第6話 伝説、集結

 フレスタと出会ってからおよそ2ヶ月。


 俺とフレスタはいつも通り王城の警備をしていた。

 と言っても、王城内に入ることを許可されているのは俺だけなので、フレスタには城壁近くの場所を警備してもらっている。


 離れていても、魔法で通信ができるので、この3000年の間に起こったことを聞いてみた。


『そうね、特に大きな戦争や災害は無かったわね、ただ………』

「ただ?」

『最近、魔族の動きが活発なの』

「ほう?」

『私たちが魔王を倒してからは、まだおとなしかったんだけど、最近になって………』

「人を襲い始めたか?」

『そう言う訳じゃないんだけど、最近、目撃情報が多発してるの』

「ふむ」

『それで、もしかしたら………』

「ディラストと手を組んだことも考えると、新たな魔王がいるかもしれんな」

『そうなの』


 魔王は前世で滅ぼしたはずなのだがな………

 確か、魔王には娘がいたか………?

 もしかしたら、あり得るかも知れない。


『主人よ』

「フェル、来たか」

『はい。王城の城門までお越しを』

「分かった。フレスタ」

『何?』

「他の仲間が到着したらしい。城門まで来てくれ」

『分かった!』


 早速王城の門に向かう。


 ◇


「デガント、マーリナ、エレラ!」

「おーい!」

「ん?おい、あれ」

「あら?フレスタと………」

「ライナス、なの?」


 俺たちの声に反応したのは、鋼人族ドワーフで格闘家のデガント=バーレスタ、人魚族マーメイドで回復魔導士のマーリナ=ラーレイラ、不死族アンデットで暗殺者のエレラ=レイシアの3人だ。


 これにエルフを加えた4種族は長命な種族で、ドワーフは2500年、マーメイドは5000年、アンデットは実質、寿命がない。


「みんな、久しぶりだね」

「えっと、ライナス、で良いのか?」

「ああ、姿は変わったが、性格、記憶は勇者ライナスそのままだ」

「魔力の波長が分かる私が言うんだから間違いないよ」

「それもそうね。それにしても、姿が変わるだけでこんなにも印象が変わるなんてね」

「うん。前は自信に満ち溢れた風貌をしてたのに、今では完全に目立たなくなってる」

「なんだ?影が薄いって言いたいのか?」

「そ、そう言う訳じゃ………」


 周囲から笑いが起こる。

 その様子を見て俺は思う。


(懐かしいなぁ)


 昔は他の仲間と笑い合い、讃え合い、共に冒険をしていたことを覚えている。


「ただ、もう一度全員で揃えないのが悔やまれるな」

「…………」


 仲間はこれだけではない。

 他にもいたのだが、おそらく、寿命的な問題でこの世には既にいないだろう。


 人類族ヒューマンで攻撃魔導士のレスター=ニコラス、獣人族アニマラーで戦士のマーニャ=ライオレア、龍人族ドラグナーで騎士のファフレア=ルーニー。

 これにさっきの3人と、勇者の俺、賢者のフレスタを加えた8人が、伝説の勇者パーティー、“暗闇の閃光”だ。


「それで、ライナスがこの世界にいるってことは、何か起きたのか?」

「いや、そう言う訳ではないんだが、もしかしたら、魔王が復活したか、誕生したかしたようでな、どう動こうか考えていたところだ」

「魔王が………」

「ああ、それで、フレスタは俺についてきてくれるそうだが、お前たちはどうしたいのか聞きたくてな」

「なるほどな。お前が言うなら真実なんだろう。だが、俺は遠慮するぜ。エルフやマーメイドのような寿命を持っていないからな。流石にもう動けねぇよ。今回も、お前に会ってみたかっただけだからな」


 そう言ってデガントは拳を振って見せる。

 確かに、全盛期の時よりも拳の速度が明らかに落ちている。


「私はついて行くわ。ずっと海底にいたら暇だもの」

「私も行く。また仲間と楽しくいたい」

「良いのか?2人とも、部族の長じゃなかったか?」

「ふふっ、私たちはもう隠居したのよ。だから暇はいっぱいあるの」


 これは心強い。寿命的にもまだ動ける2人が来てくれるのはありがたい。


「………ありがとな。それじゃあ、人数は少しばかり違うが、勇者パーティー、再結成だ」


 俺は新たに仲間が2人加わったところで、勇者パーティーの再結成を宣言した。


「話がまとまったみたいだな。それじゃあ、俺はもう帰るとするよ」

「もう帰るのか?」

「ああ、お前の元気そうな顔が見られただけでも安心したよ。もし、魔王討伐の旅に出るってんなら、こっちにも寄ってくれや」

「あぁ。エレラ、デガントを送ってやってくれ」

「分かった」


 そうして去って行く2人。

 その背中に俺は呼びかける。


「デガント!なるべく長生きしろよ!!」


 振り返ったデガントはそれに答える。


「あったりまえよ!」


 2人が見えなくなったところで、俺は2人に指示を出す。


「さて、俺たちも職務に戻らなきゃな。マーリナはフレスタと一緒に城壁外の警備を頼む。説明も、フレスタからその時受けてくれ」

「分かったわ」

「フレスタ、エレラが戻ってきたらこっちに教えてくれ」

「了解!」

「それじゃ、頼んだぞ」


 ◇


 かつての仲間と出会い、再び勇者パーティーが結成されてから、1ヶ月。

 冒険者ギルドから呼び出しがかかった。

 ギルドに向かうと、ギルドマスターの部屋へと通された。


「久しぶりだね、アオイ君」

「ええ、お久しぶりです、マスター」

「今のところは、変わりないそうだね」

「はい、特に目立った襲撃や暗殺などはなく、王城内、王城外共に平和です」

「ふむ、それは何より。結成したパーティーのメンバーも、良くやってくれているようだな」


 実はあれから、パーティー結成申請をして、正式にパーティーとなったのだ。

 元々、冒険者ギルドにはフレスタ、マーリナ、エレラの冒険者登録はしてあったので、スムーズに事が進んだ。


「それにしても、元勇者パーティーメンバーを3人集めて、それを従わせるというのは、中々だな」

「恐縮ですね。それで、今回の依頼とは?」

「ああ、今回、君たちパーティーに頼みたいのは、国境近くのドラゴン討伐だ」

「ドラゴン、ですか」

「ああ、現在、東部の国境付近にドラゴンによる輸送団の襲撃が多発していてな、君たちにはその討伐に向かって欲しいのだ」

「なるほど………」


 最近、輸入物資の不足が激しいと聞いていたが、冒険者ギルドが動く程とはな。

 それにしても、ドラゴンか。

 腕を試すにはちょうど良い相手だ。


「ちなみに、なんで俺たちなのかは………」

「ああ、ギルドからは、CランクパーティーやBランクパーティー、国からは軍隊も動いているそうだが、どうやら全く歯が立たないらしい。そこで、まだ動かせる数少ないSランクパーティーの君たちに依頼が飛んできた訳だ」

「なるほど………これ、もし受けたとして、王都の防衛はどうします?」

「ああ、それについては、ギルドのAランクパーティーの半分を動員して警戒に当たらせる。最悪の事態は防げるはずだ」

「なるほどです」

「受けて、くれるか?」

「もちろんです」


 俺が快く承諾すると、エリスタさんは笑顔で頷く。


「そうか。頼んだぞ、“夜明けの太陽”」

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