第168話  来ちゃった

「何っ!?厄介な事よ……。」

浜松城の徳川家康が顔をしかめていた。


安土城から早馬が着き、知らせがもたらされたのだ。

織田信長次男。信雄が浜松城に入ると……。


詳細は信雄様よりお聞きくださいと。

信長よりの伝言だった。




「しかし何故に信雄様なのでしょう……?」

酒井忠次が不思議そうな顔をした。


「長男の信忠様や三男の信孝様であれば殿の抑えとして送られる事もあるかと存じますが……信雄様となると……。」



「これこれ、酒井殿……。口を慎まれよ……。とは言え、確かにのぅ……。」

榊原康政が諫めながらも、やはり共感してしまうのだった。



長男の信忠は織田家中でも一目置かれており、信長の跡継ぎとしても完璧な存在として認識されていた。

また、三男の信孝にしても長男にも匹敵する才の持ち主として、将来を嘱望されていた。

そんな中、次男の信雄に対してはあまり良い評価や噂は聞こえて来なかった。

長男と三男が出来過ぎなのもあるのだが、それにしても大した才は期待されていなかった。


そんな中、信雄がここに送られた。

上様は一体何を考えておられるのだろう……。

家康の重臣達はその答えを見いだせないでいた。




「上様……、あの方が何もお考えなしにこんな事をする訳がない……。」

家康は信長の企みを推し量ろうとしていた。




それから二日後……。

浜松城に織田信雄が到着。供回りを二十人程従えて入城を果たした。








「信雄様……ようこそ起こし下さいました……。」

家康が、絞り出した敬意をもって挨拶を述べた。



「徳川殿、急な訪問誠に申し訳なく思います…、儂も何故自分が選ばれたか分からぬのですよ……。」



「ほほほ……上様は我らには到底計る事の出来ないお考えがおありなのでしょう……。」



「全く…父上の頭は一体どうなっておるのやら……。」



「して…何か上様からの御指示はおありですか?」




「ええ…指示と言うか……。」



「…ん?どうされましたか信雄様?」




「……実はついこの間……。これからの徳川殿の動きについて父上から、お主の意見をと……問われまして…。」



「ふむ…なるほど。して信雄様は何と?」



「そ、それが…いきなりだったもので咄嗟に出た言葉が、徳川殿に一気に連合軍を蹴散らす事を進言すればと言うてしまいまして……。」



「なるほど……。」



「そう言うた後に父上から、お主が直接、徳川殿の尻を叩いて参れと……。」




「そうで御座いましたか……。」


「上様はしびれを切らしておるのですな……。」



「誠に申し訳ない……。」

信雄は本当に申し訳なさそうに頭を下げていた。




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