第177話  逆転

「……榊原殿、酒井殿……面目御座らぬ……。」


「この忠勝…、いかような裁きも受ける所存っ!じゃが、家康様の御為っ!ここで朽ちる訳にはいかぬっ!何卒、今一度機会をっ!」



「……まぁ待て忠勝。あの大筒を相手に何か出来る者などおらぬ……。」

「よく戻ってくれた。そなたを失う訳にはいかぬのだ……。先ずはそれで良い。」



忠勝は頭を下げ、軍議の席に着いた。

「……先ずは此度の損失について申しあげまする……。」



「…お預かりした兵の内、本陣まで無事に戻った者は五千程と思われまする……討死した者はおよそ千……。六千程に及ぶ脱走兵が出たものと思われます……。」


「……面目次第も御座らん……。」




報告をじっと聞いていた榊原康政は心の声を漏らす。

「ふむ……。そうか……大筒恐ろしや……。」


「誠……、殿が必死に手に入れた理由が良く分かった。」


「しかし、今となってはこちらには一門の大筒も御座らん……。何という事か……。」



「確かにこれがあれば、殿の大望も近かったであろうに……。口惜しい……。」

酒井忠次はしみじみと、愚痴の様なものをこぼした。




引き続き、連合軍が擁する二門の大筒への対応についての話し合いが続けられる。


「あの大筒を何とかせねばならん……。」


「しかしあまり悠長な事も言うてられん。勢いに任せて奴らが一気に大筒で攻め込んで来るやも知れん……。」


「殿に服部半蔵の工作部隊をお借り出来ぬか……?」



「いや……今、殿の下には服部一族を始めとした守りが僅か三千程しかおらぬ。その中から服部の力までこちらに呼んでしまえば、もしあちらで何か起これば殿の身が危険じゃ……。」


「確かにな……。我らで何とかせねば……。」






◇◇◇






「想定以上の結果じゃった!」


この声に反応したのは吉川元春。

「確かに兵の数は大きく減らす事が出来た……じゃが……。」


続きは立花宗茂が引き継いだ。

「……本田忠勝は討ち取れなかった。これは痛いところですな……。」



明らかな大勝を収めた側の軍議にしては、少し陰鬱な雰囲気が漂っていた。


「浜松城攻略の為……残りの弾は温存せねばならん……。」


「ここであの本田忠勝を討ち取れば奴らの士気や戦力を一気に削ぐ事が出来たものを……無念じゃ……。」



「うむ…しかしこうなっては、事を前に進めるしかない!今一度、気を引き締めねばな。」



「そうじゃ。これで奴らの兵力は二万弱。数では数千ほど上回った事になる。」



「しかもやつらは大筒の恐怖で正面からの攻めはまず出来ぬであろう……。」








両軍の思惑が錯綜する……。

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