第5話 因縁、ダンジョン

 中村は剣を引き抜くと、すぐに斬りかかってくる。


「死ねぇ!」

「おっと」


 雑な振り下ろしだ。

 俺はそれを半身になって躱し、返しの突きを放つ。


「そらっ」

「甘いぜ!!」


 それを横に飛んで躱した中村はこちらに踏み込み、剣を横に振る。

 俺は向かい来る刃を切り上げ、威力を極限まで抑えた袈裟斬りを繰り出す。


「ほいっ」

「テメェの力ごと、き!?」


 中村も同じく袈裟斬りで迎え撃ち、こちらを押し飛ばそうとするが、俺の体どころか、剣すらびくともしない。


「やっぱりこんなもんか」

「ど、どうして味噌っカス如きを押し返せねぇ!?一体どうなってやがる!?」


 激しく動揺する中村に俺は冷静に告げる。


「あぁそういえば、言ってなかったな。俺のランク」

「あぁ!?テメェのランクは、Eだろうが!!」

「いいや違う」

「はぁ!?」


 俺は先程中村が言った言葉を返す。


「お前みたいなクソ雑魚には教えないんだが、同じクラスのよしみだ。特別に教えてやるよ」

「なんだと!?」

「俺のランクは、Sだ」

「………は?」


 良い顔してやがるな。


「ここで俺に勝てるようであれば、冒険者ギルドにSランク昇格を要請しても良かったんだがな」

「う、嘘だ!テメェ如きが、こんな短時間でSランクになんか、なれるわけがねぇ!!」

「嘘だと思うなら冒険者ギルドにでも聞いてみろ。俺からしたらどうでも良い事だ」

「く、クソがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 乱暴に剣を振り始める中村。

 ヤケになったか。まぁ、こうなればもう勝負にすらならん。


「………所詮はこの程度か。流派を使う価値もない。そろそろ終わらそう」


 俺は振り下ろされた剣に突きを放ち、真っ向から叩き折る。

 そのまま中村の首に剣を突きつける。


「終わりだな」

「ぁ…………く…………」


 俺は剣を鞘に納め、背中を向ける。

 瞬間、背後に殺気を感じる。


「それで勝って、お前は嬉しいのか?」

「っ!?」


 俺は振り返り様に拳を躱し、左のジャブを顎に入れる。


 パァン!!


「ぐ、ぁ」


 脳を揺らされた中村はよろめき、無防備な胴体を晒す。


「しばらく寝てろ。紅葉無刀流[木枯一閃こがらしいっせん]」


 ドゴン!!


