第173話  本田忠勝かそれ以外か……

「な、何じゃ、あ奴は……。」


「……ば、化け物じゃ……!」


「強すぎる……!」


進撃していた毛利兵は一斉にその足を止めた。



一瞬で討ち取られた毛利兵五名。

そのいずれも、これまで吉川元春の精兵として数々の戦にて功を上げて来た者達だった。


そしてこの衝撃はあっという間に毛利軍全体に伝染した。



「い、いかんっっ!!このままではっ!!」

吉川元春が異常な軍の雰囲気に気付いた。

「引けぇぇっ!!一旦引くのじゃぁぁ!!」



だがその声が掛かるのと同時に本田忠勝も命を発していた。

「一気に掛かれぇぇえっっっ!!!押し込むのじゃぁぁ!!」



明らかな士気の違い。

忠勝の猛将ぶりが一気にこの状況を作ったのだった。


拮抗していた戦いが、徳川軍の圧倒的優勢に変わる。

若干だが、戦意を失い逃亡する毛利軍の兵も見受けられた。

徳川軍はそんな者達には目もくれず、一気に毛利軍を押し込みに掛かった。



敵に背を見せ退却を始めた毛利軍。

僅かずつだがその兵を確実に減らしていた。

そんな中……

「おりゃぁぁぁ!!!!」

「ゆけぇぇぇっっ!!」



徳川軍に突撃する新たな部隊が現れた。

島津歳久の軍だった。



退却する吉川隊の兵の後ろからとんでもない勢いで突っ込んでくる一団に、本田忠勝の兵達も虚を突かれた。


怒涛の進軍を開始した忠勝の兵もさすがにこれには一度足を止めるしかなかった。



「おのれ……島津か!」

「一気に畳みかけられたものをっ!!」


「……、一度引くっ!!陣形を立て直すぞっっ!」


本田忠勝は口惜しそうに兵を引いていった。







連合軍陣内。



「島津殿っっ!!かたじけないっっ!助かり申したっ!」

吉川元春が島津歳久に心からの礼を言う。



「何の何のっ!間に合って良かった。あの本田忠勝の様子を見た瞬間、これはまずいと感じてのぅ。」

忠勝が予想以上も猛将だった事に気付き、歳久は機転を利かせたのだった。



「しかし…まさかあれほどとは……。」


「まさに一騎当千の強者だな……。」


「どうりで余裕をかましていた訳じゃ……。」


「あの将の下に居る兵はさぞかし心強いであろうな……。」


吉川隊の兵達は、次々に本田忠勝に対する称賛や畏怖の感情が口をついて出て来ていた。





「これでは士気が下がる一方ですな…。」

危険を感じた立花宗茂が、盛山に例の策をここで実行する事を提案した。


「あれを早めますか……?」




「立花殿……しかし!それではいざという時……。」


「はい…ですが今が正にその『いざ』と言う時かも知れませぬ……。」


「本田忠勝は想像以上の男の様です。ここで討ち取らねば後々後悔する事になるやも……。」






猛将・本田忠勝。

いかにして討つのか……。

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