第2話  盛山

翼は目を擦りながら周囲を見渡す。

彼の周りは古びた和室で、畳の上には兜や甲冑が置かれていた。

窓から差し込む朝の光が部屋を照らしている。



「ここは…どこだ?」翼は驚きの声を上げる。


明らかに知らない部屋。母方のおばあちゃんの家の様な、いやそれとも何かが全く違う。

匂いや音。説明のつかない空気感。感じた事のない雰囲気。


緊張して耳を澄ましてみる。かすかに誰かが話している声が聞こえる。

「ひ……様の…が………」

よく聞こえない。

すると板の間を歩く音がこちらへと近づいているのが分かった。

まだ何も状況を理解していないにもかかわらず、恐怖は感じなかった。



ドアが開き、一人の中高年の男が入ってきた。

「若殿、もう目覚められたのですか?」彼は礼儀正しく翼に一礼する。


翼は男を見つめて考え込む。


彼の脳裏には昨夜、光一から聞いた長宗我部元親の話が蘇る。



そして、ようやく自分が元親としてこの時代に転生したことを理解する。


なぜか、それほど混乱することなく受け入れる事が出来た。


翼は男に尋ねる

「あの…、私は…元親です…か…?」。


男は微笑みながら答えた。

「若殿。何をお戯れを。では私はあなたの忠実な家臣、盛山でございますか?。」


翼は少し戸惑いながらも、現状を受け入れることに。


翼は盛山に、自身が転生者であることや、現代の知識を持っていることを説明した。

この時もなぜか、スラスラと全く澱みなく、戦国時代の人間に説明する事が出来ていた。


そして、盛山は驚きつつも、これまたあっさりと翼の言葉を信じたのである。

そればかりか、翼の説明を聞くとすぐに、

「それならば、若殿の知識を生かして、この土佐をもっと強くできるのではないでしょうか?」

この時代に、これだけ未知のものに対して物分かりの良い人間が居るものだろうか?

とんでもない適応力である。純粋にこの男の能力なのか、それとも転生したことによる細かい擦り合わせの様なものが発生しているのだろうか。


「若殿?」


翼は我に返った。


盛山が返答を待っていた。


翼は決意の表情を浮かべる。

「ん!確かに! 現代の知識を活かして、土佐を四国一の国にしてやろう!」


すでに漫画やアニメで観ていた異世界転生者のポジティブ思考になっていた。


しかし、その前に翼は一つの問題に直面する。

彼は「姫若子」という渾名で家臣たちにからかわれていた。

翼はその名前が気に入らない。


「盛山、その“姫若子”って呼ぶのやめてくれない?」翼は少し照れくさい表情で尋ねる。


盛山は笑顔で答えた。

「わかりました、若殿。しかし、それには家臣たちを驚かせるような武勇伝が必要でございますな。」



翼は笑みを浮かべる。「それなら、大丈夫だよ。任せて」

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