「ごぁ………」


 冷たい木枯らしのように冷徹な拳が、鳩尾の少し上、水月に直撃した。


「鳩尾は即死急所。俺の威力だと死にかねんのでな。代わりに即倒急所の水月を狙った。死んではないはずだ」


 今度こそ俺は身を翻し、ダンジョンに入っていく。


 ◇


 ダンジョンに入ると、すぐにDランクモンスターのスケルトン5体がお出迎えしてくれた。


「まぁ一階はこんなもんか。サクッと最下層まで行っちゃおう」


 俺はそのまま真っ直ぐ進み、スケルトンとすれ違う際に一瞬だけ剣を抜いて、骨共を細切れにする。


 すると、ポンと手元にレジ袋サイズの麻袋が現れる。


「ああ、ドロップアイテムか。後で換金するのもありだな」


 俺はそれを【道具箱】に収納する。


 ドロップアイテムは、特定のモンスターを倒す事で手に入るアイテムだ。

 こちらもレア度に応じてEからSSSランクがあり、種類もさまざまなアイテムが存在する。


 先程手に入ったのは『スケルトンの大腿骨』。

 武器や薬に加工されたりと、さまざまな用途のあるDランクアイテムだ。


「さてさて、次の階への階段を探そう」


 しばらくダンジョン内にいるモンスターを切り刻みながら歩き回っていると、下へ続く階段を発見した。


「お、ここだな。サクサク行こう」


 そこから俺は順調に各階層を攻略し、最下層である10階にたどり着いた。

 目の前にはボス部屋への扉がある。


「ふぅ、長かったな。早めに潰しておこう」


 俺は扉を押し開け、中に入る。

 中には一体のモンスターが鎮座していた。


「………死霊騎士王、デュラハンロードか」


 デュラハンロード。

 アンデッド系の魔物で、物理攻撃を得意とする魔物。

 Sランクモンスターであり、闇属性、物理攻撃に対して耐性があるのが特徴だ。


「厄介ではあるが、まぁ、俺の敵じゃないな」


 デュラハンロードは持っていた槍を構え、こちらに向かってくる。

 俺はそれに対して、奴の弱点属性である光魔法を発動する。


「遅いな。光攻撃魔法【光矢ライトアロー】」


 放たれた一本の光の矢は、奴の鎧を貫き、消滅した。


「下級魔法でも貫けるのか。弱いな。いや、俺が強いのか?」


 そう、今放ったのは、下級魔法。

 俺の魔法攻撃力ならば、下級魔法であっても一般人の上級魔法レベルの力を持つ。

 おそらくだが、今、闇属性の上級魔法を放たれても、さっきの【光矢】で相殺できるだろう。


 腹部を貫かれたデュラハンロードは、その場に倒れ、霧散する。

 俺の手には奴が使っていた槍が生み出される。


「ん?アレが使ってたやつか?」


 ―――


 アイテム名

  魔槍カラドボルグ


 ランク

  SS


 スキル

  不壊   SS

  必中   S

  主人帰還 SS


 ―――


「なるほどな。投げたら絶対に当たって戻ってくるのか。殺意高すぎだな」


 俺がその槍を【道具箱】にしまうと、体が浮く感覚がして、次の瞬間、ダンジョンの外に強制転移させられた。


「おっとと………おお、入り口が無くなってる」


 ダンジョンの入り口の方を見ると、その場所は完全に塞がり、ダンジョンが消えていた。


「これで危険は排除できたな」


 俺がなぜこのダンジョンの攻略を急いだのか。

 その理由は、俺は前世に、同じような防衛戦を経験したことがある。

 その時に、街の近くにあったダンジョンを利用され、陥落寸前にまで追い込まれたのだ。

 なんとか俺が巻き返し、侵略軍を追い返すことには成功したが、このような事例が今の時代にも起こらないとは限らない。

 だからこそ、俺はこのダンジョンの攻略を最優先にしたのだ。


 俺はダンジョンの消滅を確認した後、王城に向かおうとした時、声が聞こえた。


『我が主人よ』

「フェルか。どうした?」


 フェルから連絡が入った。


『実は、とある者が主人に会いたいと』

「ほお?それは誰だ?」

『それは、ご自分の目で確かめた方がよろしいかと』

「分かった。どこへ行けば良い?」

『隠れ家までお越しください』

「分かった」


 俺はすぐに駆け出し、隠れ家へと向かった。


 ◇


 俺が隠れ家に着くと、そこには意外な人物がいた。


「フレスタじゃないか!」

「久しぶり、ライナス」


 そう俺のことを懐かしい名前で呼ぶのは、前世で俺が旅の仲間として選んだ1人。

 尖った耳、輝く銀髪、当時から2000年も経っているのに変わらない美貌、その身に宿る莫大な魔力。

 彼女の名前は、フレスタ=サイウォン。

 長命族エルフの魔導士であり、かつての勇者パーティーの賢者だ。


「それにしても、良く俺が分かったな」

「ライナスの魔力は間違えないよ。この世界に突然現れたからびっくりしちゃった。その姿を見るに………転生しちゃった?」

「ああ、偶然にな」

「そっかぁ………でも、その姿も好きだよ?」

「ははっ、ありがとう。フレスタの方は、最近どうなんだよ」


 俺が最近のことを聞くと、フレスタは胸を張って待ってましたと言わんばかりのドヤ顔で言う。


「実はね、エルフの族長になったのだよ!」

「おお、すごいじゃないか」


 確か、前世で彼女は族長になるのが目標だと言っていた。


「目標、叶ったんだな」

「うん。ずっと、ライナスに直接言いたかったんだよ。姿は違うけど、またこうして会えて嬉しい」

「ああ、俺もだよ」


 正直、あの転生は俺にとって救いでもあった。

 前世に、心残りがあったのだ。

 フレスタもまた、俺の心残りの一つ。


「それで、私の夫になる決心はついた?」


 そう、俺は前世に、彼女から告白を受けた。

 俺は、その返事をしないまま、死んでしまったのだ。

 ただ、このまま告白を受けるのも、それはそれで心残りはあるわけで………


「………悪いな。決心がつかないわけじゃないんだが、心残りがあってな」

「そうなんだ………なら、ライナスの決心がつくまで、待ってるね」

「………ああ、助かる………それで、お前はこれからどうするんだ?」


 俺がこれから先のことを聞くと、彼女は当たり前のように言う。


「ライナスについて行くよ。あ、今は名前違うんだっけ?」

「そうだが………良いのか?俺についてきて。お前、族長なんだろ?」


 それにフレスタは笑顔で答える。


「族長である前に、私は勇者パーティーの一員だよ?勇者について行かなくてどうするのさ」

「………フッ、そうか。なら、他の仲間も集めないとな」

「大丈夫だよ。私が他のメンバーにも伝えてあるからね」

「さすが、仕事ができるな」

「あったりまえよ!」


 そんな会話をしながら俺は思う。


(ああ、懐かしいな)


 今は少しだけ、この時間を楽しもうと思った。

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