Sonata for Piano No.30

ゆきのともしび

Sonata for Piano No.30





墨汁をまぜ込んだような


暗闇の息吹を



肺のおくまですい込む




そこにあるのは



闇と  静寂と


ほんの少しの ともしび  だけで



わたしはもう


いやらしい笑みの仮面はかぶらず



なにもしなくたって



うるさい小人はもうねてしまっている





おだやかに人見知りをしているような空気に



ベートーヴェンピアノソナタ30番が流れる




一楽章 Vivace, ma non troppo



その16分音符は


真珠のようなひかりを携え


わたしの目の前を通り過ぎていく





うつくしさとかなしみは



コインの裏表なんじゃないかと


あるひとにきいたら




いや うつくしさとかなしみは


乗りものや ひとの足のように


両輪であるとおもうんだ




そのひとはこたえる




ひかりとちいさな花束が 


月明かりにてらされ



目のまえにそっと


おとされた




ああ



祈りと鼓動の 二楽章がはじまる



わたしは息をすいこむ




希望と花束を横目に





 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Sonata for Piano No.30 ゆきのともしび @yukinokodayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