第7話 ドラゴン討伐
依頼を受けた俺たちは、王都の守備防衛を10組のAランクパーティーに一旦引き継ぎ、東部からの物流を脅かすドラゴンの討伐に向かっていた。
馬車に揺られることおよそ3日。
国境直前の街、ワイミグが見えてきた。
街に着くと、まずこの街の冒険者ギルドに向かった。
「“夜明けの太陽”の皆さんですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
そうして案内されたのはギルドマスターの部屋だ。
「ようこそ、我がギルドへ。私は冒険者ギルドワイミグ支部のギルドマスターをしているシェイム=オーレスタだ」
そうして自己紹介するのは、見事に髭を蓄えたダンディーな人だ。
「よろしくお願いします、シェイムさん。まずは、現況を教えてもらえますか?」
「ああ、現状、ドラゴンは1体しか確認されていないが、偵察隊によると、付近にはドラゴンの巣のようなものが発見されているため、その全容は未だ分かっていない」
「なるほど、ドラゴンの種類は?」
ドラゴンにも種類がいる。
従魔にもいるフレイムドラゴンやフロストドラゴン、サンダードラゴンの他に、飛行を得意とする
「現在確認できているのは、Aランクのフレイムドラゴンのみだ」
「現在戦っている戦力は?」
「Cランク8パーティーに、Bランク5パーティー、軍隊が300だ。現在は近くのキャンプ地まで退避している」
「なるほど、大体分かりました。それでは、我々の出撃はいつにしましょう?」
「いつでも良いが、なるべく早くして貰いたい」
「分かりました。こちらも準備があるので、明日出撃しましょう」
「了解した。宿はこちらで紹介しよう」
「ありがとうございます」
「それでは、よろしく頼む」
俺たちはギルドを出て、一旦紹介された宿へと向かう。
「そういえばだけど、フロスちゃんを呼び戻したりできないの?」
フレスタが聞いてくる。
「正直、できないことはないが、王都の防備を減らすことはしたくないのと、他にもドラゴンがいる可能性がある以上、従魔に任せるのであれば、他にも連れてくる必要がある」
「そっか………」
「あとは、現場の混乱を防ぐためもある。まぁでも、俺たちならどんなのが出てきても倒せるだろ」
「そうね。なんせ魔王を倒したんだもの」
「私たちに勝てる人はいない」
「確かに!何も心配ないね!」
ころっと表情を変えたフレスタに、表情が緩む。
「全員、死ぬなよ」
「うん!」
「ええ」
「了解」
◇
〜君嶋優香side〜
「かかれ!!今こそ奴を潰すのだ!!」
「こっちに回復をくれ!!」
「こっちも大変だぞ!!」
「攻撃来るぞ!!」
目の前の巨大なドラゴンの口から巨大な火球が放たれ、周囲の戦闘員を吹き飛ばす。
瞬間、気温が上がり、私たちの体力を奪って行く。
「氷攻撃魔法【
私は遠距離から氷の弾丸を放ち、気温を下げるとともにドラゴンへと攻撃をする。
しかし、気温を下げることにエネルギーを奪われた魔法は、ドラゴンへと有効な攻撃を与えられない。
すぐに魔法を撃とうにも、詠唱に時間がかかり、その間に次の攻撃をされてしまう。
「一体、どうしたら………」
そう迷っている時間にも、ドラゴンの攻撃は続く。
その時、ドラゴンの尻尾が薙ぎ払われ、クラスメイトで同じパーティーメンバーの複数人が吹き飛ばされる。
「みんな!!」
「うぅ………」
すぐさま回復魔法を発動するが、回復魔法に適性がないため、回復は遅々として進まない。
「きみ、しま………」
「何!?どうしたの!?」
「逃げ、ろ………」
「はっ!?」
味方の治療に集中していて気がつかなかった。
目の前には、ドラゴンの火球。
防御、間に合わない、回避、不可能。
瞬間、思い浮かべたのは、碧の顔。
あの幼馴染の笑った顔、怒った顔、困った顔、悲しそうな顔………
いろんな碧の顔が思いかんでくる。
(いやだ!いやだいやだいやだ!!死にたくない!まだ死ぬ訳には行かない!!約束したんだ!碧と、一緒に居られるように頑張るって!!)
