長は呟いていた。
「父上…!さすがにそれは少し言い過ぎでは……?」
焦る様に父を諫めようとする長男・信忠。
「…はははは……。儂に意見する様にまでなったか……。」
「……いえ、そういう訳では御座いませぬが…!本田忠勝と言えば誰もが知る程の猛将…!その忠勝が討たれたとあらば、徳川殿もこれ以上は持ちこたえられないかと……。そうなればこの安土まで一気に連合軍の者共が攻めて来まする……!」
冷や汗をかきながら弁明する。
「まぁ焦るな信忠……。家康の本領はここから発揮される筈じゃ……。」
「奴はこのまま終わる男ではない……。」
「しかし父上…!いかに徳川殿とはいえ、本田忠勝を失い更には兵の数も一万五千との事です…!数の上でも不利な状況……いかにしてこの難局を乗り越えると……?」
三男・信孝が本心から尋ねる。
「…ふっ……。奴は窮地に陥ればとんでもない力と運を味方にしおる……。じっくりと見物させてもらおうではないか……。のぅ狸よ……。」
信長は『天主』から浜松の方に目線を変えうっすらと笑みを浮かべるのであった。
◇◇◇
「残すは浜松城と家康じゃっ!!」
「このままの勢いで一気に落とすっ!!」
連合軍の軍議は威勢がよかった。
だが……、
「まぁ皆の者落ち着かれよ……。」
この雰囲気に水を差したのは立花宗茂だった。
「相手は家康に御座る……。しかも城攻めとならばこの兵力差は全く有利とは言えません。」
この言葉に一同は少し冷静さを取り戻した。
「…立花殿の仰る通り……。家康はこのままたやすく倒れる様な男ではないでしょう。」
盛山がこれに続き、更に場の空気が引き締まった。
引き続き軍議が続く。
大筒の弾は予定通り残り三発。
これが連合軍にとっての切り札である。
「……兎にも角にも油断だけは禁物でござる。初めての直接の対決となる……。」
吉川元春が気を引き締めに掛かる。
そして島津歳久が低い声で語る。
「奴はこれまでも窮地に陥る度に生き延び、その度に力を付けてきたと言われておる。奴からしたら此度のこの窮地は又何か不思議な力を発揮するかも知れぬ……。」
「……後は如何にして兵を進めるか……。」
盛山が頭を悩ませる。
いよいよ家康との決戦に臨む連合軍。
そして家康は不気味な影を纏っていた。
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