第172話  トンボちゃん


「者共ぉぉ!本田忠勝の首、獲りに参るぞぉぉっっ!!」



「おおおおおっっっ!!!」

「おおっっ!!」



「進めぇぇぇっ!!」


吉川元春率いる毛利軍一万が先鋒として進軍を始める。




対する徳川軍。


「敵が動きましたぁぁぁ!!」


「先鋒は毛利軍!率いるのは吉川元春に御座いますっっ!!その数一万!!」



報告を聞いた榊原康政が命じる。

「忠勝!一万二千の兵にて殲滅して参れっっ!!」




「おおっっ!!!!」

待ってましたとばかりに、蜻蛉切の柄を地面に力強く突き立てて気合を入れる忠勝。



「やっと出番が参った!!皆の者ぉ!待たせたのぅ……。」



「……本田忠勝隊っ!出陣じゃぁぁっっ!!!」




「うおぉぉぉっっっ!!!!」

やはり猛将・本田忠勝の兵はほとんどの者が血気盛んな様だ。

この時を心待ちにしていたのが、火を見るより明らかであった。










馬込川の水位は低かった。

一気に吉川の毛利軍が川を渡る!


迎え撃つ徳川の本田兵達。




一進一退の攻防が始まった。

徳川兵が当初思っていたよりも、明らかに毛利軍は精強だった。




「ほぉ……やるではないか……。日ノ本は広いものよ…まだこの様な者達がおるとは……。」

猛将・本田忠勝をもってしてこう言わしめた吉川元春の毛利軍。

先鋒にふさわしい戦い振りを見せていた。



お互いに一歩も引かない両軍は兵の損耗もさほどないままに膠着状態へと突入していた。



「流石にこのままでは埒があかぬか……。儂が出るっっ!!」


蜻蛉切を片手に携えた大男が馬に跨った。


ゆっくりと進み出る忠勝。

叫び声や怒号飛び交う戦場んい対して、その声を発した。



「聞けぇぇっぇいっっ!!我こそが徳川家康様が忠臣。本田忠勝であるっっ!!!!!」


「……命の惜しくない者から、掛かって参れぇぇっっっっっっっっっ!!!!!!!」



この声は喧騒を一瞬で静まり返らせた。

その後、徳川兵が咆哮する。


「うおぉぉぉっっっ!!!!」

「本田様ぁぁぁっっっっ!!!」

「殿ぉぉぉぉっっ!!!!」

一気に徳川軍の士気が上がった。





「ぐっっ!!!あれが本田忠勝っ……!!」

「何と言う迫力じゃ……!」


しかし、その迫力にも動じずに突進する少数の毛利軍が居た。

吉川元春の精鋭部隊の一部であった。



「我らとて毛利様が忠臣じゃぁぁぁ!!本田忠勝の首っ!討ち取ってくれるわぁっ!!!」

「うおぉぉぉぉっ!!」

「おおっっ!!」



忠勝の周りの兵はあっという間に蹴散らされた。

そして忠勝の眼前に迫る毛利兵達……。



本当に刹那だった……。


忠勝に切りかかった毛利兵は五人程居たのだが、次の瞬間にはその全員が馬から落ち絶命していた……。




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