火球の熱を感じ、現実へと引き戻される。
そこで、絶望を見た。
(あぁ……ダメだ……私は……ここで、死ぬのか………碧との約束を果たせないまま、ここで………)
ここまで、物凄く頑張ってきた。
大切な人と一緒にいるために、たくさんの依頼を受けて、数々の戦闘をこなして、Cランクまで登ってきた。
挫折しそうになっても、碧のことを思い浮かべて頑張ってきた。
悔しさから涙が出て、その涙すら、火球の熱で消されてしまう
そして、火球が体を包む直前、呟く。
「碧……ごめんね………」
私は目を瞑り、体をこわばらせる。
瞬間、懐かしい声が聞こえた。
「空間防御魔法【
来るはずの衝撃が来ないことに違和感を感じた私は目を開ける。
そこで、私は助かったことを自覚する。
「いやはや、こんなゲテモノ相手に良くやったよ。お前らは」
目の前にいたのは、かつては全く頼れなかったのに、こちらに来てから、物凄く頼りになる、私の大切な幼馴染が、いた。
そして、私の想い人は、振り返って何でもないように笑うのだ。
「あお、い………」
「よぉ、元気してたか?優香」
〜高畑碧side〜
正直、これは予想外だった。
キャンプに着いたとき、そこはすでにもぬけの殻で、ドラゴンの元へと向かった時には既に戦闘が始まっていたのだから。
「少し妙だったんだよな。これだけの軍勢がいて、Aランクのフレイムドラゴンが倒せないのか?ってな。だが、見てみて合点がいった」
コイツは、フレイムドラゴンなんて生ぬるいもんじゃない。
「コイツは、SSランクモンスター、
火炎龍王、フレイムドラゴンロードは、通常のフレイムドラゴンよりも強い力を持ち、全ての物体の融点を超える火球を作り出すことができる。
ランク的には魔王にすら匹敵し得る力を持つモンスターだ。
「SSランクだと!?」
「俺たち、そんな化け物と戦ってたのか!?」
「そ、そんな、それじゃあ、俺たちに、勝ち目は………」
討伐隊の間に絶望が流れ始める。
まぁ、だが………
「正直、今の俺の敵じゃないな」
俺の力は、魔王を討伐した後も上がっている。
なんせ、魔王を討伐してから死ぬまで、さらなる高みを目指して特訓していたのだからな。
「さて、どう料理してやろうか」
俺は片手に剣を構え、舌舐めずりをする。
直後、危険を感じ取ったのか、ドラゴンが火球を放って来た。
それを横に回避すると、今度は尻尾の薙ぎ払いが襲って来た。
上に飛んで回避とともに、剣を胴体に叩きつける。
ガキィン!!
「おおっ、硬いなぁ」
俺の剣は見事に強固な鱗に阻まれてしまう。
「でも、硬いからと言って、打撃が効かない訳ではないんだよな」
瞬間、俺は右手を引き、その反動と共に左ストレートを繰り出す。
すると、若干ドラゴンの体がよろめき、後ろへと下がる。
「良いねぇ、効いてるねぇ。正直、もっと楽しみたいところなんだが、味方の被害が凄くてね。そろそろ終わらせよう」
―スキル魔法帝《
俺はスキルを発動してノータイムで魔法を発動する。
「氷攻撃魔法【
俺の魔法によって現れた氷の花がドラゴンを全身氷漬けにする。
それを確認した俺は徐に右手を振り上げ、前へと振り下ろす。
「トドメだな。雷攻撃魔法【
瞬間、空から降って来た蒼雷が、轟音とともに氷の花ごとドラゴンを貫き、ドラゴンは塵となって消滅した。
◇
〜君嶋優香side〜
「つ、強すぎる」
私たちがどれだけ束になっても倒せなかったあのドラゴンを、到着からわずか数秒という短時間で倒してしまった。
「あ、碧………」
「優香、お前、強くなったじゃないか。SSランク相手に、よく攻撃を通せたもんだ。普通は攻撃なんざさせて貰えないレベルのモンスターだぞ?」
「あ、ありがとう………」
碧が褒めてくれた事実に嬉しくなる反面、まだまだ実力が足りていないことへの残念感が襲ってくる。
「そう落ち込むな。確か、今はCランクだったか?」
「う、うん」
「Bランクへの昇格には、Bランク以上の署名が5ついるんだったか?」
