第8話  安芸城、月下の決断

安芸城はその堅牢さで知られ、翼は籠城戦に備えた。

籠城戦の長期化は避けられないと知りつつも、彼の決意は揺るがなかった。

城の周囲には翼率いる軍が布陣し、城内の動揺を誘う策を巡らせていた。


「安芸国虎は頑固だが、城内の民心はどうだ?」翼は盛山に問いかけた。


盛山は答えた。

「城内の士気は既に低下しています。食料も尽きかけており、私たちの心理戦が功を奏しています。」


藍は気丈に振る舞っていたが、心中では民の苦しみを案じていた。

「籠城戦が長引けば、城内の人々が一番苦しむ。何とかして彼らを救出できないでしょうか?」


翼は藍の提案を受け入れ、小規模ながらも救出作戦を展開する。

夜陰に紛れて、翼の兵士たちは城内の民を密かに脱出させた。



日々が経ち、城内の状況はさらに悪化。安芸国虎の側近たちも次々と翼の説得に応じ、寝返り始めた。


ついに、籠城の一か月が経過する頃、安芸国虎は自らの終焉を悟り、翼に降伏の意を示す使者を送った。


安芸国虎は翼に対面を求めた。翼はその要求を受け入れ、安芸国虎と対面することに。




翼は盛山、藍ら重臣と共に安芸城へと足を踏み入れた。


「長宗我部殿、貴殿の如き英傑に敗れるとは、これも天の定めか…しかし、私には一つだけ願いがある。城内に残るわが兵たちの助命を。彼らはただの命令に従う者ども…。私の命と引き換えに、彼らに生きる道を…」

国虎の声は堅く、しかし内には深い慈愛が宿っていた。



翼は一息ついた後、静かに語りかけた。


「国虎殿、貴殿の命も、我が手で助けたい。」



国虎はハッとした表情をし一点を見つめた。


しばらくの沈黙の後、決然とした様子で翼を見返した。

「貴殿の慈悲には感謝する。しかし、この身が存命であれば、家臣たちが安芸氏再興の夢を抱き続ける。それは新たな謀反の火種となるだろう。土佐の平和と我が家臣の未来を考えるならば、私がこの場で終わりを選ぶべきだと考えます。」国虎には既に翼への敬意が表れていた。


翼は国虎の覚悟に心を打たれ、

いや、これ以上自分がこの時代の命のやり取りの壮絶さに対して、

無責任に「慈悲」などと言う感情など無意味だと知り、

無言で頷いた。

盛山と藍もまた、この重い決断に深い敬意を表した。


「では、安芸の兵たちは全て助よう。彼らの血をこれ以上流すわけにはいかない。」

翼の声は断固としていたが、その瞳には慈悲の光が宿っていた。


国虎は軽く頭を下げ、静かに自室に戻った。

彼の最期は、静かでありながらも、その後の土佐の歴史に大きな一石を投じるものだった。


その夜、城内の人々は安芸国虎の自害を知り、沈痛ながらも安堵の息を吐いた。

彼らの未来は、翼の手によって保たれることになる。


「国虎の決断によって、新たな流血は避けられた。これもまた、歴史の一ページに刻まれるべき決断だ…」

翼は月夜に照らされながら、遠くを見つめ、静かにそうつぶやいた。


盛山と藍は、それぞれの心に新たな決意を秘め、翼の横に静かに立ち、新たな時代の幕開けを迎える準備を整えていた。


安芸城の攻略は、土佐統一の大きな節目となったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る