第10話 土佐の出来人
一条兼定の居城を前に、翼は長宗我部軍を率いて四万十川の岸辺に陣を敷いた。
既に多くの家臣が彼の旗下についており、彼の名声は土佐を越え四国中に轟いていた。
軍議では、藍もまた彼の隣で冷静な意見を述べ、戦略を練るのに一役買っていた。
一条家と言えば元々、関白の出という破格の家柄で、土佐の盟主たる地位を築いていた。
ほんの少し前までは長宗我部が一条家に対するなどとは、家臣はもとより土佐国中の人間が思いもよらなかっただろう。
しかし今、兵力にしても相手の3.500人に対してこちらは倍以上の7.300人。
これが、歴史の流れの速さというものなのだろうか。
夜明けと共に、長宗我部軍は四万十川を渡河し、一条軍に迫った。
翼は自ら先陣を切り、その勇姿は兵たちに勇気を与えた。
そして、現代の戦術を駆使し、通信機器に似た旗信号で迅速な指示を出し、一条軍の動きを封じ込めた。
そこに翼が考案した独創的な戦術が展開され、更に翼の特殊能力である(敵の動きがスローモーションに見える)という圧倒的チート能力で、一条軍をほぼ一方的にに打ち破った。
後退していく一条軍。
翼の軍は、一条兼定の居城に迫り、城壁を攻撃した。
砲火とともに、土煙が天を覆い、戦の激しさを物語っていた。
一条軍は、もはや兵のほとんどが散り散りに逃亡し壊滅状態となり、風前の灯となった頃。
一条兼定は城から脱出した。
彼の後を追う翼の姿があった。
しかし、すぐに翼は兼定を追うのをやめ、彼に最後の尊厳を与えることを選んだ。
彼のこの決断は、周囲の武将たちにも深い印象を与え、翼の人徳はさらに高まった。
戦は終結。
この間なんとわずか二刻(4時間)ほどだった。
あの一条家に完膚なきまでの圧倒的勝利。この知らせは瞬く間に四国中を駆け巡った。
「土佐の出来人」の誕生である。
戦後、翼は勝利を祝う宴を開き、藍と盛山たちと酒を酌み交わした。
「盛山……藍。よく信じて付いてて来てくれた」
「殿…、まさかあの姫若子と言われた若殿がここまで……。」
盛山は男泣きに泣いた。
藍も微笑みながら泣いていた。
翼の計画と藍と盛山ら家臣の支えによって、土佐はついに統一され、平和な時代の幕開けを迎えた。
そして、戦士としてだけでなく、統治者としてもその才能を発揮する翼の新たな挑戦が始まった。
翼は転生前の元親の知識などではなく、今は翼本人が間違いなく長宗我部元親であった。
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