第169話  神の子?

その夜、織田信長の次男・信雄を歓待する宴が催された。

そして上機嫌で酒を煽った信雄はすっかり深い眠りについていた。


それを見計らった様に徳川家康の重臣達は密談を開いた。

深酒に付き合った家康と本田忠勝は参加しなかったが、それもこの密談の為の策だった。



「やはり、どうみて見てもうつけの様に感じるが……。」


「ふむ……上様への進言はやはり咄嗟に出た発言であったか……。」


「じゃが…、上様は何か信雄様に感じる所がおありの様じゃの。」



酒井忠次と本田正信は、どこか掴みどころのない信雄の雰囲気にその心の奥底を計れずにいた。


そこに榊原康政が割って入る。

「しかし、どの道このまま悪戯に時をむさぼる訳にはいかなくなったのぅ……。」

「野戦に討って出て連合軍を蹴散らさねばならぬか。」



「いっそ信雄様を亡き者にしてしまうか……?」

酒井忠次が本気かどうかも分からぬ口調で囁いた。



「それは危険じゃろう……上様はもしかしたら、それを織り込んでの此度の派遣やも知れぬ。もし信雄様を討てば、それを口実に連合軍と手を組み、先ず儂らを攻める事も考えられる……。」

本田正信はこの酒井の発言に真剣に答えた。


思わずゾッとして顔をしかめる酒井忠次と榊原康政であった。



「上様はとはそういうお方じゃ……。」


「あの方は、儂ら徳川が目の前の連合軍と手を組むのは不可能だという事も分かっておるのじゃ。奴らは今、北条氏政と上杉景勝の死によってこれまでにない程団結し、命に代えても儂らを討つ事を考えておる筈……。」



「うむ……しかしこの一手だけで儂らは選択肢を限定されてしまったか。」


三人は織田信長という、底知れぬ器を持つ男の恐ろしさを改めて感じていた。










次の日……。


本田正信は主君・家康に昨晩の密談の結果報告を伝えた。


「……そなたらの頭でも打開策を見いだせなんだか……。」


「誠に面目も御座いませぬ。」

本田正信は隠すことなく自身の不甲斐なさを詫びた。



「いや、上様には叶わぬ……あの方は人間ではない……。」



「……。」



「…やはり神なのかも知れぬ……。」



「殿もその神とやらに近い存在であると私は思うておりまする……。」

榊原康政が家康の目をみて真剣に語った。




「ほほほ……康政、言うてくれるでない。儂は人間でありたいのじゃ。」



「ははっ。」










「……さて……では動くとするかの……。」



「戦の支度じゃ…。神の機嫌を取らねばならぬ。頼んだぞ!」




「ははっ!!」

「はっ!!」

「ははぁっ!!」



徳川軍、戦闘態勢に突入!!

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