第180話  無傷で帰る者

「本田忠勝……恐ろしい男じゃ……。」


「なんという忠義の者よ……。」


「何としても討ち取るのじゃっ!!」


「又とない機会!ここで奴を討ち取る事が出来れば家康へと一気に道が開けるっ!!」


「良いかぁぁぁっっ!!本田忠勝を討ち取った者には特別な恩賞が与えられるっ!!」




「おおぉぉっっ!!」

「おおっっ!!」





「あと二発……」

盛山が呟いていた。


そう、浜松城攻略の為に残す三発の砲弾。

それを除けば、放てる大筒はあと二発となっていたのである。


猛烈な勢いで突撃をしてくる本田軍。

中には矢や鉄砲に撃たれながらも刀を振り上げ前進する者も居た。

これが本田忠勝の兵……。そして徳川家康への忠義の心……。


敵ながらあっぱれとは正にこの事だろう。


だが、こちらとてここで引く訳にはいかない。


吉川元春が大筒の守りを固める。

そして島津歳久がそれを更に強固なものにする。


後方より援護の矢と鉄砲の攻撃を重ねた。

みるみる内に本田軍の兵がその数を減らしていた。


だがボロボロになりながらも、本田軍の兵は一切脱走兵を出さなかった。

皆が死を恐れずに、名誉と本田忠勝の為に体を突き動かしていた。



そこに容赦なく打ち込まれる矢と弾の雨あられ……。

連合軍の兵も必死であった。


死を全く恐れずに突き進んでくる敵兵は

何よりも恐ろしかった……。


しかし連合軍の兵達もこれまで、様々な死地を乗り越え大勢の仲間の死を目の当たりにてきたのだ。

決して後れをとるなどとは考えていもいない。









「忠勝っっ!!!戻るのじゃぁぁっ!!」

徳川軍の最後方にて総大将の榊原康政が叫んでいた。


今ここで本田忠勝を失う事がどれだけ大きな損失かを痛い程分かっていた康政は、決して届かぬと分かっていても叫ばずにはいられなかった……。



「あの馬鹿者がっ!!責任感が強いのは良い事じゃが!自身の存在の重要性までは未だに理解しておらぬとはっ!!」


「何としても生きて帰るのじゃ……兵を失ってでもお主は生きて戻るのじゃ!!」

どうにもならない状況に焦りと苛立ちを隠せない康政は、ただ祈るしかなかった。



そして反撃として鉄砲と弓で応戦するものの、ほぼ逃げながらの攻撃の為、大きな損害を与える事がで出来ずにいた。




一方……、五千程の兵を率いていた本田忠勝。

彼は未だに戦場で傷を負った事が一度たりともなかった。











だが……よく見ると忠勝の肩から赤いものが滴っていた……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る