第176話 ただ…勝つ
「まさかっ!!」
轟音が鳴り響いた戦場の様子に驚愕する榊原康政。
「大筒かっっ!!??」
「…いかんっ!!忠勝に退却を命じるのじゃっ!!」
「急げっ!!」
「……は、ははっ!!」
「これはまずい事になった……。」
酒井忠次が沈痛な表情を見せる。
「忠勝……素直に引くかの……。」
◇◇◇
「…ぐっっ!!奴らっ!大筒の弾を隠し持っておったかっ!!」
歯を食いしばりながら状況を確認しようとする本田忠勝。
混乱の極みにある忠勝の兵達は我先にと、中央から散り散りに逃げだし始めていた。
「…ひぃぃっっ!!」
「大筒じゃあぁぁ!!」
「逃げろぉぉっっ!!」
忠勝は気丈に指揮を続けようとしていた。
「慌てるでないっ!!」
「陣形を崩すなっっ!!戻れっっ!!」
この忠勝の声に反応し離脱を踏みとどまる者も居たが、それを打ち砕く轟音が再び鳴り響いた。
「どんっっ!」
忠勝の兵の多くは心を折られた。
目の前で、その肢体をバラバラにされる味方の姿を見た者は恐怖を植え付けられるのだ。
「だめじゃぁぁ!!逃げろぉぉ!」
「死にたくないぃっっ!!」
「助けてくれぇぇ!!!」
たった二発の大筒の発射により猛将・本田忠勝の軍は一気に弱体化した。
「……なんと無様なものよ……我が兵達がかくも脆弱だとは……。」
「殿っっ!!お引き下されっっ!!ここは危のうございますっ!!」
側近に促される忠勝だったが、やはり簡単に引き下がる男ではなかった。
「馬鹿者っっ!!儂は本田忠勝である!ここで儂が簡単に引き下がっては殿の御威光に関るっっ!!逃げたくば、勝手に逃げよっ!!」
「殿っ!!酒井忠次様からの御命令で御座いますっ!ここはお下がり下さいっ!!」
「ここで殿を失う事こそ家康様にとっての大きな損失となりますっ!!」
側近の必死の説得に忠勝はすこし冷静になった。
家康様の大望の為にここまでやって来た……。
そしてそれはまだこれからという所である。
「……ぐぅっ!!!」
「…………退却じゃ……。逃げ出す者は捨て置けっ!!」
「ははっっ!!」
忠勝の側近や親衛隊は一糸乱れぬ体系で退却を開始した。
「本陣までっ、一切振り向くなっ!!ただ前だけを見よっっ!!」
忠勝の心は家康の為にあった。
その最中も、大筒が三発放たれた。
指示通り、退却兵は一切後ろを振り返らずに戦場を本陣に向けて駆け抜けていた。
そして、この時点で本田忠勝軍は討死者数を千程にまで増やしていた。
たった一門の大筒の力に猛将・本田忠勝軍はただ逃げるしかなかった……。
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