第181話  わたしは最強

「…これは儂の血か……。」


初めて感じる感覚だった。

大した痛みはなかったが、それが返り血ではない事ははっきりと分かった。


「……まぁ良い…この儂に手傷を負わせるとは、敵ながらあっぱれじゃ!」


忠勝は少し興奮していた。

戦で初めての傷と流れる血に、自身の闘志の様なものが再び大きくなるのを感じていた。



「行くぞ皆の者ぉぉ!!もう一息じゃぁぁっ!!」


「おおっっ」

「うおぉぉ!!!」

「おおおおおぉぉ!!」


流血する主君を見て驚く者も居たが、その何とも自信に満ちた忠勝の表情に兵達は勇気づけられていた。



そこにまたしても轟音。


「どんっっ!!」



かなり音が近くなっていた。

もうその目標までは手が届きそうな場所まで到達していた。



ここで更に激しい弓矢と鉄砲の雨。

本田軍はその数を二千強まで減らしていた。










「奴らもう目の前まで迫っておりますっ!!」

吉川元春の将兵が叫ぶ。



「やはりとんでもない男じゃ……何が何でもここで討つっ!!」


「怯むでないぞっっ!奴は今まで戦で一度も傷を負った事がなかったという……。」

「じゃがよく見てみよっ!奴の左肩をっ!!」



兵達もこの本田忠勝の武勇伝はもちろん知っていた。

そして吉川元春に言われるがままその姿を見ると、明らかに左の肩から真っ赤な血が流れ出ているのが見えたのだ。


「おおっっ!!」

「あれは返り血ではないぞっ!」

「あの本田忠勝が傷を負ったぞぉぉぉ!!」

「奴もやはり人間じゃぁぁ!!討ち取れぇぇ!!」


伝説の様な強さを誇る武将・本田忠勝も一人の人間。

連合軍の兵達は俄然士気が上がっていた。



皮肉なことに本田忠勝の流血は自軍の兵だけでなく、連合軍の兵達にまで力を与える事となったのだった。




「どんっっ!!」

もう一発の轟音が鳴り響いた。

あたりには煙が立ち込め、舞い上がった土が降り注ぐ。



本田軍は大筒まで到達出来なかった……。

煙が晴れたその戦場には先程までとは違う光景が広がっていたのだ。











「殿ぉぉぉぉ!!!!」

叫ぶ敵兵の目線の先には壮絶な最期を迎えた本田忠勝が立ち往生していた。


先程まで血を流していた左肩から先が失われていた……。

右手で蜻蛉切をしっかりと握ったまま絶命していたのだった。



残された僅かな本田軍兵士達はここで戦意を完全に失っていた。

次々に武器を地面に落とし、膝から崩れ落ちる者。


直ぐに後を追う者……。


大人しく投降する者……。







ここに本田軍は壊滅した。


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