そう、Bランクへと上がるには、Cランクの依頼を10個、Bランク以上の冒険者5名の署名が必要になる。
「そうだよ。今のところ、3つしか集まってないんだけど………」
「それなら、俺が書いてやる」
「え?い、良いの?」
「ああ、強くなったご褒美だ」
「あ、ありがとう!!」
署名用紙を取り出すと、碧はペンを取り出してサラサラと名前を書いてくれる。
「頑張れよ」
「うん!私、この調子で頑張るよ!」
〜高畑碧side〜
「さて、それで………なぜ、我々の到着を待たなかった?討伐隊指揮官ヒーデスト=カイザー」
「そ、それは………」
俺たちと討伐隊は、一度キャンプ地へと戻り、そこで俺は指揮官と話をしていた。
フレスタたちは外で怪我人の治療をしている。
「そちらにも我々の援軍が来ることが伝えられていたはずだ。指揮官である以上、現場の全ての命を預かることになるのだ。それを1人の軽率な判断で失ってしまっては、取り返しがつかない。それは分かっていただろう」
「も、申し訳ありません。確かに、私の判断でドラゴンの巣へと向かいました。ですがそれは、皆様の到着までに、なるべくドラゴンの体力を減らそうと―――」
「―――指揮官、それは本当に真実か?」
「っ」
俺が言葉に違和感を感じ、カマをかけてみると、分かりやすく言葉に詰まる。
「指揮官、俺はあまり嘘をつく事が好きではない。確かに、その嘘が人を救うものであるのならば、まだ許容できる。だが、この場における嘘は、この場にいる千と数百の命を危険に晒す嘘だ。流石にそれは俺も見過ごせん」
「………」
俺がしっかりとした意志を持って言うと、ヒーデストは顔を伏せ、考え始める。
「真実を話せ。内容によっては然るべき対応を取るが、少なくとも、お前に危害を加える、または加えさせるような事はしない」
数秒の沈黙。
その末に、ヒーデストは口を開く。
「………本当は、疑っていました。あなた方のことを」
「……ほう」
「これまで、“夜明けの太陽”なんていうSランクパーティーも、アオイ・タカバタなんていうSランク冒険者も、聞いたことがありませんでしたから」
まぁ、確かにうちのパーティーが結成されたのはつい最近だし、俺自身Sランク冒険者になってから半年程しか経っていない。
さらにはその半年ですら、王都防衛に当たっていたのだから、仕方あるまい。
「それで、私は思ったんです。「本物かどうか怪しい奴らなんかに頼らず、自分たちだけで戦果を上げてやろう」って」
「それで、独断で討伐に乗り出したと」
こくりと頷くヒーデスト。
「なるほどな。俺の信用が無いことは想定していた。そこは俺の落ち度だ。謝罪する。だが、さっきも言った通り、指揮官とは現場の全ての命を預かる重役だ。その指揮官の軽率な行動による死は避けねばならない。死んだ者は戻らないのだからな」
「はい………2度とこのような事が起こらぬよう、対処してまいります」
「ああ、今回はこちらにも非があることだ。上への報告は不問に処しておこう。今日は疲れただろう。もう遅いし、休むと良い。周辺の警戒は任せろ」
外を見ると既に暗くなっていた。
キャンプ地では戦勝パーティーが開かれており、お祭り騒ぎになっている。
「周辺の警戒ですか?それでしたら、こちらで用意しますが………」
「いや、お前たちは長い戦いで疲弊していただろう。今日ぐらいは自由に飲み食いして寝て欲しいのだ」
「………分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「ああ」
俺はテントから出て、パーティーメンバーを集める。
「これから俺は、あのドラゴンの巣へと向かおうと思う」
「ええ?今から?」
「ドロップアイテムも全部回収して、多分何も残ってないわよ?」
「ああ、実はな………」
俺は理由を話し、周辺の警戒を3人に任せて、単独で巣へと向かった。
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