第179話  引かぬ媚びぬ……

徳川軍二万がその形をどんどん失っていく……。

連合軍の大筒の前にただ後退するのみとなっていたのである。


「奴らめ……!やはり大筒で押し込んで来おった……。」


「これでは下がる一方ではないか……。」


「じゃが、どうしようもない……。」


徳川軍の将兵達は目の前の現実に為す術もなく下がり続けた。



「どおぉぉぉんっ!!」


再びの轟音。

徳川兵はその数を減らしていく。







「何か手はないものか……。」

榊原康政は兵に守られながら策を求めていた。



「報告致しますっ!!」

現状を伝えに兵が現れた。


「申せっ!!我が軍はどうなっておる!」



「はっ!!……大筒に恐れをなして逃亡する者が後を絶ちませんっ!!」

「……恐らく既に千程の者がこの戦場を離脱したものと思われまする……。」


「更に……討死した者も数百を超えるでしょう……。」



「ぐっ……!!なんという事か。」


頭を悩ませる榊原康政の下に別の伝令が到着する。


「報告っっっ!!」


「どうしたっ!?」


「はっ!!」

「本田忠勝様より伝令に御座いますっ!」



「何っ!忠勝!?……申せっ!」



「はっ!本田忠勝様より大筒への突撃を請う申し出に御座いますっ!!」



「何じゃとっ!?ならんっ!!死にに行く様なものではないか!」

「決して認める事は出来ぬっ!しかと伝えよっ!!」



「ははっ!!」


だが、その時……。



「うおぉぉぉぉっ!!」

「おおぉぉっっ!!」

鬨の声が上がる。


そして更に報告……。

「殿ぉぉっっ!!本田忠勝様が敵の大筒へと突撃を開始しましたぁぁ!!」



「…………!!!!」



「忠勝っ!!馬鹿者めがっ……!!」






「どおぉんっっ!!」


その轟音は本田忠勝軍のど真ん中を直撃した。

しかしそれでも進軍を続ける本田軍。



「怯むなぁぁっ!!大筒さえ抑えれば我らの勝ちじゃあ!!」

忠勝は伝令に突撃の許しを伝える様に命じたものの、それが許されない事はもちろん承知していた。

分かっている上で、連絡として便宜上の伝令を送ったのだった。


死ぬつもりはなかった。

だが、生きてこの目的を達成出来るとも思っていなかった。



「家康様の御為っ!!この身を全てお捧げ致すっ!!」

「榊原殿……申し訳ない!この本田忠勝……戦でしか恩返しが出来ぬのです……。」

忠勝は誰に聞こえるでもなく、だが力強い口調で呟いていた。



「一気に進めぇぇっっ!!大筒のみを狙えぇぇ!!」





「どおおんんっっ!!」



本田軍の隊列にまたしても轟音が鳴り響いた。

更には砲隊隊や弓隊の激しい攻撃にさらされる……。



風前の灯の本田軍。




「……おのれぇ……だが、引かぬぞっ……。」





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